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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2003.6
- 出版社: 窓社
- サイズ:21cm/278p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-89625-052-4
- 国内送料無料
紙の本
もうみんな家に帰ろー! 26歳という写真家−一ノ瀬泰造 テンオックネァ、タウプティヤ!
著者 一ノ瀬 信子 (編)
故郷から戦場まで、あくまでも自分自身を信じて摂り続けた写真家・一ノ瀬泰造の心のありかを探った、もう一つの写真集。息子の遺志と夫の願望、そして母の気づきとあふれる愛情が30...
もうみんな家に帰ろー! 26歳という写真家−一ノ瀬泰造 テンオックネァ、タウプティヤ!
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商品説明
故郷から戦場まで、あくまでも自分自身を信じて摂り続けた写真家・一ノ瀬泰造の心のありかを探った、もう一つの写真集。息子の遺志と夫の願望、そして母の気づきとあふれる愛情が30年を経て実を結ぶ。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
一ノ瀬 信子
- 略歴
- 〈一ノ瀬信子〉名古屋市生まれ。写真家・一ノ瀬泰造の母。
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紙の本
甘えなき、家族の肖像。
2012/08/10 21:50
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:奈伊里 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「地雷を踏んだらサヨウナラ」ということばを残し、26歳でこの世を去ったカメラマン一ノ瀬泰造。彼の残した写真や手紙は同名の本で広く知られているが、本書は彼だけの作品ではない。これは、息子と、その両親の合作だ。彼を産み、育て、見守り、見届け、送り、そしてさらには息子の生に再び命を吹き込もうとする一夫婦の、ひたむきな記録。彼らをつないだたくさんのフィルムの記憶。
1973年末カンボジアで消息を絶ったまま生死は未確認であった息子の、遺体を確認する日が、両親にやってくる。1982年、それが撮れたら死んでもいいと泰造が語っていたアンコールワットの近く、プラダック村で、両親は骨となった彼に再会。二人は、息子の、泥にまみれた頭蓋骨を近くの川で、まるで初湯をつかわせるように洗ってやる。
その哀しみを糧に、短い人生を生き抜いた息子の確かな生を糧に、自宅にしつらえた暗室で夫婦の共同作業が続いていく。遺されたフィルムを焼き付けていく。息子の足跡を辿っていく。「絵本のような写真集を作りたいネ」と言い合い言い合い続ける作業の「緒」にもつかぬうち、夫は先に逝ってしまうが、妻は様々な励ましをバネに、一人で暗室作業を続けていく。
巻末の「暗室日記」は、力強く、静謐なエネルギーに溢れた記録だ。
そして、この写真集はできあがった。見届けるのは母一人だが、写真という媒体を通して、甘えのない、寄り合わない、家族3人の時間が息づいている。
泰造は一人戦場に出かけていき、飽くまでフリーランスとして、従軍しながら、一人で、現場で、写真を覚えた。写真を撮らない日が4日も続くと不安を覚えるし、自らも負傷した手痛い攻撃が終われば、あんな取材二度とできないのではと悔しがる。ファインダーをのぞいてりゃおそろしいことはないと、どんどん被写体に近づいて撮る。それが泰造流。望遠でひいて撮るなんてことに満足できない。とにかく、寄る、寄る、寄って広角で撮る。TTLを使うのはすぐにやめ、露出は瞬時に経験値で決めていく。被写体が目の前にあれば、平気で敵に背を向ける。
「好きな仕事に命を賭けるシアワセな息子が死んでも悲しむこよないョ、母さん」と書いてよこす息子に、母は恐ろしさで胸の騒ぐ自分が情けないと伝える。看病してあげることが出来なくて残念だと言いつつ、帰ってほしいと願うことはない。無類の女好きを自称する息子に、タムシチンキを送ってやる。
母は、山ほどの不安をかいま見せず、驚くほど果敢に息子を送り出している。母は息子に甘えない。「暗室日記」でしばしば彼女の作業を中断する目の痛みは、泰造が生きていた頃からのものだ。自分に、息子という他人に、甘えない姿勢が、母の人生を貫いている。
自らも二次大戦時から写真を撮っていた父は、言葉少なに息子を見守る。書かれた手紙も、なんら息子の行動を規制しない。ただ、誇りを持って見守っている。その姿勢が、結局は自分で選び取るしかないのだという教えになっている。
両親より先に死ぬことがいちばんの親不孝だとよく言われる。でも、この両親は、そのことを訴えない。息子の短い人生、息子の青春を誇りに思い、それを支えにして生きている。そういう息子の行動を許容したのは自分たちなのだから、息子の死をも、責任持って背負って生きていく。その証が、この写真集だ。
現在と何ら変わりのない、痛ましい戦場。戦時下にあっても営々と続く人々の生活。
切り取られた写真の中には、それら被写体に寄っていく泰造の姿も見える。一枚一枚焼き付けていった両親の姿も見える。
類を見ない、甘えなき家族の肖像が、そこにある。