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著者紹介
小池 和男
- 略歴
- 〈小池〉1932年生まれ。東京大学大学院経済学研究科修了。法政大学経営学部教授。
〈中馬〉1951年生まれ。一橋大学経済学部卒業。一橋大学イノベーション研究センター教授。
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紙の本
真の人材育成とはなにか
2001/07/04 08:26
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:荻野勝彦 - この投稿者のレビュー一覧を見る
わが国の自動車産業は、労働集約的であるにもかかわらず、優れた国際競争力を維持している。その謎に正面から迫った本である。
自動車の組立作業は、コンベヤ上の作りかけの自動車に、60〜120秒くらいのサイクルで、15〜30くらいの部品を組み付ける、反復繰り返し作業である。そこには、「慣れ」はあっても「熟練」は皆無に見える。世間では自動車組立は単に体を酷使すれば足り、いかに酷使するかが生産性を決定すると考えられている。しかし、これは実際には熟練の入口(レベル1)に過ぎない。
現実に生産性に貢献するのは、品質不良や設備故障、生産量の変動による作業内容や手順の変更、新商品への生産の切り替えなどの変化に、いかに効率的に対処できるかであるという。例えば、最終検査で品質不良が見つかった場合、かなりの程度まで分解して修理しなければならず、多くの時間がかかる。もし、これを生産の途中で発見できる程度の技能(レベル2)の持ち主がいれば、発見した時点で修理することで、その手間ははるかに少なくてすむ。
さらにすすんだ技能として、設備トラブルの復旧がある。すべてでなくても、いくつかのトラブルを復旧できるだけでも、効率への貢献は大きい(レベル3)。組立ラインではひとつのコンベヤ上で数十人の人が働いている。設備故障で作業ができず、コンベヤが止まれば、全員がアイドル状態となり、そのロスは多大である。
さらに高度な技能になると、トラブルの原因を推理し、解決できるという。このレベル(レベル4)になると、新しい生産設備の設計を見て、現場における問題点を予想できるという。ブルーカラーのホワイトカラー化である。もちろん、レベルが上がるにしたがってできる作業もふえていくから、作業内容や手順の変更に対する柔軟性も向上していく。
このような、高度な技能の形成や伝承がいかに行われるかが、さまざまな職務について、詳細な聞き取りによって明らかにされる。それをふまえたアンケート調査にもとづく計量分析による検証も行われ、聞き取りのサンプルの少なさを補完している。調査の綿密さを反映して、それぞれの事例には非常にヴィヴィッドな現実感があり、説得力がある。
発見内容は非常に興味深い。レベル3以上の高度な技能は全体の6割は必要で、それ以下だと効率は大幅に落ちる。ここに達するには10年程度以上の経験を要するが、技能はすぐれて企業特殊的であり、その修得のほとんどはOJTに頼らざるを得ない。そして、高度技術が導入されるほど、知的推理を要求する技能が必要となり、技能の高度化が要請される。
その含意として、まず、育成途上の人まで考慮すると、全体の4分の3は長期雇用であることが重要である。ベテランから仕事を習う機会の確保、職場における一人ひとりのくふうを促すしくみと、向上した技能を正しく評価し報いることが必要である。具体的には、仕事給や職務給ではなく、レベル1からレベル4までを職能資格とする幅広な職能資格制度が推奨される。同じ仕事をしていても、その仕事しかできない人と、前後の多くの仕事ができる人とでは、効率への貢献に大差があるが、仕事給ではこれに適当に支払うことはできないからだ。そして、各資格ごとに上限と下限を決めて、資格が上がらなければ上限を超えないが、上位資格の下限と下位資格の上限は大いに重なりあうのが良いとされる。評価は数量によることはできず、仕事を良く知っている熟練工、すなわち上司の評価によるしかない。そして、作業者にとって最大の財産は技能であり、労働組合も技能形成や人材開発に積極的に発言、参与することが望ましいという。
今、世間では、人材育成や職業訓練に関する議論がかまびすしい。しかし、その多くは極めて浅薄な理解に止まっている。本当の意味での人材育成とは何かということを教えてくれる本である。
紙の本
高度化する自動車産業の現場を経済学者が調査。「もの造り」の極意を求め,各職場の取り組みを眺める
2001/03/08 15:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:木村 智博 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いま「もの造り」の現場では技術者育成が大きな課題となっている。また,「もの造り」をしようにも,小さな町工場が倒産する例もあり,危機的状況になっていると言える。関連書籍が何冊か出版されているが,本書は,経済学者がフィールド調査を丹念に行い,自動車産業における「もの造り」の現状を分析した専門書である。アナリストや経営層ばかりではなく,自動車産業を問わず,生産現場で働く人にも薦めたい1冊である。
緻密(ちみつ)な調査,生産ラインの技術者の独白など,どれもが示唆に富む。情報化,ロボット化といわれて久しいが,生身の技術者の手でないとできない部品もある。著者たちの目を通しているものの,各職場のプロが伝授する技,凛(りん)とした現場の空気を伝えている。今後の経営ビジョン,産業政策に反映でき得る内容である。8章構成で,調査の意義,方法を記し,問題の所在を考察する。組立,プレス,車体溶接,プラスチック成形,塗装,鋳造・鍛造の職場ごとに解説し,アンケート調査結果にみる技能形成と伝承の実態を分析する。
(C) ブックレビュー社 2000-2001