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紙の本
入門書を書くことの難しさ
2001/08/29 17:20
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投稿者:小田中直樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
僕らは入門書に何を求めるんだろうか。わからないことがあったときに調べる辞書の役割だろうか。難しいことを簡単に言い直してくれる概説書の役割だろうか。でも、前の場合だと全部暗記しなきゃいけないって誤解されたり、後の場合だとこれだけわかれば十分って誤解されたりする危険があることに気をつけなきゃいけない。ついでにいうと、僕はもう一つ役割があると思う。つまり、文字通り〈門に入る〉手引きをすること、つまりそのテーマに対する好奇心を呼び起こし、もっと知りたい、もっと調べてみたいって気にさせることだ。もちろんそのためには、大切なことをわかりやすく書くっていう、難しい作業が必要になるだろう。入門書って、実は奥が深いのだ。
なぜ僕がこんなことを考えたかっていうと、この本が「法律入門」って書名を持ってたからだ。著者の兼子さんは、これからは「社会生活のなかで人間を回復していく時代」であり、そのためには「自治体とその住民が自治の主体的な取りくみをしていく」(はしがき)ことが必要だって考えた。そして、法律の素人が地方自治の法律的な側面を学ぶのための手引きとして、この本を書いた。
この本は、地方自治とはどんなものであるべきかについて、強いメッセージを発してる。それがこの本のメリットなので、三点にわけて紹介しておきたい。第一、地方自治で大切なのは、国に対して地方自治体が自主性を発揮することだけじゃない。地域の各々で求められてる自主性とか自律性を、地方自治体と住民が協力して実現するべきだ。第二、社会が都市化、高度技術化、情報化するのにしたがって、プライバシー権、知る権利、環境権、平和的共存権、子どもの権利といった「新しい人権」が主張されるようになってきた。これらの権利は、僕らの日常生活にも広くかかわってるから、地方自治体という場で、住民が主体になって実現するべきだ。第三、地方自治にかかわる権利は「知的に考えていく闘い」(二三二ページ)によって闘いとられなきゃいけない。僕らの日常生活に深くかかわる地方自治に関する法律を、僕らは学ぶべきだ。この三つのメッセージは、どれも深く、そして熱い。
でも、この本が入門書として役に立つかっていうと、僕は疑問だ。僕がそう考えた理由を三つ挙げておこう。第一、この本は沢山の具体的な事例を示してるけど、説明の各々は中途半端だし、沢山の事例が羅列されてるだけだって印象が残る。もしかすると実用百科辞典的な役割を果たそうとしたのかもしれないけど、実用百科辞典を作るには、新書のサイズじゃ無理だ。第二、専門的な用語が突然出てきて面食らうことがある。たとえば、地方自治体が結ぶ契約には「民法の総則や契約法の規定が適用される」(四九ページ)っていうけど、「民法の総則」って何だろうか。「契約法の規定」って何だろうか。もしかすると概説書的な役割を果たそうとしたのかもしれないけど、地方自治にかかわる膨大な法律の世界を概観するのは、やっぱり新書のサイズじゃ無理だ。第三、地方自治を学ばなきゃいけない理由がわかりやすく系統立てて説明されてない。たしかに〈学ばなきゃいけない〉ってメッセージはあるし、その理由も少しは書いてある。でも、それだけじゃ不十分だ。
たしかにメッセージが〈門に入る〉気にさせる好奇心を引き起こすことは可能だろう。でも、そのためには説得力が必要だ。そして、説得するためには、深さと熱さだけじゃなくてわかりやすく説明することが大切だ。それによって、はじめてメッセージに対する共感が生まれるのだから。共感することによって、はじめて好奇心が生まれるのだから。[小田中直樹]