紙の本
敗北者は破滅の道をゆく
2017/10/19 22:40
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投稿者:J・P・フリーマン - この投稿者のレビュー一覧を見る
友人の奥さんを妊娠させてしまった男が、妊娠の事実を告げられてから行方不明になってしまう。崩壊した家庭は不協和音を奏でながらバラバラに崩壊していく。しかし、二つの家族とその友人たちを巻き込んだ愛憎劇の裏には、ある計画が潜んでいた。人は人を憎むと、どれだけ冷酷になれるのか、そしてどこまで自分を犠牲にできるのか。
紙の本
ミラーにしてはやや普通か
2000/11/26 11:37
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投稿者:OK - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語はおなじみの失踪事件から幕を開け、友人どうしだった二組の夫婦の愛憎劇や破綻していく関係を軸に展開する。普通小説風ともいえる描写なのだけど、最終的にはきちんと逆転劇があって犯人の策謀が暴かれる、かなりまともにミステリ的な解決を迎える。逆にいえば『鉄の門』と同じく、終盤がふつうの種明かし的な展開に終始してしまうのでやや物足りなかった。
この小説にはそれまでのミラー作品で描かれたような、明らかに精神を病んだ人物はほとんど登場してこない(ロン・ギャラウェイの前妻ドロシーがいちばんそれに近いけれど、話の筋には大して絡まない)。にもかかわらず、何人かの登場人物はやはり充たされない日常から逸脱して、異界から「二度と戻れない」境地に至ってしまった。まあ、そういう話をやりたかったんだろう。
妻にいつもひけめを感じていた夫、というモチーフは傑作『まるで天使のような』にひきつがれている。
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ミステリーの枠に閉じ込めてしまうのは勿体無いくらい、ドラマチックな内容でした。人間心理の移り変わりが、本当にこの物語が起こったのかと思うくらい巧みに描かれています。ちょっと出てくるだけのキャラクターにも物語を持たせているあたり、愛情を感じますねぇ。そして不思議なのが、どの人物の気持ちにも頷けるところがあるんです。それだけに最後のどんでん返しにはショックを受けました。この人の気持ちは分かっていると思ってたのに、そんな面も持ってたの?と。でも言われてみれば小出しにそんな一面を垣間見せていたんですよね・・・。A.E.ハウスマンの詩の「殺す風」、まさにその通りのラストでした。この人は確かに巨匠だわ〜。
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ミラーって好きじゃないんだけどね(笑)何時の間にか、5、6冊読んでるよ。多分、すごーーく面白いとか感動するとかじゃないけど、安定してるからなのかな? ある夜、夫が失踪してしまって、回りが探すんだけど結局自殺したのが発見される。って、事件らしい事件もなく進んでいく。妻や、前妻や、友人とその妻や、出てくる人が皆本音では何を思ってるのかわからなくて、恐い。迷路に迷い込んだような感触になる。
面白かったよ。
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躁鬱病のように、生の不安定さに振り回されながら生きている。私はこの小説のキャラクターにそういう印象を受けた。
これがミラーの味かと言うとかならずしもそうではないと考える。台詞回しにもそんな傾向は色濃く出ていて、もちろんそこにさみしさが横たわっているのはミラーの筆致だろうが、その他の部分はと言うとそうは言い切れない部分がある。国柄かもしれない。
ストーリーの妙というより、人物の心理描写などの動きの表現が一つ一つ行き渡っていて(少しフラグ臭くはあるものの)素晴らしい。静かで気だるい空気がたまらない。
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図書館から借りました
推理~?
推理ですね。
ずるい気もしますが。
舞台はカナダの田舎町。
電話は交換手が必要な、古い時代。
別荘には電話がないし、電報がまだまだ現役。
地元の名士、ロンが行方不明に。
てんやわやする友人と、妻。
前半、ロンはもう殺されていそうだなと思う。
嫁さんに殺されてそうだと思った。(嫁さんのエスターはロンが親友ハリーの妻セルマと浮気していると疑っていた)
後半。
なんだ、自殺か、と納得する。気が弱い人だったから、セルマがロンの子供を身ごもったということがしれて、入水自殺を~。
でも?
