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明治から昭和初期に書かれた怪奇小説の名アンソロジー!
2005/09/06 12:26
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
『創元推理文庫版・怪奇小説傑作集』海外篇全五巻は、怪奇小説ファンにとっては、バイブルのような存在である。以前から、日本編の刊行が待たれていたが、この度、同じ出版社からようやく刊行の運びとなった。明治から平成の百人の作家の百作品を三巻に分けて収録するということだが、愛好者には何とも嬉しいニュースである。
その第一巻として『日本怪奇小説傑作集一』(明治から昭和初期の一七編を収録)がこの8月に刊行された。今まで、似たようなアンソロジーは何種か刊行されていたが、後々まで読み継がれるようなものは少なかった。そのような中で、今回刊行されたこのアンソロジーは出色の出来栄えと評し得る。それは、編集方針が優れているためと言えるが、具体的には、類書には見られない三つの特色が与っているように思われる。
まず一つ目の特色として、大家の隠れた名品と呼ぶべき小説が多く選ばれていることが挙げられる。本書の冒頭を飾っている小泉八雲『茶碗の中』、夏目漱石『蛇』、森鴎外『蛇』などはその好例と言える。特に、漱石の短編は、モノクロームの背景に描かれる原色のイメージは不気味で、一読して忘れがたい印象を残す。また、漱石・鴎外という明治の二大文豪から同じタイトルの作品を並べ競わせているのも、あまり例がなく面白い試みと言える。
二つ目の特色として、あまり知られていない作家の名作を「発掘」して収録していることが挙げられる。例えば、村山槐多の『悪魔の舌』、大泉黒石の『黄夫人の手』、田中貢太郎の『蝦蟇の血』など。いずれも、谷崎潤一郎の初期デカダンス小説に近い作風だが、悪夢を見ているような濃厚な作品世界には独特のものがあり、現在でも充分読に耐える。編集者の優れた鑑識眼が窺える。
三つめの特色として、文学的な香気溢れる作品が収録されていることが挙げられる。怖い話ばかりだと、それがいくら優れていても、印象が平板となるのは避けられないが、そうした中に文学的な作品を挟み込むことでアンソロジーに奥深さを与えている。収録されている室生犀星の『後の日の童子』、川端康成の『慰霊歌』の二編は通常の小説としても素晴らしく、前者に漂う何ともしれない懐かしさ、後者の儚いエロティシズムは忘れがたい印象を残す。
以上のように、本アンソロジーは選び抜かれた作品が選ばれているが、作品の情報が充実していることも特筆すべきことと思われる。収録作品全てに、作家と収録作品の簡潔で的を得た情報が付されており、加えて巻末では怪奇小説の文学史な解説も載っている。これらの情報が行き届いているので、期せずして作家の思いがけない一面や「もう一つ日本文学の流れ」を知ることができるようになっている。
なお、本書のカバー表紙は、明治の版画を用いているが、妖しい雰囲気漂う本書によく合っている。見事な装丁で、このアンソロジーの魅力を高めている。総じて言えば、本書は、優れた作品、丁寧な解説、素晴らしい装丁と三拍子揃った名アンソロジーとして、海外編同様、これからも長く読み継がれる名アンソロジーに育っていくことであろう。
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「『日本幻想文学大系』は図書館にあるけど読みきれるかなぁ」「立風書房版『怪奇小説傑作集』は手頃な分量だけど、最近の作品までまとめたものってないのかなぁ」と思っていた自分にはまさに好適なアンソロジーでした。もともと企画の趣旨が「創元文庫『怪奇小説傑作集』の日本版を」ということで、橘外男「逗子物語」のような定番あり、山本周五郎「その木戸を通って」のような、文豪の佳作あり、赤江瀑あり、皆川博子あり、と、手頃な分量でヴァラエティに富んだラインナップで満足!わたしは西尾正「海蛇」の存在を知ったことが何よりの収穫。編者の紀田順一郎・東雅夫の名伯楽ぶりも透けてみえる名品。
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諸君はこれまでに、どこでもいいが古い塔かなにかのまっ暗な闇の中にそそり立つ階段を上ろうと思うような時、その真の闇の中の、行手は蜘蛛の巣だらけなどん詰まりよりほかに何もないような所に身を置かれた経験があるだろうか。でなければ、どこか断崖を切り開いた海沿いの道を辿って行って、もう一足曲がれば、そこはすぐもう絶壁になっているといったようなところへ出られた経験があるだろうか。こういう経験の感情的価値というものは、これを文学的見地から見ると、その時喚び起こされた感覚の強さと、その感覚の記憶の鮮やかさとによって、その価値が決定せられるものである。
(『茶碗の中』小泉八雲/平井呈一・訳 p.15)
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怪奇・恐怖小説アンソロジーの白眉である「怪奇小説傑作集1~5」(創元推理文庫刊)の日本版を作ろうとのことで、幕末~90年代初頭の作品を3分冊で編んだシリーズとのこと。今回は戦前期まで。
これを読みはじめる際('05年)、前年に読んだ「怪談-24の恐怖」(講談社刊)と内容的にほぼ被るんじゃないかろか、とすこし危惧したが、ほとんど被らなかったのはそれなりに配慮したんだろうか。
