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紙の本
謀略・食欲・バイオレンスのけもの道
2007/05/13 22:08
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mikan - この投稿者のレビュー一覧を見る
このところ、気づくと日本人が書いたおフランス絡みの本ばかり手にとっています。羨望・絶賛から失望まで振れ幅が大きくて、風土・食べ物・国民性などなど、日本の真逆を行ってるんじゃ?と思えるあれやこれやが面白くて仕方がないのです。そんな中で、必ず出てくる話題がフランス人の超個人主義。その理由として、子どものころから性悪狐が悪事をはたらく話を聞かされて育ち、周りの人間はすべてよからぬことを企んでいる信用するな、と言い聞かされているから云々…を挙げている文章を二度ほど見ました。それはもしかしたらこの本か?と、珍しく岩波文庫に手をのばした次第。読んでみると、これはちょっと子どもには無理かもしれません。
中世フランスで作られ人気を博した、悪狐ルナールの物語。狼イザングランとの闘争がメイン。第1話は、ルナールがイザングランの妻を手籠めにする話(…)。巣穴にぴったりはまって身動きできなくなってしまった妻。この据え膳逃してなるかと、意気揚々と跨って…と大胆な描写に驚きました。性の描写も露骨なら、食べ物への執着もすごい。食べるときは一心不乱、目の前に食べ物があるのに手に入らないと、体が震え身もだえし、舌が今にも焦げそうな思い…。そして、バイオレンス。ルナールとイザングランとの決闘の場面では、「口の中の歯をへし折り、顔に唾と鼻汁をひっかけ、目に棒を突っ込み、爪を立てて顔の毛をひきむしり…」。そして、確かに全編「謀略」の話、「人の話は簡単に信じるな」という話ばかりなのでした。甘言を弄して相手を油断させ罠にはめる、嘘に嘘を重ねて窮地を逃れた挙句にシラを切る。う〜ん、相手をひたすらハメ続ける展開のしつこさは、ちょっと日本の「とんち話」とかとは次元が違うような気がします。「トムとジェリー」が口をきいたらこんな感じ?
ただ、この動物の国は欲と嘘だけかと思えば意外な面もあって、どれだけ罪状が挙がった極悪狐でも問答無用では裁けない。ルナールも、何度も弁解・申し開きをする機会を与えられ続けます(で、これを逆手にとって逃げるわけですが)。こんなところに「法律の国」フランスの一面を垣間見たような。当時、「法廷物語」が愛読されていたため、というのもあるそうですが、それは日本ではちょっとありえなそう。
筋だけあげれば殺伐そのものの話が大らかでおかしく感じられるのは、訳文がふるっているところが大きいかと思います。よどみなくお下品かつ大らかな言葉遣いは、大学の先生たちの文とは感じさせない(笑)読みやすさ。中には、「王ヨ、余ノ考エヲ聴クヨロシ。コノ悪ノ権化ヲ石打チノ刑ニテブッ殺スヨロシ、丸焼キニスルモヨロシ」なんてのも…結構とばしてます。(当時の教皇使節のイタリア語混じりフランス語をちゃかした部分の訳なのだそう)
美とセンスと弁論の国、おフランスの根っこにあるえらくワイルドな面に触れられて、個人的にはかなり面白かった本でした。