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著者紹介
沢田 秀男
- 略歴
- 〈沢田秀男〉1933年神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。国土庁地方振興局長などを経て、現在、横須賀市長。地方自治経営学会参与。
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紙の本
横須賀の市民に語りかける名物市長の都市づくり理念。百歳のおばあさんが読むのを楽しみに。
2003/11/01 11:38
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投稿者:良書普及人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ふと手にした本が心に訴えるという本はあるものである。こういう本がひょっとしたらそういう本かもしれない。
横須賀市の沢田秀男市長が、「広報よこすか」という市の広報誌に掲載したエッセイを本にまとめたものであるが、優しく市民にささやきかけるような内容が心に響く。百歳の寝たきりのおばあさんが、この市長のエッセイが楽しみで、家族が耳元で読んで聞かせると嬉しがるのだそうだ。内容を読むと、さもありなん、と思える。
霞ヶ関勤務、全国の自治体勤務を経て、10年前に横須賀市の市長に就任して以来、沢田市長は、前例にとらわれない柔軟な発想で、先進的な施策を推し進め、現在横須賀は、文化行政、環境行政、防災行政、情報化行政など、多くの分野で全国の模範となるような実績をあげてきている。掛け声だけのスローガンをぶち上げてやった振りをしている、顕示欲の強い首長率いるいくつかの自治体とは全く異なる姿勢である。
ワインのように実績が熟成するような行政、それをさりげなく、市民に語りかけ、啓蒙し、広範な支持を受ける、なかなかの手腕を感じさせる。
本の中では、これまでの行政経験の中で得た知見も至るところに紹介されている。1985年のメキシコ地震の際に、当時国土庁防災局審議官の沢田氏は、政府調査団長としてメキシコに滞在、かの国の防災体制について指導する中で、メキシコ側が、日本の組織的防災訓練とそれを支える自主防災組織に大変な興味を示し、我が国が苦労して築いて来た組織が自治の発達していない開発途上国の人々には驚くべき組織のように写っているとの逸話も紹介している。こうした話は、書評者にとって、恥ずかしいながら、初耳であった。
普段、面倒だと思っている地域防災活動も、諸外国から見ると驚嘆の組織として注目されているのである。
歴史上横須賀で有名なのは、小栗上野介忠順である。横須賀造船所の創始者であったが、徳川慶喜は、大政奉還後、建設中の造船所の爆破を命じた。小栗は日本の将来を案じ、建設を続行。勝海舟が西郷隆盛との交渉で江戸を官軍の放火から救った背景には、造船所を官軍に渡すことを持ち出したことも切り札として機能した事情もあったようである。沢田市長は、こういう横須賀の歴史も振り返り、さりげなく市民に歴史教育も行っているのである。小栗先生も、草葉の陰で喜んでいる事は必定。
横須賀と言えば、基地の町で、さぞ殺伐としているかのように思う人が多いかもしれない。しかし、それは全くの誤解である。外国人が多く、市の雰囲気はエキゾチックで、文化と環境の宝庫である。こういう町にしようという、市民と市役所が一体となった営みの成果だと思う。そういう市にふさわしい市長が、今、横須賀にいるということが、この本から伝わってきた。