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紙の本
その日の空は本当に青かった
2006/10/14 02:32
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タコQ - この投稿者のレビュー一覧を見る
中園直樹『オルゴール』(幻冬舎、税込440円)を読んだ。やり切れなさが、胸の内でわだかまった。
これは批評ではなく、書評である。ネタバレを避ける配慮に貫かれていることをまず、確認しておく。
《「青いね」
彼の目から涙がひとすじ流れる。
その日の空は本当に青かった。》
カミュが『異邦人』で描いたように、人は「太陽のせいで」人を殺しもする。しかし、中園直樹が描く少年は、空の青さに涙する。その感性のナイーブさにこの小説は賭けられている。その感性のために、いじめを書いてもじめじめしないのだ。
誰もが「太陽のせいで」人を殺す可能性をもっているように、誰もが空の青さに涙する可能性をもっている。すると、空の青さに涙するような感性が、いじめを招くとしたら、いじめはこの少年だけの問題ではないのではないか。誰もがもっているような、空の青さに涙する感性を描くことで、中園直樹はいじめの問題を普遍化して見せた、といえるだろう。
旧約聖書伝道の書に 《太陽の下で何も新しいものはない》 という一節がある。たしかに神の視点から見れば、新しいものはなにひとつないのかもしれない。しかし、人間はいくつになっても、「新しい」ものを見つけうるし、繰り返される日常のなかに、なにか新鮮なものを求めて生きている。それが十代の少年となれば、「新しい」ものは彼の目の前に無数にひろがっているはずである。しかし、少年も大人も、無数にあるはずの「新しい」ものに気づかずに生活のなかに埋もれて暮らしている。それでも、ふとしたきっかけで「新しい」ものを発見し、驚くのである。
《君、緑が目に跳びこんできたことある? 空の青さに驚いたことある?[……] 世界がすべて輝いて見えて、まわりの景色に驚いてばかりなんだ。 [……]君の顔も初めて見たみたいな気がするし、街灯の光も、照らされて浮かびあがってくる緑も、すべてが輝いて見えるんだ。》
センス・オブ・ワンダーといいたくなるような、このような発見の瞬間、幸福な瞬間は、しかし長くはつづかない。空の青さに涙した少年は、そのナイーブな感性のゆえに、現実の荒波に呑みこまれてしまう。
いじめを主題とした本書は、十代の共感をうるだけではなく、ひろく大人にも読まれてしかるべきではないだろうか。
最後にわたしから、若い人たちへのメッセージを書いてこの文章を閉じたい。
《新しい人よ眼ざめよ》(大江健三郎)
本書はきみが目覚めるきっかけとなるかもしれない。中園直樹とともにいじめのなくなる日を願って。