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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2001.6
- 出版社: 角川書店
- サイズ:20cm/318p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-04-873301-4
紙の本
夜啼きの森
著者 岩井 志麻子 (著)
昭和十三年、岡山県北部で起こった伝説の「三十三人殺傷事件」。狂気か、憤怒か、怨根か。異形の鬼は、満月の夜に凶行へと走り出す。未曾有の惨劇は、月夜の晩にやってくる…。【「T...
夜啼きの森
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商品説明
昭和十三年、岡山県北部で起こった伝説の「三十三人殺傷事件」。狂気か、憤怒か、怨根か。異形の鬼は、満月の夜に凶行へと走り出す。未曾有の惨劇は、月夜の晩にやってくる…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
岩井 志麻子
- 略歴
- 〈岩井志麻子〉1964年岡山県生まれ。岡山県立和気閑谷高校卒業。「ぼっけえ、きょうてえ」で第6回日本ホラー小説大賞を、同作に書き下ろしを加えた同題の作品集で第13回山本周五郎賞を受賞。
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紙の本
志麻子さんならいっそ女性を犯人にして書いてもらいたかった津山三十人殺し。でも、岡山版ツイン・ピークスという味わいで楽しめた。
2001/11/19 12:23
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
2001年11月に新潮OH!文庫で『津山三十人殺し 日本犯罪史上空前の惨劇』という本が出たようで、そのうちそれも読んでみたいなと思っている。昭和13年、岡山の農村で起きたこの事件は、横溝正史の『八つ墓村』のモデルともなったわけだが、志麻子さんの岡山DNAも大いに刺激を受けていて、その結果生み出されたのがこの本ということになる。
閉鎖的な共同体で起こる殺人事件、しかもその近くには得体の知れない異界のものが潜んでいる空間があるという設定だと、ホラーのパターンとしてはS・キングのキャッスルロックや「ツイン・ピークス」のドラマシリーズなどが思い起こされる。さらに、米国のそういったものの源流となればフォークナーの小説だなと何となく比較しながら読んでいくと、生活共同体のメンバーが親戚縁者間の結婚を繰り返して構成されている、血の濃い運命共同体であるという特殊性において、岡山版の方がより淫靡でおどろおどろしい感覚がある。流れ出た血が地面に吸い取られる前に、生きる人びとの赤黒い血が根を通して常に土に吸い取られているような土着感。
そこのところをうまくすくいとった雰囲気のある小説だけれど、『ぼっけえ、きょうてえ』『岡山女』で志麻子さんの魅力に参った読み手としては、女が主人公だともっと起爆力があったろうに…と贅沢な不満も漏らしてみたくなる。
この作品にも、キャッスルロックやツイン・ピークスのように様ざまな村人が書き込まれているので、群像としての女性たちも何人か登場するのだけれど、いずれも志麻子さんらしいドスやあくが足りない気がしてしまう。やはりその他大勢という役どころに甘んじているからだろう。
元を辿っていけば皆親戚という集落で、徐々に「へのけ者」となっていく主人公の辰男。眉目秀麗でありながら、肺病持ちで徴兵に落とされたことから、夜這いの盛んな村で女たちに拒み続けられて窮鼠となっていく。笑い者ならまだいいが、へのけは死活問題である。辰男をねずみのように隅に追いやっていく猫たちとして女が何人か描かれている。この女のひとりには森に棲む生霊もいる。どの女性も因業深そうな岡山DNAとして魅力的ではある。彼女たちと、その背後にあるものにこづき回されて自分だけの「戦争」へと駆り立てられていく辰男の様子がよく描かれている。
ああ、だが、しかし! なのである。津山事件をモデルにしたから男による殺人なのだけれど、もっと思い切った換骨奪胎を経て、妖艶な女が犯人だったという展開ができなかったものか…。それならば、志麻子節も大いにうなったろうにという思いがふくらんでしまう。でも、そういう期待をもたせてしまうところが、志麻子さんの書くものの魅力なんだろうなと、とりあえずは引くことにする。次回作にも大いに期待しながら…。
紙の本
いつの時代でも人間は深い闇を抱えている。あなたは闇を覗く勇気がありますか。
2001/07/22 15:04