ページ数がだいぶ残っているから、絶対どんでん返しがあるぞ、とわかっていた。
だって、 マーガレット・ミラーの作品ってそうなんだもの。
後半になって無夜はてっきり、ロンが生きていて、浮気相手で子供まで作った親友の奥さんと一緒にアメリカに逃げたのかと思っていたのに。そうか、みんなの人物評通り、そんな犯罪すらできない人だったのかー。被害者でしかないのか。
ロンの親友ラルフ・チェリーがメインの語り部。貧乏くじを引かされた感じで、この嫌な事件に最初から最後までかかわり、親友達を失っていくわ、最後に大荷物が託されるわ。
チェリーは常識があるだけに、しんどいよなー。
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2017年復刊フェア書目。
ストーリーとしては割とストレートなタイプだが、登場人物間の駆け引きが面白い。ミステリよりも心理小説の系譜に近いような読後感だった。
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マーガレット・ミラーは、頭のおかしい人を書くのがうまい。
あからさまにおかしい人も、実はおかしかったという人も共にうまい。
だから読者としても、期待通りに、
「出たーーー!!」
「来たーーー!!」
と、実に楽しく読めるのだ。
だが、この一冊で、うまいなあと思わず唸ってしまったのは「そのへんの人」の描かれ方である。
事件に関わってしまった幾人かと、その家族もさりながら、ひょんなことから、関わってしまった人々がいい。
小さな町に住む、年金暮らしの女性とその娘。
おとなしくて行儀のよい、世間からちょっと外れた11才の少女。
職務に飽きていないといえば嘘になるが、実直に勤めている女性教師。
仕事ひとすじながら、子供の相手がうまく、冗談も言える五十男の警官・・・・・・
それぞれ出てくるのは少しの場面だけなのだが、それだけで、彼らの居間や生活、過去や人生が、読み手の鼻先にまで迫ってくる。
彼らの緊張、困惑、好奇心、ユーモア、息づかいが感じられる描きように、舌を巻くしかない。
そして、出てくる夫婦の会話がよいのだ。
仲のいい夫婦は、会話が噛み合っている。
お財布の中身の話、子供の送り迎えの話、事件にまつわる話。やりとりには楽しいリズムがある。さらに、そんな会話の間に、長年連れ添ってよく知っているはずなのに、改めて、相手の個性に呆れたり感心したりする。
夫婦の姿はかくあれかし。
だがしかし、冒頭に出てくるのは、仲に冷たい風の吹く夫婦なのだ。
「どこへいらっしゃるの?」
「先週話しただろう」
以下、冷え冷えとした会話が続く。悪意は伝わる。なくても勘繰る。
誰も望まない、居合わせたくもない夫婦の’’団欒’’である。
でもいいのだ!
だって夫はそんな妻も子もおいて、週末をロッジで過ごすのだから。
長いつきあいの、気の置けない仲間たちと、楽しくやるのだから!
そんな待ちに待った嬉しい休暇のはずが、しかし、誰もがすごしたくない休暇となる。
鍵のかかったドア、閉じ込められた招待客、レッドラムを名乗る謎の人物に次々と殺されていく!!
・・・・・・というのは、ありそうもない週末だが、こちらは違う。
誰もが体験しかねない、望まない週末の形なのである。
「そのへんにいそうな人たちが過ごす、誰もにありそうな週末」
望まない週末を、この本で、ぜひ。
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丁寧な心理描写で描かれた人間関係。大人なミステリだと思います。私としては、意外な結末。
そう、確かに、敗者への共感があるね。
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大体、こんなことだろうと想像した通り。ミラーは2冊目だが、何故こんなに持ち上げられるのか私にはわからない。普通小説としても大して読みたくなるようなものでもないし。
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カナダのヒュ-ロン湖、ジョ-ジア湾を背景にした、中年夫婦たちの日常の交流と、それぞれの”愛離苦別”の物語を、犯罪を匂わせる出来事など微塵も窺わせないまま、巧みな物語の展開に飽かせず最終章へと雪崩れ込むが・・・。やがて、驚きのエンディングが待ち受けていたのだ。「ヤラレタ!」の一言。【マーガレット・ミラ-】と、夫【ロス・マクドナルド】は、20世紀中盤に活躍したおしどり夫婦。
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ミラーさんを読むのは三作目。サスペンス・ミステリというジャンルだが、心理描写と品がよくて気の利いたさりげないギャグが彩を添える。
練り込まれたストーリーが冴えて、思いがけず残酷で悲しい結末は一読再読に値する。一気読み。どちらかというと軽いノリから始まるが「まるで天使のような」に近い作風になっている。
始まりは専業主婦の思いが淡々と流れていく。この部分が長い。ここはじっと我慢。
ミラーの残酷な作風は少し鳴りを潜め、今回はやや文芸作品に近い表現で紹介される登場人物の動きを楽しむ。
なかでもよくある子持ちの専業主婦の典型的な心理というより、それぞれの日常生活の中で、表面は静かに満たされているようでいて、心の中では浮かんで消えるようにみえた澱が、少しずつたまっていくというのに大いに共感する。やはり女流作家の面目躍如。
それが異常な出来事に出会ったとき、思いがけずあふれ出す、身勝手な、時に切ない思い、微に入り細をうがつに近いまさに女性作家ならではの名作。
