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紙の本
17世紀イギリスを象徴する時代精神とは
2010/03/12 01:14
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yjisan - この投稿者のレビュー一覧を見る
千年王国論とは近い将来キリストが「再臨」し、「地上に」キリストの王国が誕生するという一種の救済論、救世思想であり、現世的であることに特徴を持つ。この思想の源流は古く、既に古代ローマにおいて『旧約聖書』ダニエル書や『新約聖書』ヨハネの黙示録20章の解釈をめぐる論争の中で盛んに議論された。
千年王国論は大別して、キリストの再臨を千年王国の前に置く「前千年王国論」と、千年王国の後に置く「後千年王国論」の2つがある。中世に入り、千年王国を地上における教会の勝利の歴史の比喩とみなすアウグスティヌスの見解(「無千年王国論」という)が登場すると、ローマ=カトリック教会はこの考え(神の国は今、ここにある)を正統的な教義に据え、未来に千年王国を期待する救済信仰を異端として排斥した。
しかし千年王国論は救済を望む草の根の民衆や異端的な預言者によってひそかに受容され、16C後半―17Cイギリスにおける黙示録解釈の発展の中で再び歴史の表舞台に躍り出る。
だが研究対象としては、千年王国論は長い間異端であった。マックス・ウェーバー以来、ピューリタニズムを近代的精神の萌芽として捉える見方が大勢を占め、また「第5王国派」をはじめとする1650年代の過激で異端的なカルト・セクトの千年王国論に研究の焦点が置かれたため、千年王国論は中世的で狂信的な思想でピューリタン革命の本質とは無縁の「あだ花」と考えられてきた。しかし1960年代以降、千年王国論研究は著しく発展を遂げ、千年王国論は革命を主導した独立派から末端の民衆や兵士層にまで広く受容された普遍的思想で、ピューリタン革命と不可分のものであるという新しい捉え方が生まれた。
本書もこの新しい潮流に属するもので、特に1980年頃から英米圏の歴史学界を席巻した「修正主義(revisionism)」の影響を強く受けている。「修正主義」とは、議会制民主主義や自由主義という目標に向かって歴史が不可逆的に進んでいく(俗な言い方をすれば「正義は必ず勝つ」)という「進歩史観」を批判し、実証研究にもとづいて歴史の多様性・偶発性を重視する研究手法のことである。著者は、修正主義によって「17世紀イギリス史」が大幅に書き換えられた研究状況を踏まえて、近代合理主義を生んだピューリタン革命と、非合理的で非現実的な「千年王国論」との関係を鮮やかに解き明かしてくれる。
結局のところ従来の歴史家は、進歩的な市民が封建的な権威を打倒するプロセスとして革命を描いてきた。極論すれば革命を美化してきた。しかし実際に革命の原動力となるのは、理路整然とした議論ではない。むしろ非理性的な熱狂こそが歴史を動かすのである。本書は、そのことをスリリングな形で提示してくれた。
岩井淳『千年王国を夢見た革命』との併読をお薦めする。