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商品説明
10年にわたって撮影したアフリカ、東南アジア、中南米の熱帯雨林の写真150余枚を収録。豊かな生命を抱え込み、たっぷり水を含んだ、不思議に満ちた熱帯雨林の姿がつまった写真集。解説も掲載する。【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
熱帯雨林に棲息する「生命」をとらえた写真集。豊かな「生命」の息吹とその造形の美しさが感じられる。
2001/04/12 03:15
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投稿者:挾本佳代 - この投稿者のレビュー一覧を見る
赤道を挟むようにして位置する熱帯雨林は、世界に3箇所ある。アフリカとアジアと中南米にある。ところが、この熱帯雨林は、いま地球規模の環境破壊が進んだために危機に瀕している。熱帯雨林は私たちに木材を供給してくれるだけの森ではない。ゴリラやオランウータンなど大型類人猿の故郷でもあるし、いまだ何千種あるか調べつくされていない動植物の棲息地でもある。地球に大量の酸素を供給してくれる森でもある。熱帯雨林は、そこに棲息する「生命」全部で「共進化」してきた。だから、人間の勝手な欲望にまかせて部分的に開発を続ければ、森全体で遂げられてきた「共進化」にもズレが生じてくる。止まってしまうことにもなりかねない。なのに、いまこの熱帯雨林は、新薬を開発しようとする製薬会社によっても土足で踏み込まれている。というのも、ここに棲息する植物を生薬として利用してきた原住民の智恵が、新薬開発の鍵になっているからだ。
本書は熱帯雨林に棲息するさまざまな「生命」を収録した写真集である。写真家の水越武氏は1990年から、世界の熱帯雨林を撮りつづけてきた。我を忘れて撮りつづけたという。「豊かな生命を抱え込み、たっぷり水を含んだ熱帯雨林は、不思議に満ちた興味の尽きない美しい所であった。そこには曼陀羅の宇宙を見るような楽しさと面白さがあった」。この感想は、熱帯雨林に実際に行った人でなければ抱くことのできないものだ。けれど、私たちは水越氏の感想を、写真を通して追体験することができる。濃い緑色の森、抜けるような青の空、たくさんの「生命」を育ててきた水、奇妙な形をした植物、穏やかな顔をした動物…。写真を見ていると、時間の経つのを忘れてしまう。嬉しいことに、収録されている図版のひとつひとつに解説がつけられている。
個人的な感想で申し訳ないけれど、以前から一度でいいから「ヤドクガエル」の写真を見てみたいと思っていた。「ヤドクガエル」は熱帯雨林に棲息する、見事なほど真っ赤なカエルであると聞いていた。またこのカエルは、皮膚からアルカロイド系の猛毒を分泌し、その毒は吹き矢に利用されている。なぜこの「ヤドクガエル」が他の生物と明確に見分けがつくほど真っ赤に進化したのかというと、逆にこの鮮やかな赤が「毒をもっている」という警戒色になるからだ。カエルを捕食する最初の1匹目の動物はこの赤にだまされるかもしれない。けれど、長い時間が経てば、「このカエルは食べられない」という情報が捕食する他の動物たちに伝えられていく。だから、この目立つ赤が「ヤドクガエル」という種が生き延びていくための戦略としては必要だったのだ。
本書にはコスタリカに棲息する「ストロベリーヤドクガエル」と「ウスミドリヤドクガエル」の2種が載っていた。「ストロベリーヤドクガエル」はイチゴのような赤と、足の部分のネイビーが絶妙なコントラストをもつカエルである。本当にきれいな色のカエルだ。また「ウスミドリヤドクガエル」は、その名の通り、濃い緑とウスミドリの模様が体全体に映されたカエルだ。この配色も「ストロベリーヤドクガエル」同様とても目立つ。
2種の「ヤドクガエル」を見るにつけ、私たちは自然が生み出す、畏れおおいほどの美しさを感じずにはいられない。私たち人間が20世紀に入って生み出した、非常に多くの人工物のいずれも太刀打ちできないような美しい造形を「生命」はもっている。熱帯雨林に棲息する「生命」の息吹とその造形の美しさに触れると、いま私たちが生きている世界の「奇妙さ」が逆にわかる。 (bk1ブックナビゲーター:挾本佳代/法政大学兼任講師 2001.04.12)