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やすらかに今はねむり給え・道 (講談社文芸文庫)
やすらかに今はねむり給え/道
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電子書籍
やすらかに今はねむれない
2015/11/24 04:31
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投稿者:garuhi - この投稿者のレビュー一覧を見る
「通称三菱兵器大橋工場」へ学徒動員された「N高等女学校」の少女たちの昭和二〇年五月二一日から八月九日までの「日常」が淡々と再生されている。妙子の日記と無田先生の工場日記に基づいて、原爆投下前の人々の意識に寄り添って、選び抜かれた硬質の言葉だが、ごく普通の描写として淡々と綴られている。それは、あの悲劇と呼ぶにはあまりに酷たらしい破局に向かう地獄への道。現在から見れば、米国による原爆投下は狂気である。そして、現在で言えば中学生、一四・五歳の少女たちを、兵器生産に動員せざるを得なかった「神国日本」もまた、尋常ならざる日常の中にあった。それを林京子は、ごく普通の言葉で淡々と書いた。それもあの日から、三五年も経ってから。
それは、悲劇と言うよりカリカチャーに近い。違和感を抱えながら読み続け、読み終わった。
読み終わった直後には、それほど強かったわけでもない胸の中に澱んだ得体の知れないものが、時間の経過に比例して大きなものに、無視し得ないものに育っていく。それはなんだろう。
林京子自身も言っている。「自分は原爆に遭わなかったら文章は書かなかった」と。中上健次に「原爆ファシスト」と命名されても、それを敢えて引き受けて書き続けざるを得なかった、林京子の「何か」を引き受けて生きていきたいと思う。