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「茶碗の中」小泉八雲、「海異記」泉鏡花、「蛇」夏目漱石、「蛇」森鷗外、「悪魔の舌」村山槐多、「人面疽」谷崎潤一郎、「黄夫人の手」大泉黒石、「妙な話」芥川龍之介、「盡頭子」内田百閒、「蟇の血」田中貢太郎、「後の日の童子」室生犀星、「木曾の旅人」岡本綺堂、「鏡地獄」江戸川乱歩、「銀簪」大佛次郎、「慰霊歌」川端康成、「難波小僧」夢野久作、「化物屋敷」佐藤春夫所収。
最高です。
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小泉八雲、夏目漱石、森鴎外、芥川龍之介、江戸川乱歩などまさに日本文学が誇る偉人たちである。この本はそれらの人達の作品の中から怪奇小説を集めたもの(全17作)。短編のため、面白そうなものだけ読んでも十分楽しめると思う。『悪魔の舌』『銀簪』などは背筋がゾっとした。
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怪奇小説の短編集。読みやすくはあったが、あまり心に響くものは無かった。大学の講義で取り扱われたものだったけれど、コピーして配られた、夢十夜が面白かった。
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やっぱりホラーより怪奇小説です。日本人には。
この傑作選.年代順という事で、文豪の知られざる作品も採られており、面白く読めました。
漱石と鴎外の二つの「蛇」.大佛次郎や龍之介も知らない作品で楽しめました。
編者の東さんはこの後も筑摩から、作者別のアンソロジーを出してるみたいなのでぜひ読みたい。
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初めて知る著者もいてなかなか楽しめました。
やっぱり怪奇小説は海外より日本が馴染むなぁと改めて思った。
この空気感がたまらない。
気に入ったのは
完結してないものの記憶に残る『茶碗の中』
夏目漱石と森鴎外の二つの『蛇』、『悪魔の舌』、オチであっと言わされる『妙な話』と『木曾の旅人』
あたりが特に好みでした。
乱歩好きなので何度も読んでる『鏡地獄』ももちろんですが。
次は気になる著者が多いので2を飛ばしてとりあえず3を読もうかな…
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「悪魔の舌」
これほどの質感を感じられる小説はなかなかないと思う。
「鏡地獄」
乱歩の作品を他にも読んでみたいと思いました。
「銀簪」
最後の展開にゾッとした。
この3つが印象に残りました。
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初読で特に印象に残ったのは、小泉八雲「茶碗の中」、森鴎外「蛇」、谷崎潤一郎「人面疽」、大佛次郎「銀簪」。初めて読む作家も多く、いろいろな作家の作品を読んでみたいと思わせてくれる。
再読で改めて素晴らしいと思ったのが岡本綺堂「木曽の旅人」。この簡潔で無駄のない語り口が、派手さはないのに冷たいぞわぞわとした感覚を際立たせている。
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どれもその時代を感じさせる素晴らしい雰囲気で。
室生犀星って蜜のあわれ位しか読んだことなかったのですが、やはりその会話文に、文豪ってすごいんだなー、と感心。
黄婦人の手。
割と好きな感じ。
難破小僧。
船長理系で素敵だけど・・・これ少年が憐れ損じゃん!
化物屋敷。
やはりあの辺りは当時からなんかあったのですね。でも下宿の描写が好き。
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アンソロジー。
『波』2016.12にて。
谷崎潤一郎『人面疽』
ものすごくスルスル読める。文章うまい…!
『リング』に影響与えた?
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(借.渋谷区立図書館)
明治35年から昭和10年に発表された作品を集めたもの。さすが文豪と呼ばれる人たちの作を中心に紀田順一郎氏が最終的に選んだものだけあって小説としての出来が良い。中では、大泉黒石という人については最近知ったのだが(大泉滉の父なんですね)、長崎の中国人社会が舞台ということもありちょっと読みにくいけどなかなか興味を引かれた。ただ、イマイチ没入できなかった作品としては、川端の心霊学関連、また夢野久作「難船小僧」は乗った船すべてを沈める少年がなぜ上海にいるんだというところ(大小かかわらず沈めるんだったら救命ボートだって沈めちゃって海外に行けないのでは)が引っかかって、その後の展開も含めてちょっとどうなのかなあと思ってしまった。
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小泉八雲「茶碗の中」
泉鏡花「海異記」
夏目漱石「蛇」
森鴎外「蛇」
村山槐多「悪魔の舌」
谷崎潤一郎「人面疽」
大泉黒石「黄夫人の手」
芥川龍之介「妙な話」
内田百閒「盡頭子」
田中貢太郎「蟇の血」
室生犀星「後の日の童子」
岡本綺堂「木曾の旅人」
江戸川乱歩「鏡地獄」
大佛次郎「銀簪」
川端康成「慰霊歌」
夢野久作「難船小僧」
佐藤春夫「化物屋敷」