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紙の本
シリーズ中、作者が一番気に入っている作品らしい
2001/04/21 06:56
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投稿者:旅歌 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは良い。とてもリアルで臨場感があって木目が細かく、極上の警察小説といえそうだ。ストックホルム警視庁のマルティン・ベック主任警視(この物語から主任警視−表記は警視長だけど)が主人公の警察小説なのだが、ストックホルムが舞台となるのはこれが初めてだ。満を持して、というヤツかな。巻頭にストックホルムの地図があって、これがとても役に立つ。公園、通り、地域、地下鉄駅…名前が出てくるたびに地図を参照した。極北の街なのだが、夏のためかこれと言った特徴が感じられなかったのが残念といえば残念。これも先入観なのかな? 熱さの描写が意外だった。
さて、今回の敵は連続幼女殺人鬼である。平行して、公園を舞台に歩行者を狙った連続強盗事件が起きている。作者の仕掛けは細かく、読者を惹きつずにはおかないだろう。物語の起伏の作り方も非常にうまく、これに毎度のリアルで綿密な捜査状況や捜査員たちの焦燥感が被さって、前2作からは想像もつかない極上の警察小説に仕上がっている。後半から幕切れに至る部分があっけなさ過ぎたのと、プロットは確かにうまいがあまりに一直線で、もっと複雑な二転三転する謎が欲しいとか、犯人がちょっと、が減点かと思う程度だ。捜査陣の焦燥感が痛いほど伝わる。彼らの正義感が胸を打つ。いやあ、シリーズを読みつづけてよかった。
『ロゼアンナ』にしろ『蒸発した男』にしろ、割とワンアイディアに頼りがちな印象が強かった。前者は単純なフーダニットではないが、一人の殺人者をずっと追いかける内容で、一点に集約された謎をずっと引っ張り続ける。後者は異郷の地を舞台にして、謎が少しずつ形を変えてはいるが、起伏に乏しい上にトリックもワンアイディアだった。いずれも複合的なたたみかけるようなサスペンス性には欠けていたと思う。それがこの物語では見事に化けた。前2作来の緻密さリアルさを継承しながら、息をもつかせぬサスペンスを作り上げたのだ。証人の作り方、証拠の取り出し方。とりわけ見事なのがベックの喉に引っかかった、犯人の人相に関する記憶である。喉に引っかかった魚の骨のように取れそうで取れない。これが物語にリズムをつけ、読者にベックと同化するための極めて有効なきっかけを与えているのだ。
普通らしさを追求する作者は、人物ひとりひとりにも気を配る。警邏する警官、証人を見つける警官、犯人に迫る警官。ただ、これがパターンになってぼくらに読めてしまうのが良し悪しなんだけど。人物について言えば、今回からグンヴァルト・ラーソン警視が加わった。この肉体派警官が加わることによって、警官群像に想像以上の厚みを与えている。これも見事。人間臭い男たちが繰り広げる戦い。残忍な連続強盗犯が一転して捜査に加担するという逆転の発想の見事さ、人間観察の鋭さ。
だが残念なのが前述の通り、犯人の造型なのである。サイコな犯人が薄いのだ。時代的なものですね。無いものねだりはしないことにしよう。ミステリ的に言えば、あまりに直線的すぎるきらいがあるでしょうし、犯人に意外性を求める人には向かないかもしれませんね。それでも、警察小説の傑作であるとこは間違いない。ストックホルムを舞台に、多彩な警官たちに思いっきり感情移入して、彼らの正義感溢れる活躍を堪能して欲しいのだ。