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紙の本
動物の死体を求めてやまない著者の偏愛ぶりが、この本に異様な迫力を与えている
2001/12/03 14:42
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投稿者:森岡正博 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「つちのこ」の死体が発見されたというニュースが出回ったのは、たしか昨年のことだった。それはいったん土に埋められたので、骨だけしか残っていなかったという。専門家が鑑定したところ、「つちのこ」ではなくて、ヘビの一種だったらしい。
死んだ動物の骨から、生きていたときの姿形を推定できるということなのだが、そのためには、普段から、死んだ生き物について詳しく観察しておかなければならない。この本の著者の川口敏さんは、死んだ生き物から、生物の不思議をさぐる学問のことを、「死物学」と呼んでいる。これは、もちろん「生物学」に引っかけた命名だ。
川口さんは、道を歩くときでも、野山をさまようときでも、地面に落ちている哺乳類の死体をつねに探している。そして、モグラ、イタチ、ネズミ、野ウサギなどの死体を見つけては自宅に持ち帰り、細かく観察し、標本にする。
川口さんの指摘を読むまで、私も「標本」と「剥製」を混同していた。よく応接間などに置いてあるシカやクマの実物大のぬいぐるみみたいなのは、「剥製」である。これは保存もきかないし、単なる見せ物にすぎない。これに対して「標本」は、毛皮と骨に分離して棚の中に保管されており、そのひとつひとつに標本番号、計測データ、採集時の状況などが付けられている。この死せる「標本」をもとにして、動物の身体の細部の仕組みが、綿密に明らかにされていくのである。
実際に、道に落ちている動物の死体をきちんとした「標本」にするのは、とてもたいへんらしい。すごい腐臭がするし、解剖する手を寄生虫が這い上がってくる。それでもなお動物の死体を求めてやまない著者の偏愛ぶりが、この本に異様な迫力を与えている。
骨格が華奢で、肉を削ぎ落とすのがむずかしい小動物は、自然乾燥させて木の箱に入れ、野外に放置しておくと、カツオブシムシがどこからともなくやってきて、屍肉を食べ尽くし、きれいな骨格を残してくれる。それを手にしながら、うれしそうにスケッチし、標本棚へと収める著者の姿が思わず浮かんでくるような好著であると思う。(2001.11.28)
初出:信濃毎日新聞
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