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商品説明
あなたは愛を全うできるか。そして、あなたは撃てるか。人の心が抱える深い闇を重厚に、そして狂おしいまでに切なく描き、新たな倫理を世に問う、花村萬月の芥川賞受賞後第一作。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
花村 萬月
- 略歴
- 〈花村萬月〉1955年東京都生まれ。89年「ゴッド・ブレイス物語」で小説すばる新人賞を受賞、プロデビュー。「ゲルマニウムの夜」で芥川賞受賞。著書に「鬱」「皆月」など。
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紙の本
満月氏の極み
2004/06/25 22:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:77 - この投稿者のレビュー一覧を見る
花村満月氏の本はほとんど読んでいますが、この本が一番…かなぁ…と思っています。
いろいろな意味で。
この本で描かれている思想であるとか、もちろん話の筋であったりですが、きちんと抑制されていると感じます。
話はきちんと通用するものであり、出過ぎず、作家さんにありがちな独りよがりなところはなく、花村氏が常々言っておられた“エンターテイメント”で成立している。
個人的な考えから本を書いてお金を稼ぐのであれば、エンターテイメントでなければならないと思います。それを、思想、話の筋、双方から確立していると感じました。
さて、中身ですが、いいですね。
登場人物一人一人に味があり、愛があります。
愛を持っている人間て、案外少ないのかもしれないなと、感じるところがあります。この本には。
ストイックに生きる男はなんでこんなにかっこいいのでしょう!…と感じさせてくれる、読んで損はないエンターテイメントです。
紙の本
手に汗にぎるギャンブルシーン
2001/06/16 10:04
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:旅歌 - この投稿者のレビュー一覧を見る
花村萬月が常に語っているキーワード「羞恥心」と「自尊心」を巡る哲学が更に一歩進んだようだ。尤もより鮮明に見えたのは、それらを重んずる(と思われる)ヤクザの世界で描かれているからかも知れないが。
二進法とはいわずと知れた0と1。在るか無いか。白黒をはっきりとつける博徒の世界で、組長の娘とその家庭教師の愛を軸に物語は進む。
少々失礼を覚悟でいうなら、今まで萬月作品に接する時ストーリー展開になど目を向けた事がなかった。その場面場面でのシチュエーションがおもしろく、際立った人物造形の人間同士のやり取りが最大の魅力だったのだ。が、この物語はどうだ。構成がしっかり組み立てられ、さりげなく伏線まで張ってある。若干の驚きさえ覚えてしまった。見事な人物造形に加え、盤石なストーリー展開が加われば鬼に金棒。萬月哲学の今後の行方も含めて目が離せなくなった。
印象深いシーンが連続する萬月作品で最高のシーンといえば、『ブルース』で綾のバンドと村上とのセッションシーンであると思っているが、この作品のギャンブルのシーンはそれに勝るとも劣らない。オイチョカブ、ポーカー、手本引き。手にあせ握るとはこのこと。ニヒリズムのリアリズムか。。
この作品は愛の物語であり、成長の物語であり、家族の物語であり、友情の物語でもある。これらのエッセンスをただのごった煮でなく、それぞれに際立った味わいを残したまま、更に深まった自己の倫理哲学を折り混ぜて萬月は最高傑作を生み出した。倫理哲学に関していうなら、哲学というより宗教に近くなったんじゃないだろうか? 思索はより平易な言葉で語られ、『鬱』で感じられた自分勝手さは微塵もない。カリスマを望む姿も宗教を思い起こさせる。
いやいや、、萬月さん、あなたこそ時代のカリスマなんですよ。
紙の本
愛をまっとうすること
2001/03/29 10:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:桐矢 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の言葉から
「あなたは愛を全うできるか(中略)心の奥底に隠された深くて暗い闇こそがこの作品のテーマである。これはあなたとわたしの、そして全ての人々の、心の奥底を描いた小説である」
やっぱり花村萬月はすごい作家だった。この作品のエッセンスは上の著者の言葉に集約される。全ての人が抱える闇の奥でうごめく不安、狡さ、狂気を真正面に見据えてどこまでも一緒に落ちて行こうというその潔さに感服する。
主人公鷲津が家庭教師を引き受けた女子高生倫子は、少数精鋭の武道派博徒の組長の娘だった。インテリぶっていても所詮はまっとうな職業に就く事も出来ず、高級住宅街の奥様にパソコンの個人教授の課外授業でお小遣いを貰って喜んでいるような人間のカスだった鷲津。だが、組長とその犬である組員達の生き方に触れ、繊細で純粋な倫子を知るにつれて、変わっていく。
この作品のすごいところは、「面白い」ことだ。賭博場での手に汗握る勝負や、倫子の息詰まるくらい切ない愛情や、きわどい性愛描写や、やくざ社会の裏など、とにかく面白い。
人の闇を描くという突っ込んだお堅いテーマを選びながら、これだけ面白く書けるのだと目からうろこが落ちるような思いだ。
鷲津は、確かに大きく変わっていくが、任侠者が背にいるということだけで肩をそびやかしたり、女房面をする女を殺したいと思ったり、大きなことを言っておいていざとなると腰が引けたり、小ずるく保身を考えている一面をも持っている。あえて格好悪い部分を描くことで作り物でないキャラが立ち上っている。
人が社会を作る動物である以上、誰もが犬であり、犬になりたがっているのかもしれない。面白く読んだ後、深く考えさせられる小説である。