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身をゆだねて | 9-30 | |
---|---|---|
浮遊 | 31-42 | |
プレイバック | 43-64 |
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紙の本
嵐の予感
2002/12/25 00:19
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投稿者:深爪 - この投稿者のレビュー一覧を見る
80年代アメリカを代表する短編作家のひとりであろう、アン・ビーティの出世作といえる初期の傑作短編集が文庫化されました。1979年から82年にかけて、『ニューヨーカー』誌に掲載された短編を集めたものです。
この人の場合、作家というより断然「アーティスト」と呼ぶべきです。巧い、というレベルでなく「巧すぎ」です。それをもてあましているかのように思えなくもないです。どことなくユーミンの楽曲を彷彿とさせます。
なかなか話の本質がつかめず、主人公の置かれている状況がようやく見えてきたかと思うと、なんだもう終わりか、といった展開がほとんどです。ドラマティックさに乏しく、行間を読み解かねばならず、なかなかすらすらとは読みづらいです。
しかも崩壊しつつある関係を扱った話ばかりで、悲しみを抱えた人々が淡々と自らの運命を受け入れていくのを読むほうも寒々しく呆然と見送るだけ、という感じです。「救い」のようなものはほとんどありません。ですから読後は少なからず疲労感を覚えると思います。
にもかかわらず私はときどき強く「この人の小説を読みたい」と思うのです。理由のひとつはその芸術性の高さでしょうか。それは特にエンディングの結び方に収斂されています。まるで魔法にかかったかのような文章の美しさに幾度となくうーん、と唸らされてしまいます。
そしてもうひとつは、この人の描く人間の持つ本質的な悲しみや寂しさに、どこかでやはり共感しているのでしょう。
「あなたが私を見つける所」「貯水池に風が吹く日」など、後に上梓された諸作ではしばしば冬の木洩れ日のような「救い」も感じられるのですが、今作ではおしなべて「未だ見ぬ嵐を身じろぎせずに待つ」といった風情です。