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商品説明
「青い遺跡」「山を包む私」「書庫の中の草原」など、1992年から現在までの全作品56点を網羅した、待望の最新作品集。ドローイングや興味深い創作風景も掲載する。【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
喜び、悲哀といった感情からなる自己主張を作品中に意識して封印することで生き生きとした存在感を得ている
2001/06/12 18:21
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投稿者:高橋洋一 - この投稿者のレビュー一覧を見る
彫刻というとミケランジェロやロダン、マイヨールといった堅固な構成力で、これでもかこれでもかとばかりに見る者を圧倒しようとする西洋の彫刻作品たちのことを思い浮かべる向きが多いと思う。これらの巨匠たちにとって、彫刻とは自らの造形イメージから創造した構築物を、空間の中で自己主張させることにも等しい。それらは、空間を移動して、いかなる空間に置かれようとも、人間存在の高貴さ、儚さ、その愛と死、悲哀、激情といったものを、それぞれの作品の尺度に従って訴えかけてくる。そして、彫刻とは一般にそのような芸術と思われる。
彫刻に対して、こうした考え方で舟越桂の彫刻作品を前にすると、まず当惑させられる。彼の木彫り作品から感じられるのは、自己主張や、圧倒的な存在感ではなく、逆に、そこから感じ取れるのは、叫びや喜びや、悲哀などといった感情からなる自己主張をいわば意識して作品の中に封印している一種の禁欲的な姿勢である。木彫りの滑らかで温かみのある質感が、そうした作品の風情を、極めて生き生きとした存在に見せている。
それらの物言わぬ彫刻たちは、しかし、その寡黙な外観とは裏腹に、見る者に対して執拗に訴えかけてくる。一体何をと聞かれると、言葉に詰まってしまうが、そこには沈黙の饒舌さといったような雰囲気さえ感じ取れるのである。
舟越桂作品集『立ちつくす山』には、彼のこのように独自の造形世界が、9年前の第一作品集『森へ行く日』から今日に至るまでの営為の集積として展開されてある。
表題にも出ている「山」は、彼の主要テーマのひとつであり、「あの山は、私の中に入る。そう思った日があった。人は山ほどに大きな存在なのだという思いが、突然やってきた。・・・人は、少なくとも人の想像力は、無限に拡がっているように思う。私は、山として人間を作ろうと思った」と彼自身、「山」と「自分」の距離を考察している。そこから得た、恐らくは形而上的な認識が、この作品集に登場する彫刻群の表現方法に影響を及ぼし、彼だけの幽幻な世界を生んでいるのである。
「言葉を聞く山」「山を包む私」などという作品からは、この作家のモチ−フの底知れない雄大さを感じ取ることが出来る。何か得体の知れないユーモアや、カラッとした不気味さみたいなものも漂っているのが面白いが、キッと唇を噤んだ彫像の顔の背後にどのような言葉が隠れているのかは不明である。これら、「山」をモチーフとした作品群に限らず、舟越の作品は、見る者に対話を誘い掛けてくる。この対話は、見る者の内面の変化によって千変万化するはずであり、語りかけ方によっては、作品が一方的に対話を拒む場合もあるだろう。この辺に、舟越作品の不可思議な魅力が潜んでいると思われる。 (bk1ブックナビゲーター:高橋洋一/評論家 2001.06.13)