紙の本
寝不足になるくらい面白い
2006/05/20 15:22
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投稿者:RIKA - この投稿者のレビュー一覧を見る
バブル時代を華やかに彩り、消えていった女作家、夏木柚夏。女としても主婦としても人生を謳歌して、皆に愛され死んでいった一人の女。その彼女のほんとうの姿は何だったのか。売れないフリーライターの万智子は、評伝記事の依頼を受け、彼女の人生に迫っていく。
私はこれを読んで、有吉佐和子の「悪女について」を思い出した。時代は設定はまったく違うけれども、一人の魅力的な女の「人生」がぐいぐい読む人をひっぱっていく鮮やかさが似ていると思った。
この本の面白いところは、主人公のライター万智子のリアルな心情かもしれない。
万智子はもう若くない。結婚もせず、子どもも産まず、恋人もいない。ライターとして名を残せないまま日銭を得て食いつなぐ惨めな日々。夏木柚夏とは、まったく正反対の人生なのだ。
「本当は不幸だったんじゃないの」スポットライトが当たる人へ向けられる、よくあるまなざし。
華やかなイメージはつくられたものではないのか・・・。万智子もまた、そうした視点を持っているので思わず共感してしまうのである。
家族や友人たちに話を聞き足跡を探れば、素顔が見えると思うのだが、話を聞くたびに、夏木柚夏という「人」の謎は深まるばかり。出版社の意図する原稿は完成しても、万智子の気持ちは釈然としない。そして、ライターといてのプロ根性と、生活の不安の中で、誰も知らない夏木柚夏を書きたいと思いたつ。しかし、大手出版社の思惑が絡まったり、本心を明かさない「男友達」も現れて、刑事事件なら迷宮入りしそうな展開になる。
いつのまにか、まるで自分が夏木柚夏という作家をよく知っていて、その人を自分で追いかけているような錯覚にとらわれるほどストーリーに入り込んでいた。結末は明かさないけど、最後まで目が離せない傑作。ミステリーが好きな人もそうでない人にも、特に本が好きな人に自信を持っておすすめします。
紙の本
残りのページ数を気にしてしまうのは僕だけか?
2003/06/15 03:01
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投稿者:kayak - この投稿者のレビュー一覧を見る
いやはや参った。こいつはすごい傑作だ。
何がすごいのか把握する余裕がないくらい一気に読める。
とにかく驚かされるのはリアリティとスピード感。
読み始めると、あらあらあらと、ラストまで一直線。
食いつなぐのがやっとのフリーライターが、ひょんな縁から、数年前に死んだ女流作家の再考を任される、という、非常に地味なテーマであるにもかかわらずとんでもなく面白い。
人殺しも起きない、性の描写も無い、血気盛んな青年も出てこない、出てくる人物といえば、既に青春なんてものを通り越してしまった大人たちと、人生に疲れたライターと、腹芸の上手い出版社。
そんな物語が、なぜか一流のエンターテイメントに転化する。驚くべき筆力だ。
この物語のキーマンはオレンジハウスの藤堂女史であろうか。物語が二転三転するきっかけをつくり、非常に巧妙に著者に代わって読者を誘導していく。
物語はタイトルの通り、女流作家をめぐる4つの神話を紐解いていく過程をたどるが、それぞれにそれなりのクライマックスが用意されているため、なんとなく、「あら? 終わるはずなのにまだこんなに残ってる?」と残りのページ数が気になってしまう奇妙な感覚も楽しめる。
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篠田節子にしてはイマイチ地味。
派手に事件が起こるわけではないせいか、ラストへ向けてのドキドキ感に欠ける。
ただ、一応、最後まで読ませる文章力と構成力。
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読後感のよい作品です。
序盤はなかなかのめりこむことができませんでしたが、物語が進むにつれてどんどん引き込まれました。一人の故人について世間の評価・仕掛け人側の意図という固定概念がすでにありながら、多方向からの調査によってどんどん覆していく。何人もの登場人物それぞれの立場による故人に対する思い・行動がきっちり書き分けられていて、完全に薄っぺらいだけの悪人なんて存在しないんだなぁと気づかされます。最後にはちゃんと精神的な救いもあり、物語当初よりももっと壮大な企画として結末を迎えます。
要約を「衝撃作」と締めくくるほど衝撃的な内容はでてこなかったように感じたけれど、とてもいい作品だと思います。
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人妻でありながら、美貌やライフスタイルやセンス、その全てが女性たちの憧れを誘い、33歳のデビュー作からあっという間に売れっ子になった作家・夏木柚香。しかしながら彼女は病気で急逝、すでに5年が経過している。小山田万智子はそんな彼女の評伝を書くため、彼女の取材をはじめるのだが・・・そこで見えてくるのは彼女の知られざる一面ばかり。彼女は一体、何のために小説を書き、何のために生きていたのか?
