これはジャックのたてたいえ

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投稿者：wildflower　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

この本のタイトルが、マザーグースの唄を元にしていることも知らずに

手に取りました。著者はコールデコット賞を何度も受賞しておられる

シムズ・タバックさん。ひねりの効いたおしゃれな訳は木坂涼さんです。

知り尽くされた唄を絵本にするのは難しいのでは、というのは杞憂で

表紙だけでもカラフルでポップな作品。中身はもっと！パワフルでした。


文字が切り紙を自在に貼りつけたような、自由なレイアウトです。

そもそもジャックのたてた家そのものが、どこか妙に積み上がって

できています。ちょうどこれから始まるつみあがりうたのようです。

めくったその瞬間から、くすっと笑いたくなるちいさなしかけが

あっちこっちに書かれています。文章で、あるいは注釈として。


これはジャックの建てた家、

これはジャックの建てた家にしまってあったチーズ、

これはジャックの建てた家にしまってあったチーズを食べたネズミ、

これはジャックの建てた家にしまってあったチーズを食べたネズミを

やっつけたねこ……。

こうして、どんどんどんどんと積み上がっていくことばたち。

この唄そのものがもつおかしさも十分に面白いのですが

この絵本の凄さは、それだけではありません。

その１フレーズごとをが見開きいっぱい、ダイナミックに描かれます。

最初に「とうじょうじんぶつ　順不同…」などと出てくる人物や動物を

あらかじめジャックの家に住まわせて紹介してみたり

ジャックがしまってあったチーズの説明を事細かに書き分けてみたり

（アメリカンプロセスチーズ以外は”くさい”なんて思い切った表現も！）

最後の最後にヒミツの人物が出てきたり。

そしてさらにおかしなおまけは、表紙を裏返すと大工なジャックが

オススメする大工道具一式の広告ページになっているのですね。

それらにもちいさなことば遊びは散りばめられています。


このつみかさねうたはもともと16世紀のヘブライ語の遊びうたから

発祥したとか。

こういう形式ので面白く読める作品は、ほかにもいくつかありました。

アメリカなら、ローレン・トンプソンさんの『パパがやいたアップルパイ』が

あります。

ふと、連想したのが谷川俊太郎さんの『これはのみのぴこ』でした。

どんどんどんどんと、説明のことばが連なっていきます。

そして、その先に目線は広がっていったり、狭まっていったりします。

じゅげむじゅげむ…にもちょっと通じる呪文のようなことばの連なりを

楽しみつつ、絵本として目から得る楽しみも満載です。

いま品切れなのが惜しまれます。ぜひ図書館などで出会ってほしい１冊。