紙の本
「ずれ」と「きれ」
2001/12/12 00:25
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投稿者:しっぽ - この投稿者のレビュー一覧を見る
皆川博子という初めて読む作家の本です。タイトルにひかれて買ってみました。ファンタジーかと思ったらホラーでした。そういう系統はあんまり読まないんだけど、この本はなかなかでした。
10個ほどの短編は、すべてすごく日常的なシチュエーションから始まります。でも、何かが少しずれているの。そのずれかたがきれい。日常が少しずつ違った世界にスライドしたり、別の時間や空間が侵食してきたりする。その置き換わっていくイメージが、生半可なファンタジー小説なんかよりは、美しくて手ごたえがある。
例えば、ぼくは長野まゆみさんの作品とかはあんまり好きではありません。読んだ作品はそんなには多くはないんだけど。彼女の作品の中にでてくる異界のイメージというのが、臆面もないくらい「まっとうな」幻想に思えてしまうからです。彼女の語るイメージや使用している語彙が、みかけのはなばなしさや、きらきら加減とはうらはらに、どこかで見たこと読んだことのある「ファンタジー」という枠組みからはみだすところがないような気がするのがつまらなく思うところです。もっとも、そういう作品だから好きという人がいるのもわかりますが…。
短編は作品によってはできにばらつきがある気がします。すべての作品で、物語の最後には異界が日常を覆い尽くします。その異界のイメージ自体はすごく好きなのですが、ラストシーンでの切れ味に差が出てきます。スパッと切られて日常からスッ飛ばされてしまう作品もあるけど、どことなくひっかかりがあって素直に物語の流れに呑まれることができないものもあります。でも、こういう幻想ホラーも面白いんだなあと再認識しました。
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夢うつつ、狭間で不条理に揺れる登場人物。姉と弟、座敷牢といった魅力的なモチーフ、死者のセッション、未来からの警告、時間と空間が交錯する10篇の不思議な物語。
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タイトルに惹かれて読んだ一冊。たまご猫と書くとかわいいイメージですが、作品自体は怖いです。(2003.2.14)
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遺書さえものこさずに自殺してしまった姉が、いたずらに鉛筆で紙に書き散らしていた
"クライン・キャット"という謎めいた文字。この奇妙な言葉だけを頼りに、生前には知りえなかった
姉の素顔をさぐろうとした妹を待ちうける、不可解な恐怖の正体とは?
日常生活にぽっかりとひらいた陥穽を描いた表題作「たまご猫」をはじめとして、夢とうつつの
狭間に生じる不条理を題材とした、妖しくも美しい、10篇の恐怖のかたち。
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遺書さえものこさずに自殺してしまった姉が、いたずらに鉛筆で紙に書き散らしていた“クライン・キャット”という謎めいた文字。この奇妙な言葉だけを頼りに、生前には知りえなかった姉の素顔をさぐろうとした妹を待ちうける、不可解な恐怖の正体とは?日常生活にぽっかりとひらいた陥穽を描いた表題作「たまご猫」をはじめとして、夢とうつつの狭間に生じる不条理を題材とした、妖しくも美しい、10篇の恐怖のかたち。
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正しく、皆川ワールド、だ。
歩いているうちに奇妙な風に吹かれ、いつしか戻れない場所に辿りつく。
ただ空気としか表現できないような・・・
それでいてけして気づかずにはいられない異形の何か、がどこかに潜んで
じっとこちらを見つめている。
それは確実に近づいてきて、
はっと我に返ると・・・
それが自分自身であることを知る。
スイッチが入る。気持ちいい。
弄ばれる快楽。
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短編集。怖い。ぞくぞくする、とか、血の気が引く、とかじゃなくて。なんでだろう。すごく怖いお話だった・・・。でも癖になりそう。
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「死の泉」の皆川博子の短編集。解説に、赤江ばくの女性版ってあったけど、まさにそんな感じ。したがって、好き(笑) 幻想と退廃と一滴の毒と…。これだけの独自の世界観っていうのは、すごい。
他の作品も読みたいけど、どうも中々入手できない出版社みたいばっかりだ。解説で「不幸な作家」って書いてたけど、わかる気がする。
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表題作が凄い! ラストのイメージがとても鮮烈で、恐ろしいのだけれどそれ以上に美しい。「たまご猫」という、一見わけ分からないタイトルも惹きつけられるし、これは名作。「クライン・キャット」欲しいなあ。こんな結末になってしまうのは嫌だけれど。
「骨董屋」は他の短編集でも読んだ覚えがあるけれど、やはり傑作。幻想的な美しさもさながら、はっきりとしたオチもあるので、「皆川作品はどうも分かりにくい」という人(かくいう私もけっこうそう思っています。好きなんだけどね)にもお薦め。
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かわいらしい書名とは裏腹に、おどろおどろしいお話ばかり。
骨董屋の狂い具合が素敵。
文庫のカバー絵は北見隆氏。赤川次郎の三毛猫シリーズの表紙なんかもこの方なので、子供の頃からなじみ深い感じです。
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遺書さえも残さずに自殺してしまった姉が、いたずらに鉛筆で紙に書き散らしていた”クライン・キャット”という謎めいた文字。
この奇妙な言葉だけを頼りに、生前には知りえなかった姉の素顔を探ろうとした妹を待ちうける、不可解な恐怖の正体とは?
