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商品説明
養護施設で育った珠子は園長のすすめで四国の霊峰、剣山の中腹にある剣神社宮司夫妻の養女となった。剣山の四季を背景に無垢なたましいを持ち続ける少女の成長と恋を描く宮尾文学の新境地。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
宮尾 登美子
- 略歴
- 〈宮尾登美子〉1926年高知市生まれ。高坂高等女学校卒業。62年「連」で女流新人賞、72年「櫂」で太宰治賞、77年「寒椿」で女流文学賞、79年「一絃の琴」で直木賞をそれぞれ受賞。他に「蔵」など。
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紙の本
「おばさん向け」の印象が強い宮尾文学ですが、花好き・乙女の純潔に興味ある人に適。
2001/03/26 11:36
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本が発売されてすぐの頃、著者の宮尾登美子さんが朝のNHKニュースにゲスト出演した。ほんの僅かの時間のインタビューだったが、いつもながらに凛とした美しい立ち居振舞、穏やかな微笑に番組の空気が変わった気がした。
その日、私が仕事で立ち寄った書店で、「宮尾登美子の『天涯の花』はありますか?」と店員さんに声をかけている女性を見かけた。50代か60代の地味な主婦風の人だった。
残念ながら、その店には配本がなかったか配本が既に売れていたようで、その人はとても残念そうに帰っていった。店員さんの方も朝のニュースのことは知らないらしいし、宮尾登美子という名前にもピンときた感じではなかった。
しかし、その日、このようにして何十人かそれ以上の女性が、この本を買う意志を持って日本じゅうの書店に足を運んだことと思う。その人たちはきっと、高度成長期によく働いた男の人たちを支え、下の子を背負いながら上の子をうまくあしらい、洗濯板でおしめの汚れをこすっていた。子どもに少しでも多くを食べさせるため、自分のおかずを皆に気づかれないようにそっと減らしていた。そんな女の人たちなのだと思う。
家族が元気で楽しく過ごせることが自分の幸せと思い、路地の野草の開花や小鳥のさえずりに日々の喜びを見出してきた、賢明で健全な主婦である。宮尾文学の人気をそういう人たちが支えているという感じはよくわかる気がする。
波瀾に富んだ人生の女性たちが、環境に翻弄されながらも強さを徐々に獲得して、自分なりの決意のもと幸せをつかんでいく…という流れが、宮尾文学の主流である。そんな女性の「一生」を追いかけた大作が多い。
だが、この『天涯の花』では、施設で育てられた珠子が、施設を出て四国の霊峰・剣山の神社の宮司の老夫妻に養女としてもらわれた昭和35年から、義母を看取り、二人の男性の求愛に揺れた結果ひとつの選択をする昭和40年までの十代の後半だけが描かれている。
人けのない山奥で、神に仕えながら老いた父母をいたわる少女は、剣山に咲く野の花を眺めることを唯一の楽しみとし、無垢でうぶ、けがれのない性質で、今の同年代の女性たちには、あまりにも非現実的な存在かもしれない。
だが、自分の居場所を探し、誰と生きていくかに悩む姿には共通するものがあるのではないか。
人気の松たか子ちゃんによって舞台化されたことであるし、これに限ってはヤング・アダルトの意識で多くの人、とりわけ若い女性に手にとってもらってもいいのではないかという気がする。
従来の宮尾文学と異なる点は、清らかな山の自然、特に高山植物の美しさの描写が豊富なことである。
中でも、剣山の特定の場所に8月のある時期にしか咲かないというキレンゲショウマという花は、二人の男性によって珠子の姿に似ているとたとえられた植物である。
写真かと見まごう表紙の装画を眺めながら、人知れず咲く花のロマンチックな存在に思いを寄せて読み進めば、俗塵にまみれたまま忘れかけている清涼なものに胸が満たされていく。
ぶ厚いけれど、とても読みやすい文体だと思う。