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紙の本
現代本格ミステリの典型
2002/05/08 18:22
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投稿者:キイスミアキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
公選弁護人の主任捜査官を務める主人公デイヴは、殺人の容疑で逮捕されたホームレスの弁護を引き受ける。よく知らない女性から部屋に来るように言われ、コーヒーをご馳走になったところ急に眠くなり、気がつけばいつの間にか朝になっていて、足元には死体が転がっていた。
食卓を囲みながらママの推理を聞かされたデイヴは、とても勝ち目があるとは思えないこの事件が、事あるごとに対立してきた地方検事の再選にも関わる、重要なものであることに気がつくのだった。
幾重もの伏線を鮮やかに解き明かす《ママ》の推理が絶品の傑作シリーズ第四弾。
安楽椅子探偵には、その形式上、会話の記述が多くなることから、登場する人々のおしゃべりが面白くなくては、長々と続く会話ばかりを読み続けるという苦痛に耐えることを強いられてしまう。だが、どのような理由からなのか、安楽椅子探偵ものに登場する人物たちは、読者に退屈を強いるような人物が少ない。作者の力量がなくては、安楽椅子探偵ものを書くことは難しく、書くべき人が書いている、書き手が自然と選ばれている、ということなのだろうか。
そんな才能ある作家たちの中でも、ジェイムズ・ヤッフェは特別だろう。探偵のママ、その息子で捜査官であるデイヴ、ちょうど孫のような年齢の青年でデイヴの助手を務めるロジャー──食卓を囲むこの3人の会話は聞いていてとても楽しい。ロジャーは若者らしく理想を追いかけて多くを語るのだが、デイヴはそれを否定して、ママは否定しない。年代の差を感じさせる噛みあわない論議なのだが、それぞれの人物がその人らしい主張を繰り広げるところが魅力であり、面白いところ。ママ特有の知性的な最後の一言が、会話を閉めるところなどは格別で、ヤッフェの上手さを感じずにはいられない。自分の考えをきちんと持っているキャラクターたちが会話をする、そしてそこには作者ヤッフェの考えが反映されている、ということがシリーズ通しての魅力となっているのだ。
これまでのシリーズを通しての約束事──二転三転した上に、さらに半ひねりが加わる──見事なまでの本格ミステリ。果たして続編が発表されるのか、愉しみに待っていたいのだが、ヤッフェの高齢を考えると心配でもある。だけど、ヤッフェという作家は日本の泡坂妻夫や土屋隆男のように、老いてもなお盛んな作家なだけに、もう一花咲かせてくれることを信じたい。