作品の華々しさとは裏腹に、彼女の実生活は結構すれたもので・・・まぁ、ありがちな話だけど。芸術面の描写は篠田さんお得意ですが、ちょっとお腹いっぱい感が(^^;この”夏木柚香”の表セレブ生活も、ちっとも羨ましく感じない庶民な私の感覚のせいかしら。
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急逝した女性作家夏木柚香の評伝を書く女性ライターが、隠された柚香の本当の姿を追求していくお話。恋愛だけでない女性の幸福を考える内容。男が読むとチョット疎外感を感じる
(2005-08-20)
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女性大衆作家の評伝を書く女性ライターってことで、途中まではいかにも女性向けの内容だけど、ラストまでの盛り上げかたはやっぱりうまいです。
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作家・森瑤子がモデルと噂の小説・・・らしいです。
森さん自体にはそこまで近しくないものの若干興味があるのでメモ!
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リサイクル市で無料で古本をもらう。
亡くなった女流人気作家の過去が、
主人公のライターの取材によって
次々と覆され、
最後に真実にたどりつく構成が
読み応えがあり、面白かった。
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急逝した女流作家の生涯を描く評伝を書くように依頼されたライターが、作家の真実の姿に迫っていく様子を描く。その姿が「神話」として浮かび上がる。
女性ライターや記者に多く取材し、その立場も小説の中に取り入れながら進展していく。
こういう展開は、さすがに篠田節子、うまい。
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人妻の恋を描いた小説を量産した果てに早逝した作家、夏木柚香。その美貌と洗練されたセンスゆえに女性たちから絶大な支持を得ていたが、死後数年が経った今、次第に世間からは忘れ去られようとしていた。
フリーライターの万智子は、敏腕編集者の藤堂から、夏木の伝記の執筆を依頼され取材を始めるが、当初バブル作家と侮っていた夏木の様々な面に触れるうち、夏木の実像に近づこうとのめり込んでいく。
40歳間近、独身で仕事も減る一方のフリーライターがきらびやかで伝説的な作家について書くという対比がいい。
万智子の屈折していた視線が次第に熱を帯びていくさまに共感できる。
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作家と出版社、影の作家と取材先にまつわる話。
最後は能の台本をめぐる、めまぐるしい展開に、
主人公がどこまでついていけたのかよくわからなかった。
出版業界の話題なので、参考文献はないが、
能に関する謝辞など、いつもながらきめこまかい。
物語の方向が2転、3転し、どこに焦点があたるのかわからないという点では推理小説のようでもあった。
著者ならではの渋い視点が冴えている。
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モデルとなった女流作家のファンだったので読んでみた。
その人を知っている人なら、誰でも彼女を思い浮かべると思う。
それでいて、この赤裸々な書きざま。
男性関係や夫との関係、借金がいくらあったとか、まさに「死者に鞭打つ」暴露のオンパレード。
確かに彼女は「死んで5年たったら忘れられる」タイプの作家だった。けれども、それなりの矜持を持って書いていたと私は思う。
せめて、彼女の理解者であった能楽師とはプラトニックな関係であったとしておいてほしかった。実際のところはどうだかわからないが、彼女の最後のプライドは守ってほしかった。それが、死んでいった人間に対する、人としての最低の礼儀ではないだろうか。
「ものを書く女性」としての対比は面白かったので、星2つにしておくが、2度と読み返すことはないだろう。
篠田さん、あなたが亡くなったあと、あなたがモデルだとはっきりわかる形で、あなたの男性関係や金銭問題を赤裸々に(それも本当のことかどうかもわからない形で)暴露されたら、どんな気持ちになりますか?
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面白かった。
人生に切羽詰まったフリーの女性ライターが、亡くなったベストセラー作家「夏木柚香」を取材し、彼女の評伝を描く。
人ひとりの人生を書くというのは、やはり大変なことだと感じた。
万智子の「視点」が変わっていくのと同時に読み手のこちらの夏木柚香に対する気持ちも変わっていくのがとても興味深かった。
万智子のライターとしての成長物語としても読めるし、彼女が仕事に真摯に向き合ってきたからこその結末の総合芸術につながったんだなあと思った。