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収録作品一覧
完璧な病室 | 7-73 | |
---|---|---|
揚羽蝶が壊れる時 | 75-132 | |
冷めない紅茶 | 133-188 |
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紙の本
完璧な病室。
2005/10/09 15:08
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:豆丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
弟は21歳で死の病にかかった。
主人公の私が静かに死んでいく弟を看病する話。
死に逝く弟が漂白されていく中、自分たちの生活はのろまに過ぎて、死に逝く弟が葡萄をスルスルと奇麗に食べる中、自分たちはシチューをがっつかないといけない。
なんだか読んでるうちに生きて生活し、物を食べることがとても余分なことに思えてくる一冊。
芥川賞を受賞した「妊娠カレンダー」でもそうだけど、この人の本は食べるということがとても、グロテスクなことのように思える。
「完璧な病室」は短編集だけど、そのどれもが気だるい雰囲気の何ともいえない素敵な話達があります。
読んだ後食欲をなくす話ばかりです。
減量中にお勧めですよ。
それにしても、何故食べたり、作ったり、しながら生きていかないといけないんだろう。
腐敗をしていくあらゆるものの中で、自分たちは生きているんだと思い知らされました。
紙の本
作家の出発点
2011/09/25 12:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初期の2編、「完璧な病室」と「揚羽蝶が壊れる時」を収めている。
先に置かれた「完璧な病室」は、いつもの小川洋子である。
といって一冊しか読んでいないのだが、その1冊、短編3編を収めた文春文庫『妊娠カレンダー』には、これで決定的にこの作家がわかった、と思わせるものがあったのだった。
まず文章。いわば植物の枝葉の先々まで水が沁みわたるように、細部まで行き届いた繊細な意識。またここでも同じモチーフ、テーマが出てくる。プール、ないしは水泳、「先生」の存在、母の精神病というしょうがいの要素。
そして愛おしむような思いと哀しみ。やはりここにあるのも、生きる中で立ち現れる裂け目である。直接にはそれは弟の死であって、物語はまとめてしまえば、弟の死に寄り添う中で、その最期までの日々、今までにない親しみを獲得してゆく姉の姿、ということになる。ちょうどそれは出産に至る姉と同期する「妊娠カレンダー」の裏返しともいえるだろうか。芥川賞は「妊娠カレンダー」だが、最初に芥川賞候補になったこの作品のしみじみとした味わいをより好む読者もあるのではないか。ちなみに、これはデビュー2作目のようで、ここに併録されている最初の「揚羽蝶が壊れる時」が『海燕』新人文学賞、ついで、この「完璧な病室が最初に芥川賞候補になり、ついで「ダイヴィングプール」と「冷めない紅茶」も候補になり、4回目に候補になった「妊娠カレンダーで受賞ということらしい。
その「揚羽蝶が壊れる時」。事実上のデビュー作らしいこの作品は、早稲田大学文芸部時代の恩師である平岡篤頼の解説によれば、卒業小説を元にしたものだそうで、後の作品を読んだ目から見ると、まだ習作っぽい感じもある。柔らかな言葉、流れるような文章がスタイルだと思っているのに、ここでは言葉は硬質で、文章も、流れるよりもあえて引っ掛からせようとしているかのようだ。だから単純に悪いとか拙いとはいえないだろうが、やや読みにくいのはたしかである。
その後、小川洋子のマークのようになる現実と非現実の境界線が不確かであやふやな感覚は、のちの作品では舞台装置のようなものだが、ここではテーマになっている。題にある「揚羽蝶」の脆さ、また「壊れる」という語に託された不安の世界だろう。
語り手は親のいない若い娘奈々子。長く一緒に暮らした祖母さえが認知症になり、施設に入れることになって、むしろ別の次元に生きている祖母の世界が現実で、自分が非現実ではないか、という感覚を持つようになる。一人称で語り手の視点から語られているのに、祖母のことはずっと名前の「さえ」として語っているのもその辺の微妙な距離感を表すものか。
他方、奈々子は妊娠しており、その違和感もまた己の現実をいっそう不確かなものにしている。
死に近づいた祖母と、生まれてくるおなかの子供の両方が登場して、相乗的に奈々子の不安を駆り立てていくわけだが、このデビュー作で共存するこれらのモチーフは、やがて「完璧な病室」における死の物語と、「妊娠カレンダー」における誕生の物語とへ分岐してゆくということだろうか。