世界経済・社会統計 １９９９

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投稿者：吉野　智之　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

　世界各国の関係が互いに緊密化し，情報化が進展するにつれ，世界全体の動向が気になるものである。世界経済や各国の情勢を記した書籍や年鑑，統計類が数多く刊行され，各層で広く活用されている。ここで取り上げる統計も例に漏れず，定評があり，学校の図書室，専門図書館，企業の資料室，研究機関や官公庁で備えられているものと思われる。
　通常，各国要覧や統計類は各事項の個条書き，数字の羅列といったイメージが強いが，本書は趣が異なる。豊富な統計を掲載し，詳細なデータを盛り込んでいるので資料的価値が極めて高い。ただそれ以上に，数字の裏に潜む真実を解き明かそうとする努力がなされている。随所に挿入されたコラム，解説は世界全体を眺望できる。ゆえに，世界経済や社会の動きに関心の高い人は個人的に備えても良いのではないだろうか。世界銀行が編さんしているのでデータや解説の信頼度は高い。また，解説部分を読んで興味をそそられた人は同じ世銀が毎年発行している『世界開発報告』を読むことを勧める。
　本書は基本的には統計年鑑の性格が強い。世界の国々の最新データをさまざまな角度から詳解している。大きく6章に分け，扱われる事項は世界の概観，人的資源，環境，経済，国家と市場，グローバル・リンクである。これらに関連する統計指標は全部で84であり，細かくフォローしている。世界各国の経済状況，生活水準，社会的状況が一目瞭然である。従来の経済統計に加え，社会指標を入れていることで，内容に厚みが出る。編集がしっかりしていることもあり，何人かの識者は本書を高く絶賛している。
　各章ではまず，イントロダクションが設けられ，統計を読み解くための解説がていねいに行われる。1章では世界の概観を述べているが，解説部分では世銀らしく，貧困問題解決のためのシナリオと開発の目標を提示する。たとえば2015年までに乳児死亡率を3分の2に減らす，と掲げる。そのための衛生や家族計画などの政策も視野に入れる。この章では経済開発に関する指標が充実し，開発経済学の研究者にとっては落とせない情報が含まれている。本年度版では新たに，性差に関する指標を加えている。
　2章は人口動態統計，労働力構成，教育水準などを掲載。また新たに，HIV/AIDS，賃金と生産性に関するデータを追加している。さらに各国の高齢化の動向も載せるなど，社会状況の変化を取り上げている。3章で農業，エネルギー，都市化などの指標を示し，持続可能な戦略を探る。ここでは都市における生活状況に関するデータなどを加えている。以下，商品別貿易の動向や金融関連，科学技術や情報化，インフラなどに関する指標，最終章では国際援助に関する記述が充実し，国際協力のあり方を考えさせる。全体を通じて，国際協調による望ましい経済発展を追求しつつ，持続可能な開発と生活水準を上げるため，どこにバランスを置くかを問題に据えている。ユーザーズガイドが詳述され，読者の便宜を図っている。国際問題，国際協力などに興味があるすべての人の座右の書である。
(C) ブッククレビュー社 2000