日常生活にぽっかりとひらいた陥穽を描いた表題作「たまご猫」をはじめとして、夢とうつつの狭間に生じる不条理を題材とした、妖しくも美しい、10篇の恐怖のかたち。
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「たまご猫」「をぐり」「厨子王」「春の滅び」「朱の檻」「おもいで・ララバイ」「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」「雪物語」「水の館」「骨董屋」の10篇からなる短編集。
個人的に「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」「骨董屋」あたりの書き方が好きだった。
煽ってあるような恐怖のかたち、というか、怖くはないのだけど、全編において流れる奇妙な匂いがちょっと癖になりそう。
何気なく手に取っただけなのだけど、いい作家さんに出会えた。
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初めて手に入れた皆川本です。
他の短編集に比べると取っつきやすい気がする。初心者向け。それでも『をぐり』『朱の檻』『春の滅び』あたりは確実に、いつもの皆川さんだよなあ。
どんな短編であれこの人の作品は大好きだ。
ちなみに『水の館』はジャニーズ小説である。
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一言で表すと、美しくて怖い物語でしょうか(ベタですいません)。
表題作の「たまご猫」が気に入りましたが、どの話も面白かったです。
「をぐり」や「厨子王」などは実在の古典がベースになっているのでしょうか。
この「厨子王」ですが、以前山椒太夫を読んだ時のことを思い返して、こんな描写あったかな?と感じたのですが、皆川さんがお考えになったのでしょうか。
それか、私が読んだものが読みやすいように(あるいは子ども向けに)変えられていたものかもしれませんが。
怖いと言っても、どのお話も震えあがるほどではないのですが、「骨董屋」はゾッとしました。
エツ子とリュウも怖いけど、麻子はてっきり小島との結婚を断ると思っていたのに、それをしないで(?)『変えてあげるわ』などと言うので、一体何をするんだ?!とそちらの方が怖かったかも。
あと、いくつかの話が繋がっているのでは?という感じを受けました。
微妙ですが、もしかしたらこの人とさっきの話のあの人は親戚なのかな、というような。
ところで黒澤明監督作品に夢というオムニバス形式の映画があります。
最初から最後まで観たわけではなく、たまたまやっていたのを観ただけですが、
その中の一つにお雛様が出てくる話がありました。
詳しくは覚えていないのですが、雛人形が人の大きさになって(人間がお雛様に扮装している)、
梅?が咲く中、お雛様よろしく段になって並んでいる場面があります。
そのシーンが強烈に印象に残っているのですが、「春の滅び」というお話を読んでそれを思い出しました。
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たまご猫
をぐり / 初出 オール讀物 1989年1月号
厨子王
春の滅び
朱の檻
おもいで・ララバイ / 初出 小説新潮 1986年
アズ・タイム・ゴーズ・バイ
雪物語
水の館 / 初出 1990年12月号
骨董屋
解説 (東雅夫)
皆川博子著作リスト
『たまご猫』 1991.5 中央公論社刊 文庫化
カバー 北見隆
印刷 星野精版印刷
製本 川島製本所
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初めて読む皆川作品集。
『たまご猫』『をぐり』『厨子王』『春の滅び』『朱の檻』『おもいで・ララバイ』『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』『雪物語』『水の館』『骨董屋』の10篇。
どの短編も、短編の鏡というべき、構成のひねり、あっといわせる結末、虚実の反転、が描かれる。
そして一文の無駄もない文章。
茫洋と闇の中にゆっくりと沈み込んでいくような、えもいわれぬ恐さや不気味さを感じる。
たまご猫、春の滅び(雛人形のライトモチーフ)、朱の檻(座敷牢への取材)、骨董屋(骨の笛)、が気に入った。
解説の東雅夫も書いている通り、幽霊小説。
幽霊、異世界、幻想によって現実の世界が一変する、小さいが大きい力を持った短編群。