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:上六次郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近はそうではないかもしれないが、やはり田舎に行くと時間の流れが都会に比べてゆっくりのような気がする。まして昭和初期のころの山村での時間の流れは遅いどころか淀んでいたかもしれない。地縁、血縁を基にする濃密な人間関係は薄まることはなく、日常生活の重しとなっていく。人々は互いに監視しあい、自分より弱いもの、村の風習に馴染めないものを除け者にし、不満のはけ口にする。村の枠からはみ出たものにとっては村は敵であり、復讐の対象へと変化していく。
優等生だった辰夫は肺病を病み、徴兵検査にも落ちてしまう。村の行事にも参加しない辰夫はやがて除け者になっていく。一方、村人たちも資産家の砂子夫婦やよそから流れ着いたみち子、傲慢なやよいなどお互いが中傷しあいながらも、辰夫を除け者にすることで村の枠に留まっていた。辰夫は村人への怒りをつのらせ、やがて凶行へと突き進んで行く。
本書は、昭和13年に起こった岡山・津山の三十三人殺傷事件をモチーフに描かれた作品である。因習や人間の欲望、虚栄心といったものが村という出口のない空間をさまよい、人を狂わせていく。
全体としては抑えた調子で書かれている。人間の持ついやらしさや狂気ををたんたんと描くことにより、人が持つ闇の深さを強調する効果を上げている。
21世紀になり、閉鎖的な村はなくなったかもしれない。しかし、新しい「村」が出来上がってきている。それは「会社」とか「学校」とかいう名前のものではないだろうか。「会社」とか「学校」という村は、現代の人間の欲や妬み、怒り、見栄といったものを蓄積していっている閉塞的な世界になり、そこに息苦しさを感じている人もいるであろう。今の時代を生きる私たちも、この小説にリアリティを感じられるはずである。
紙の本
因習の村
2002/06/04 14:23
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:柿右衛門 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「村」という言葉は、最近廃れつつある。
しかし依然日本に残る村。
おそらく今でも「夜這い」が公認になり、血が濃い「村」はきっと存在しているだろう。
そしてそんな村ならどこでも起こりそうなこの事件。
そこにこの話の恐さがある。
この小説は理由がはっきりしているわけではない。
つまりお化けだとか,化け物がいるわけではない。
しかし、村人にとって森や辰男はなぜか恐ろしいものであった。
そして、この戦争期という時代。
これがさらにこの話を陰鬱なものにしている。
いまでも日本の山奥にはこんな村が存在しているかもしれない。
それを考えると、ぼっけえ、きょうてえ
紙の本
近代化から取り残された村で起きた、実際の惨劇を元にした作品
2001/07/15 23:46
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:谷池真太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
実際の事件(津山三十人殺し)を元にはしているが完全なるフィクション。著者初の長編だが今回も岡山弁からなる妖しげな雰囲気が舞台を盛り上げる。徴兵検査にも落ちた、周囲から陰口を叩かれる小説家志望の田舎男が狂う、その様をまわりの人物の視点で明らかにしてゆく。
昭和ももう十三年になろうというのに、未だに古い因習が支配する岡山の山間の村で、小説家志望の男は「浮いて」しまうのだ。
小説中に数多く出てくる岡山弁について、ひとつだけ紹介しておくと、「おえん」というのは「手に負えない」が語源で、「どうにもならない」や、「ダメだ」の意。
「ぼっけえ、きょうてえ」や「岡山女」にはまった人は充分「買い」だと思うのだが、ひとつだけ文句を言うとタイトルにある「森」が舞台として活用し切れてないのではないかと思う。あんまり啼かないし。
紙の本
期待しすぎてしまった。
2002/01/21 20:44
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:どしどし - この投稿者のレビュー一覧を見る
ポイントは文体と村の因習漂う雰囲気、そして最後に来る津山三十人殺しでしょう。帯にも書いてあるし最後どうなるかは知っているわけだから、どうしてもクライマックスを期待してしまう。その意味では肩透かしを食らった感じ。文体は確かにこの村の感じといい時代といい狂気、村人の性格設定と合っているようには思います。しかし、それが大きな魅力になっているほどには感じられませんでした。