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商品説明
橘奈良麻呂の乱が平定されてから3年半。恵美押勝と名を変えた仲麻呂は、新帝を自在に操り、その体制は磐石に見えた。黄金を狙い陸奥を支配下に置こうとする押勝に対し、官人となった蝦夷・牡鹿嶋足、そして物部天鈴は…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
高橋 克彦
- 略歴
- 〈高橋克彦〉1947年岩手県生まれ。早稲田大学商学部卒業。83年「写楽殺人事件」で江戸川乱歩賞受賞、作家デビュー。著書に「北斎殺人事件」「総門谷」「浮世絵鑑賞事典」など。
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紙の本
『火怨』の主人公であったアテルイが実在の人物であったことを読後に知ってびっくりしたことがあったが、ここでこの牡鹿嶋足には実在したモデルがあることを知ってまたまた驚いた。史実をなぞっておくことの楽しみとは。
2010/11/21 19:10
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
牡鹿嶋足は「橘奈良麻呂の変」鎮圧に大いに功績があったものの、あえて表舞台に立とうとしなかったため、彼を陸奥守に出世させたいともくろむ物部天鈴からみれば大いに不満があったが、それでもこの第2巻の冒頭で、天皇の身辺警備を務める授刀衛(じゅとうえい)として「従7位下」の位階を授かっている。さらに本巻の最終では「従4位下」に昇格する。だが私には獣扱いに蔑視されていたという蝦夷(えみし)が朝廷内で官人として昇進できるのだろうかと割り切れない気持ちがあった。
ところがである。
道嶋嶋足
「奈良後期の武将。陸奥国牡鹿郡の出身者で、中央大官になり、一族あげて陸奥経営に大功があり、古代史上例外をなす人である。はじめ丸子氏、次いで牡鹿連となる。〈体貌雄壮、志気驍武〉といわれ、馳射をよくした。757年(天平宝字1)橘奈良麻呂の変で主謀者のひとりとされた賀茂角足に請われ、高麗福信らとともに額田部の宅に酒を飲むと伝えられる。このころ従七位上授刀将曹に任ぜられていた。764年(天平宝字8)恵美押勝の乱にさいし将監坂上苅田麻呂とともに、詔を奉じて疾く馳せ、恵美訓儒麻呂を射殺した。この功により、従四位下勲二等、姓宿衝を賜り、授刀少将兼相模守となった。翌年(天平神護1)中将に転じ、本姓を改めて道嶋宿衝となる。その後正四位上までのぼり、内遠頭、下総守、播磨守を兼任した。この間、767年(神護景雲1)〈陸奥大国造〉に任じ、その功田20町は、大功田に准じている。『陸奥出身の坂上田村麻呂』というべき人であった。」(平凡社世界大百科事典)
歴史小説や時代小説を読んでいてただ読むだけではなく、こうしたちょっとした史実を知ることによりさらに興味がぐ~んと深まり、物語の迫力が倍増することは間違いない。異例の栄進を遂げた「古代史上例外をなす人物」「陸奥出身の坂上田村麻呂というべき人」であったのだ。なるほどこれであれば蝦夷たちが彼を陸奥守として迎え、陸奥経営を任せたいとする大戦略も納得できるというものだ。
「立志篇」ではこの史実にそった「橘奈良麻呂の変」を小説的面白さで未然に平定した嶋足・天鈴がこの「大望篇」ではさらに奇想天外な機略を弄して「恵美押勝の乱」をプログラミングする。
奈良麻呂を打倒し、醇仁天皇を擁して独裁政権を確立した藤原仲麻呂(恵美押勝)。彼の後ろ盾になっていた藤原一族である光明皇太后の死によりその権勢にかげりがみえる。孝謙上皇との対立。
この権力闘争をあおりたて、蝦夷のために利用しようとする物部天鈴。その秘策は同じ物部氏に連なる弓削道鏡、一介の祈祷師にすぎなかったこの食わせ者を女帝孝謙上皇に接近させることであった。そうか、あの怪物僧・弓削道鏡はここで登場するのか………などとギクリとさせられ、天鈴のはかりごとが順調に進むのか。どっこい、そううまくはいかない。彼の想定外の裏切り行為も連続する。どうなるどうなると………。そして小説家が自在に操る、読者が予想もしないドラマチックな虚構世界に没入させられるのだ。
もちろん「大望篇」の粗筋は史実どおりに孝謙上皇派に反旗を掲げた恵美押勝のクーデターが失敗するプロセスである。そして先に紹介した通説が述べているように、嶋足は坂上苅田麻呂とともにクーデター鎮圧の功で異例の昇進を遂げることになる。
所詮、結末は史実に収斂する。そして第3巻「天命篇」は道鏡打倒であろう。
それがわかっているからこそ面白いという小説作法が歴史小説のひとつの要なのかもしれない。