「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
ぬいぐるみのドギーの語る言葉に耳を傾けて—苦しみを昇華した研ぎ澄まされた言葉
2004/10/23 21:12
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まざあぐうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
表紙の写真の悲しげな眼差しの少年が、主人公のジェニングズ・バーチです。六人兄弟、四人の兄ジョージ,ウォルター,ラリー,ジェロームと,弟ジーンにはさまれた下から二番目の八歳の少年です。心臓病のため長期にわたって入院している兄のジェロームと五人の子ども達を一人で育てている母親が病弱なため、ジェニングズと弟のジーンは児童施設への入所を余儀なくされました。
時代は、1950年代のアメリカ、ジェニングズが初めて児童施設に預けられるところから始まり、施設を転々として、セルという親切な男性に引き取ってもらうまでの数年間の試練の日々が語られています。
初めて入所した施設では夜になると、希望する子にはぬいぐるみが与えられました。ぬいぐるみを抱いて寝てもいいのです。しかし、抱いていたはずのぬいぐるみが、目覚めた時にはありません。寝付いた子ども達から、シスターが取り上げ、鍵のかかった戸棚にしまうのです。施設の友達マークは、「夜になると動物は檻に入れる。それが、ここのホームのルールなのだよ」と言う。ジェニングズは、少しずつ施設の「ルール」を体得してゆきますが、「友達を作ってはいけない」というルールを守ることだけは辛いことでした。
アルコール中毒で一家を顧みない父親、病弱な母親、酒に浸っている長兄、心臓病で入院中のジェローム、家出を繰り返すラリー、劣悪な環境に育ちながらも、ジェニングズは感受性が豊かでやさしい心のままにまっすぐに育ってゆきます。
ジェニングズは二度目の入所の時に、ぬいぐるみをシスターからもらい「ドギー」と名づけました。施設で過ごさなくてはならない寂しさや母親への思いをぬいぐるみのドギーに語るようになりました。ジェニングズは、大切な友達マークの死、大好きな兄ジェロームの死、母親の首の大怪我など様々な試練に出会いますが、ぬいぐるみドギーを心の支えに、乗り切ってゆきます。
聖マイケルの存在を教えてくれたシスターやぬいぐるみのドギーを与えてくれたシスター、一時的に預けられたフレイザー家の女中のマーサーや虐待に耐えかねて施設から逃げ出し動物園に隠れていたジェニングズを助けてくれたデーリー巡査、行く先々で親切な大人たちに出会います。特にバスの運転手だったセルには大きく支えられました。
大人になったジェニングズのそばには、今もぬいぐるみのドギーがいます。ジェニングズ少年の心をそのまま受け止めてきたドギー、子どもの頃の自分を労わるようにぬいぐるみのドギーを見つめている著者の眼差しが感じられます。
極貧、劣悪な環境で過ごした幼児期、シスター達によって運営されている施設の中で公然と行われる児童虐待や養子としてもらわれていった家庭での虐待、わずか50年ほど前のアメリカで実際に起こった悲惨な体験を語る著者の言葉と出会った友達や親切な人々との楽しいエピソードを語る著者の言葉に偏りがなく、読者として、事実をありのままに受け止めることができました。大人になった著者は、ドギーの言葉に耳を傾けているのではないでしょうか。純粋な子どもの心が、研ぎ澄まされた大人の言葉で綴られています。
苦しい体験を昇華した作者と翻訳者の塩谷紘さんの出会いも必然であったのかもしれません。美しい日本語に訳されていることを感じます。購読していた日本語版リーダーズ・ダイジェストをなつかしく思い出しました。
劣悪な環境の中で、ジェニングズ少年は、常に希望を持ち続けました。極貧と病弱な身でありながらジェニングズの母親は、自分の子ども達を自分の元で育てることをあきらめませんでした。環境に恵まれていながら希望の持てない日本の少年少女達に、そして、平和で経済的に恵まれていながら子どもを虐待する日本の親達に、ぜひ読んでほしいと思う一冊です。