「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
関連キーワード
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
なりこそ小なりといえど、大事故対策を考える大著
2003/05/21 11:26
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
現代社会において、科学技術の進歩にもかかわらず、というよりもそれ故にこそ大規模な事故を招く可能性が高まっている、とよく指摘される。本書で扱われる「航空機事故」然り、原発然り、である。そして、大事故が起こるたびに、原因解明にむけて大きな努力が傾けられる。ところが、その結果出てくる「対策」とは、「意識の向上」「制度の整備と見直し」といったごくありきたりのものでしかない。なぜならば、こうした大事故は特異で明快な原因によってのみ引き起こされているわけではないからだ。多種多様な出来事が重なり合っており、時として、それはごく些細なミスの積み重ねだったりもする。こうした個々別々の因果関係を明らかにしても、有効な対策にはならないし、一対一の単純な因果関係で把握するには、大事故という現象は複雑すぎる。
そこで,本書では、航空機事故の解明にむけて「インシデントの連鎖」という視点を提起する。一つの大事故の背景には、事故へと至らなかったけれども同種の未然の事故(インシデント)があり、それらがどのような道筋で事故とならなかったのか(なったのか)を見ていこうということだ。注意すべきは、事故の原因解明が目的ではないということだ。「ひやり」としたり、「はっ」としたという「未然の事故」までをも研究対象に含めることで、有効な事故防止を考えていこう、というのである。個別の因果関係の解明にとらわれることで、かえって有効な対策をとれない状況を、大きく転回させる可能性を秘めている。ここ最近は「失敗学」の必要性が唱えられているけれど、1980年代より続けられているこの研究はその先駆けであり、もっと追随する研究が現れていてしかるべきだ。
ブルーバックスという新書判形式にもかかわらず、数多く収集された事例を丁寧に整理した本書は、そのまま本格的な研究書と言っていい。そして、何よりこの「インシデント」という視点が、多様な事象に応用できる可能性があることも興味深い。身近な仕事上の失敗を省みるときにも有効になるはずだ。