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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2004.12
- 出版社: 西村書店
- サイズ:19cm/251p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-89013-601-0
紙の本
ミラード
きっとわかるだろう。残酷きわまりないメルヘンは、世界中のどこでも、どの時代にもくり返されるということを…。義父に痛めつけられ、傷を負い、空腹と孤独感をかかえて一目散に岩山...
ミラード
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商品説明
きっとわかるだろう。残酷きわまりないメルヘンは、世界中のどこでも、どの時代にもくり返されるということを…。義父に痛めつけられ、傷を負い、空腹と孤独感をかかえて一目散に岩山をめざしたミラードの前に現れたのは…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
ラフィク・シャミ
- 略歴
- 〈シャミ〉1946年シリアのダマスカス生まれ。71年旧西ドイツに移住。著書に「蝿の乳しぼり」「夜の語り部」「マルーラの村の物語」など。
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紙の本
21日間つづけてお腹いっぱいで過ごせたら宝物をあげる——妖精の誘いにのり、貧しい故郷の村を出て旅をするミラードの物語。アラビアン・ナイト仕立ての大人向けおとぎばなし。
2005/01/26 16:40
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ソファーの上にふわりと投げだされた肢体にやさしく触れ愛撫するために、俺は三百の手と、三百の唇がほしいくらいだった。ところが、どちらも二つしか持ち合わせていない生身の哀しさ。俺は彼女にむしゃぶりついた」(151P)というような描写もあるので、「大人向けおとぎばなし」と見出しに断らせてもらった。でも、いったい、2つの唇って…?
これは、「第6夜・ミラードは売春宿でモラルを学んだ」という章からの引用である。第1夜から第8夜に至る連作短篇の形をとっていて、アラビア語の誕生日を意味する「ミーラードゥ」に似た響きの名を持つミラードが、いずれの話もむかし作者に語ったということになっている。
ミラードから聞いた物語ということで、その「語り」の面白さで楽しく読ませる本である。絶えず飢えにさいなまれている苛酷な生活から何とか抜け出すための旅、しかし行く先々でいろいろな出来事に巻き込まれ、波瀾万丈…という内容自体がまずは読ませる理由だが、それを滑らかで起伏ある「語り」にのせて…というのがラフィク・シャミの特徴。
『蝿の乳しぼり』『夜の語り部』『マルーラの村の物語』『空飛ぶ木』といった好評を博した短篇集群の方をまだ読んだことがない。けれども、もしかすると、語りが層を成して増殖していける長篇の方が、文体の点ではより多い魅力があるのではないかと推察している。今度、短篇もぜひ試してみよう。
「長篇の方が…」とそちらに旗を上げてみたのは、ミラードの物語もさることながら、全体としては、それを枠に入れたメタ構造になっているという点にユニークさを感じたからである。
ミラードの物語が始まる前のプロローグには、「はじめのうち物語は心の痛みを追いはらってくれたが、だんだんと悩みの種になった」という長い見出しがつけられている。ここには、一人称の「ぼく」が登場して、作家自身と思わせるように書かれている。大学の教員であるぼくが炎暑の日に、行き倒れに出くわすのだ。それが、故郷マルーラ村で幼いころによく話を聞かせてくれたミラードであったというのだ。
そのプロローグが終わると、シャミは「この物語は自分で創作したものでなく、聞き書きしたにすぎない」と一葉差し挟み、ミラードの語りを始めさせている。話者を二重にするということで、物語の深みにはめようというわけだ。
マルーラは、シャミの故国シリアでは特殊な土地柄で、住民の大半がイスラム教徒ではなく、ギリシア正教徒とカトリック教徒。シャミの両親の故郷であるその村では侵略の歴史が繰り返され、ミラードの話のなかに、自分がまだ少年だった第一次世界大戦当時の人口が1000人程度。戦える男性が200人で、誰も村を離れられなかったという事情も書き込まれている。
それら武器を持てる男たちが働き盛りでもあり、戦いで彼らを失ったことがミラードの旅立ちの遠因になっているわけだが、よくある「自分探しの旅」でないところに目を引かれる。飢えから逃れ21日間つづけて満腹することに成功したならば宝物をあげると妖精にささやかれ、それが旅のモチベーションになっているのだ。読み易いおとぎばなし調の語りではあるが、一筋縄では行かない要素がさりげなく盛り込まれていて読みごたえがあった。