ロン・ギャラウェイは底が浅い男だった。資産にものを言わせそれに依存していながら、取り繕ってどんな楽しみも逃さない風を装っていた。彼なりに仲間たちの中で頑張っていた、妻のエスタ―に見透かされていたとは知らず。
そんな彼が四月の中頃の土曜日の夜、消えた。仲間と待ち合わせて彼のロッジに釣りに行くと言って出たまま。
出がけにエスターは何かと話を振って彼を苛立たせた。先妻のドロシーを引き合いにだした、既に二人の子供にも恵まれ敵意も消えかけた今になっても。
ロンは薬品のセールスマンのハリーを拾っていくことになっていた。ハリーは仕事上薬に詳しく回りの人たちに重宝がられていた。
ロンの仲間たち4人は皆教養と収入に恵まれ、時々集まって日ごろの垢を落とすことを目的に、伸び伸びとタガを外して釣りやゴルフやアルコールに溶かして紛らせているのだった。ただ大学教授のチュリーだけは4人の子持ちで経済的にも汲々だったが、学があり教養があるという地位にいることで、仲間の財力を小ばかにした態度で金を借りていたが、お互いそれもアルコールに溶かしていた。
その日ロンは来なかった。一緒に来るはずのハリーは又も遅れてきた。セルマのせいだ。彼は遅く結婚したが妻のセルマに夢中で常に振り回されていた。仲間はセルマはどこかおかしいと思ってはいたが口には出さなかった。それなりにロンの遅刻を心配していた。
ロンは一度ハリーの家に寄って妻のセルマと話していた。その時セルマはロンの子供を妊娠していることを打ち明ける。
夫のハリーは病院で子供を持てないと診断されていたが、外では夫婦ともに子供は望んでないと言い切っていた。
ロンは崖から転落して亡くなっていた。少し前にバルビツールを飲んでいたが死にきれずシートベルトを締めたままで車ごと湖に沈んでいた。警察は薬はためらい傷のようなものだと解釈して事故死だと認めた。
死ぬ前に妻のエスター宛にセルマの子供の父親は自分であると書いた詫状を送っていた。
エスターはなかなかでき���人である。彼女も不倫の末先妻と離婚したロンと一緒になったのであり、ロンの先妻のドロシーは病んで死を目前にしている。贖罪の意味もあったのか財産を分けることにはこだわらなかった。
セルマは子供が持てたことを喜々として受け入れ、ハリーと別れることを決心した。ロンの莫大な遺産は子供が相続することになった。
その後泥酔状態のハリーが市電にぶつかり頭を強打して入院するという騒ぎがあったが、幸い命にかかわることもなく無事退院。
ハリーはセルマと別れてアメリカの支社に向かって旅立っていた。時々手紙がきて恋人を見つけたので結婚する、と幸せそうだった。その後転職してボリビアの油田で働くことになったと書いてあり徐々に遠ざかっていった。
セルマは男の子を産んだ。その後消息は途絶えたが、カリフォルニアからかわいい男の子の写真が送られてきていた。
チュリーはアメリカの大学に赴任することになった。これを機に二人を探して会ってみたいと考えた。
チュリーは地図を片手に、旧友に会うためならと一大決心で虎の子の家計費を使うことにする。
さぁここからが面白い。
セルマはチャーリーという男と、ハリーはアンという魅力的な女と結婚していた。
ミラーさんの手の中で踊らされてしまったけれど、あっさりと敗北を認めた。
ミステリでもなんでも作者にはごまかされない覚悟で読むのだが、こう淡々とした日常の謎、特にどこかおかしいようなそうでないような人の心理描写は巧みで歯が立たない。変わった人は罪を犯すにも意外な方法でそれもありがちな生活の些細な出来事の中に姿を隠す。
また、現実でも他人の家庭は謎だ、友情も一皮むけば何かとかしましい。そんなことを書いているミラーさんは読者を暮らしの謎に巧妙に導いていく。
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いかんせんだいぶ古いタイプのミステリで、白黒の無声映画を見ているような印象。
セルマが子どもに向かってオレンジの話をするシーンはとても印象的でよかった。子ども時代に辛い思いをした人のその後の人生における自己肯定感の持ちづらさや親の嫌な部分が自分に遺伝してしまうことのべったりと嫌な感じなど、長い年月のさまざまな寂しく暗い部分が凝縮されて、陰影が濃い。
ラストだけがよかったなー雲や鳥の話など。その手前の大どんでん返しは心からどうでもよかったけど。狂ってしまった男の悲しさや、その男についていく女の寂しさ。探偵役が皮肉屋の大学教授だったのもよかった。凡庸な皮肉よりも現実は苦いのだと、そのコントラストを噛み締めるべき人間は彼以外にはいなかった。
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コロナで図書館は閉まり本屋さんにも行き辛い中、本棚からミラー氏を読み捲ろうと手にした。今までのも、どれ一つ同じ趣向のものはなく、再読でも堪能できた。
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宮部氏の自伝のような「大宮部本」みたいな中で、マーガレット・ミラーを褒めてたんで探し求めて読みました。
ルース・レンデルを10倍薄めたような読み味でした。
なんとなく、邦題も似ているかんじで。
読んでしばらく経っているけど、ちゃんとスジも覚えていられるし、読んでる最中は
飽きさせず、最後まで楽しく読めたんですが。
読後感が、なんとも中途半端なかんじで。
イヤでもないし、カタルシスもないし、不穏感もなく。
「あらーーー」というオバサン特有の相槌に尽きる、だけ。
これ、舞台がカナダなんですけど、アメリカへの劣等感というか羨望というか
そういうのが垣間見えて、興味深かったです。