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収録作品一覧
新説「百物語」談義 | 京極夏彦 対談 | 7-25 |
---|---|---|
蜘蛛 | 遠藤周作 著 | 27-45 |
暴風雨の夜 | 小酒井不木 著 | 47-65 |
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紙の本
近代怪談の鳥瞰図
2005/03/18 15:44
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:黒塚 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アンソロジスト 東雅夫氏の編著である。近代以降で「怪談会」や「百物語」をテーマとした小説・評論が集められている。
巻頭には京極夏彦氏との対談が収録されており、「百物語」がいかなるものであったか、わかりやすく解題した後、いよいよ小説群が登場する。
遠藤周作の「蜘蛛」は、現在主流になりつつある実話怪談系のはしりとも言える作品で、マニアには評価が高いらしい。私は今回が初読だったが、目新しさは感じず、むしろ妙な大げささをいただけなく感じた。しかし、現在の私の目で見た「目新しさのなさ」は、つまりそれだけこの作品以後に類似の怪談作品が多く作られたのだという事実を示す。初出は1959年であり、東氏がこれを冒頭に置いたことから忖度するに、この作品が後に繋がる現代怪談のパイオニアであったことがわかる。戦後怪談文学を語る上での金字塔的作品と理解した。
泉鏡花「露萩」は、鏡花一流の怪異譚になるかと思いきや、妙な具合に話が進む。稀代の怪談者が「百物語」を題材にして書いた物語が、なぜ「こう」だったのか。東氏はそこに近代における百物語の衰退を透察されているが、私はむしろ「百物語」というものの本来的な滑稽性の表出であるように思った。
その感をいっそう強くするのが、森鴎外の「百物語」だ。タイトルに「百物語」と銘打ちながら、鴎外は怪異を全く書いていない。百物語に集まってきた人物群像を書いている。これが、非常におもしろい。百年前の高才による、百年前の人々に対する観察だが、それが全く古びず、現在の我々に違和感なく重なる。これが文豪の文豪たる所以なのだろう。「人生の傍観者」というキーワードが、何より心に残る。
そして、この鴎外作品を解説した森銑三の『森鴎外の「百物語」』は、紛れもない労作といえよう。さらりとした文章を読むだけでは看過しそうになるが、作品の成立の裏側をこれだけ綿密に考証するには、いったいどれだけの手間と情熱が注がれたのか。作品に対する愛情に感動するとともに、その姿勢に大いに共感した。
「岡山は毎晩が百物語」は実に岩井志麻子らしい作品だが、ラスト数行の巧さは流石である。単純に「怖い怖くない」の話をするなら、私は全作品中でこれが一番怖かった。
巻末は村上春樹「鏡」が飾る。一人称の体験談として語られる本作は、この世でもっとも恐ろしいものが何なのかを、嫌と言うほど思い知らせてくれた。この作品を最後に持ってきた東氏の卓見には感服するばかりだ。
今回触れなかった作品を含めると、収録作品は19作にのぼり、そこに先述の対談と東氏のエッセイ、そして解説が入る。質量ともに満足のいくアンソロジーである。私的には久しぶりの五つ星本だ。