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バルーン・タウンの手品師 (創元推理文庫)
バルーン・タウンの手品師
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紙の本
愛すべきヘソ曲がり探偵、再び!
2004/10/27 06:49
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:べあとりーちぇ - この投稿者のレビュー一覧を見る
先日、「バルーン・タウン」シリーズの第1作『バルーン・タウンの殺人』が復刻された時から、どうせなら全部文庫で揃えたいと思ってずっと待っていた。人工子宮(AU)が普及し、40週間も大きなお腹を抱えていなくても子供を持てるようになった近未来。独特の価値観を持った妊婦たちが集う東京都第7特別区、通称バルーン・タウンという「妊婦だけの町」の物語第2弾である。
登場人物たちは前作から引き続いて妊婦探偵の暮林美央、登場回数は減ったもののやはり何かと駆り出される東京都警刑事・江田茉莉奈。ワトソン役は前作の「バルーン・タウンの密室」から登場した有明夏乃が絶好調で、さらに本書からは新しく、東都新聞記者(家庭欄担当)・友永さよりが加わる。どの人物も魅力的だが特にさよりは設定が狂言回し的なところがあるのか、性格といい風貌といい事件への巻き込まれっぷりといい、気の毒ながら妙に笑えるのである。
前作でめでたく男の子を産み落とし、バルーン・タウンから去った筈の元妊婦探偵が、なぜまた本書にも登場するのか? そのあたりは本書に納められている4つの短編たちで少しずつ明らかになる。基本的に1話完結だけれど、全体として起承転結を構成しているあたりもなかなかニクい。
やはり本書でも暮林美央の名探偵ぶりは健在。「不精で掟破りで過激な不良妊婦」というキャラクター設定も相変わらずだけれども、実はそれはご本人の演出ではないだろうかと読み終わって感じた。妊娠した経過とか、バルーン・タウンに来た理由とか、恋人のプロポーズを断り続ける訳とか、彼女が主張するほどには唯我独尊的なものではないのではないか…と。この辺りは次作『バルーン・タウンの手毬唄』では明らかにされるのだろうか。楽しみである。
さらに各短編のパロディ的性格もますます好調である。特に「オリエント急行15時40分の謎」と「埴原博士の異常な愛情」では、タイトルを聞いただけでミステリファンは思わずにやりとするだろう。「オリエント…」ではタイトル通りクリスティの『オリエント急行殺人事件』が絶妙に絡んでいて、つい「そう来たか!」と唸ってしまった。
相変わらず「コウノトリ待ち」の身の上からすれば、町行く妊婦のお腹は実に誇らしげな旗印として眩しく目に映る。特にこの舞台となっている時代の、人工子宮が当たり前の風潮にあえて背を向けて生身の妊娠・出産を選ぶ女性たちにとっては、その誇らしさはいや増すものだろう。
誇りを夢や希望と言い換えてもよかろうが、そういうファンタジックな性格とある意味グロテスクな性格を共に内包する「妊娠・出産」の2面性を、「バルーン・タウン」そのものが持っている。特に「埴原博士の異常な愛情」では、その2面性に強いメッセージを持たせてあるのが印象的であった。
妊娠・出産にまつわる独自のトリックと謎解きであっと驚かされ、硬派なメッセージ性にドキリとし、暮林美央の今後の恋路(?)に胸ときめかせる。いろいろな楽しみ方ができる本書はやっぱりお買い得なのだ。第3作ではどんな大団円が待っているのだろうか、文庫化をキリンのように首を長くして待ち侘びているのである。