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宗祖ゾロアスター (ちくま新書)
宗祖ゾロアスター
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紙の本
めくるめく情熱と幻想の6千年紀
2001/03/16 23:43
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:鍼原神無〔はりはら・かんな〕 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の「あとがき」によれば、「題名を『宗祖ソロアスター』としたのは出版社の意向」「どこまでもその『漂伝』を書いたつもり」とのこと。
著者の言う「漂伝」とは何のことでしょうか。
「実伝、あるいは正伝はいつか岡田明憲氏あたりがきっちりしたものを書かれるだろう」と言われていて。「実伝あるいは正伝」と対照されるのが「漂伝」なわけですが。誤解を恐れずに言うならば、大まかには、ここで言われる「漂伝」とは、「ゾロアスターを巡る幻想の系譜」といった内容と言えるでしょう。
もちろん、東洋文庫で『ゾロアスター教論考』を編んだ著者のこと、たんじゅんな稗史の類ではありません。
「西洋世界が最初に受けとったアジアの宗教者はゾロアスターであった」と語りおこされ、「しかし、ギリシア人はゾロアスターがいつの人であったのか、すでに知らなかった」と説かれるこの本が示すのは、様々な時代に語られたゾロアスターについての言説の背後に、あり得べき「善思」を求めた人々の精神の運動を視る、そうした「幻想の系譜」です。
ロマンチックな内容の本ではあります。読者は、著者の豊富な教養が惜しげもなくばらまかれた、幻想の6千年紀にめくるめく思いを味わえるでしょう。
しかし、この本の内容は決して願望充足型のふやけたロマンチシズムには堕していません。
この本の末尾近くでは次のように語られています。
「ゾロアスターは、ヨーロッパが意識した最初の異者の、アジアの思想であった」「母斑〔ゾロアスターの思想の比ゆ:筆者補記〕を自己の中の他者性ととらえ直し、ゾロアスターの思想をユマニスムの拡大の契機として据え直すのにどれほどの時間と迂路と燃えるような情熱が必要であったか、心急ぐ私たちは今いちど想いを巡らしてもよいのではないだろうか」
「自己の中の他者性をとらえ直す」「燃えるような情熱」の持続。ヘロドトスからニーチェに至る、時間と迂路を経た、ロマンの一系譜。
これが、この本に散りばめられた言説の痕跡から、著者が指し示そうとしているものでしょう。
「あとがき」で著者が「ぜひあわせて読んでほしい」と読者に乞うている、同著者の編書『ゾロアスター教論考』(平凡社,東洋文庫,ISBN 4-480-0578-0)も併せ読まれるとよいでしょう。
あるいは、岡田明憲、著『ゾロアスターの神秘思想』(講談社現代新書,ISBN 4-06-148888-0)の併読も、ハンディーでよいかもしれません。