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紙の本
「親でなし」より「人でなし」
2006/10/23 14:16
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hamushi - この投稿者のレビュー一覧を見る
ボーイズラブ小説では、肉親との縁が薄い人物がよく出てくるけれど、このお話の主人公の淳紀ほど、存在がすこぶる希薄なくせに機能不全ぶりだけは強烈に発揮する親をたらふく抱え込んだ少年も、ちょっとめずらしいかもしれない。
父子家庭で育った淳紀は、経済学の高名な研究者である父親を心から慕っているが、父親のほうは淳紀の存在を忘れがちで、ほとんど育児放棄に近い状態で放置している。愛情がないわけでもないのだろうが、他のことに気の回らない専門バカタイプであるのに加え、子供の自立性を重んじすぎて、幼い心に必要なケアをすることも忘却している。そのため淳紀は、心のどこかに常に父親に忘れ去られる不安を抱えていて、他人に対しても心を預けて信頼するということのできない、頑なな青年となってしまった。
淳紀には、この父親以外にも人でなしならぬ「親でなし」な連中がいて、地位や金をめぐるくだらない軋轢に、会ったことすらない息子を巻き込もうとして、あろうことかヤクザまで雇って何度も拉致をしかけてくる。
淳紀は、出生直後から自分を疎んでいるらしい「祖父でなし」の差し金で、佐宗慎という人物によって期間限定で保護されるのだが、素性の知れないこの美貌の男は、いきなりディープキスを奪った上に問答無用で淳紀を自宅に軟禁し、あか抜けない淳紀を自分好みの美青年に改造しようと、強引に迫ってくる。ほとんど人権を無視したような処遇であるにもかかわらず、肉親に興味を持たれずに育った淳紀は、何かにつけて構いたがり、時には身を挺してでも自分を守ろうとしてくれる佐宗に心が傾いていくのを止められず…。
ところでお話の本筋には関係ないのだが、読了後、いくつの疑問が残った。
まず淳紀の父親である誓志。
物語ではずっと海外赴任中で、追憶シーンにしか登場しないが、この人、かなり怪しい人物である。独身のまま淳紀を引き取って育て、淳紀が必要だと言えば母親を適当に見繕ってくるなどと言うほど、女性対しては情を持たず淡泊なくせに、後継者として目をかけていた学生(男でしかも大変な美貌の持ち主だったと後に分かる)が自分から離れたときには、我を忘れて飲んだくれるほど悲しみにうちひしがれるのである。この人、実は男が好きなんじゃなかろうか。そして恐らくそのことを、彼の父親であり淳紀の「祖父でなし」である青柳克之介も知っているのではあるまいか。
この誓志と佐宗との関係も、どこか曖昧なものがある。佐宗のほうには誓志に対して全く「その気」がなかったかもしれないが、誓志のほうは、もしかしたら「その気」満々だったのではないか。
そして「祖父でなし」の青柳克之介が、淳紀と佐宗がいずれ「そういう仲」になることを予測した上で、佐宗に淳紀の保護を依頼したことが後になって分かるのだが、実はこの「祖父でなし」は「親でなし」でもあったのではないか……つまり、妾腹の子であるとはいえ、父の意に染まない生き方を選んで父と縁を切った誓志対して、かつての思い人を息子とくっつけることで、ある種の意趣返しをしたかったからなのではないかと思えてならないのである。ラストのほうでの、佐宗に対する克之介の台詞を読んでいると、どうもそんな気がするのであるが……穿ちすぎであろうか。
あともう一つ。どうでもいいことだが、料理を全くしないはずの佐宗の自宅の冷蔵庫で冷凍保存されていた、頭付きの鴨肉は、その後一体どうなったのか。とても気になる。