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商品説明
1905(明治38)年、東郷平八郎司令長官が率いる大日本帝国連合艦隊は、日本海に大国ロシアのバルチック艦隊を迎え撃った。日本海海戦に従軍した海軍大尉が日本海海戦の実像を克明に描く。博文館明治44年刊の再刊。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
水野 広徳
- 略歴
- 〈水野広徳〉1875〜1945年。愛媛県生まれ。海軍兵学校卒業。海軍大尉として日本海海戦に従軍、その後反戦思想家に転じる。
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紙の本
娯楽作品として読んで面白く、戦争と平和について考えるに示唆に富む。
2004/07/08 03:26
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アルテミス - この投稿者のレビュー一覧を見る
表題の「此一戦」とは、かの有名な信号文、「皇国の興廃此一戦に在り、各員一層奮励努力せよ」の、「此一戦」である。さらに具体的にいうなら、日露戦争の帰趨を最終的に決した、日本海海戦を指す。
本書は、日本海海戦に水雷艇長として従軍した海軍軍人がその6年後に発表し、当時のベストセラーとなった戦記小説を、日露戦争開戦100年を記念して復刊したものだ。
まずは、復刊に当たっての編集部の方針に賛意を表したい。
ひとつは、現代人が容易に読めるようにと配慮している、ということ。
明治時代の作品であるから原文はすべて旧字であった筈だが、それをほぼすべて新字に置き換え、更に、ルビをふんだんに振っている。また、現代では使われなくなった語句にはカッコ書きで解説を加えている。
資料として読もうという研究者には余計なことかもしれないが、本書はそもそも一般に広く読まれる目的で書かれたものである。この配慮は妥当なものだと思う。
もうひとつ、語句の解説は豊富だが、内容の解説はほとんどしていない点、これも良いと思う。
内容を解説しようとすれば、現代的見地からの評価を含まずには済まない。しかし、その評価は読者それぞれがするべきものだ。
当時の人間には常識であったが現代人にはそうではない事柄を述べてある部分もあろうし、その部分だけでも註を入れるべきではないかという意見もあろうが、その線引きをどこでするかというのは難しい。
次に、読み物としての本書について。
一言で評すると、面白い。
実のところ読む前は、本書が当時ベストセラーとなったのは、今より遥かに情報の少なかった時代、歴史的大勝利の経緯を知りたい人が本書以外にその興味を満たす手段を持たなかったからだろうと思っていた。
しかし、いかにも明治の美文ではあるが、躍動感ある文章は読者の興味を惹きつづける力を有している。
ことに著者自身がその一員であった水雷艇の闘いを語るくだりとなると、描写のひとつひとつがリアリティにあふれていて、ページを繰る手が自然と早くなっていく。
三つ目。本書ならではの記述。
私は日露戦争についての勉強を始めて一ヶ月強にしかならない身なので、この点を評価するには役者不足ではあるが。
日本海海戦についての本と言うと、まず大抵は「東郷ターン」と呼ばれる敵前大回頭に始まる主力艦隊同士の砲撃戦に多くのページが費やされており、その夜の駆逐艦や水雷艇の活躍はごく簡単に済ませて翌日の敵将の降伏に記述が移ってしまう。
しかし、小型艦艇の夜襲によって沈んだロシアの主力艦は一隻二隻ではない。
その経緯を書いた本がないものかと探していた所であったので、本書は大変ありがたかった。
最後に、この著作に対しての、現代人である私の見解であるが。
公平である、と思う。
最後の2章で勝因と今後どうあるべきかについての論述があるが、世界の海戦史上に類例のない一方的大勝利を遂げた側の著作であるのに、驕り高ぶるところがない。
また、実際の戦闘を描いた部分では、活劇として描写する一方で、戦争が惨事であることを強調してもいる。
この著者はのちに平和主義者に転じて退役することになるが、その萌芽は本書にも見出しうる。
軍人でありながら、それも敗北ではなく勝利を知っていながら平和を志向することになった人の著作は、現代の日本人にも示唆するところは多いのではなかろうか。