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商品説明
「遊ぶ子ども」という在り方の不思議さを損なうことなくとらえることをテーマにした、コミュニケーション論的人間学研究。オリジナルとコピー、創造と反復、想像力と回想といったサブテーマを周辺に配置する。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
矢野 智司
- 略歴
- 〈矢野智司〉1954年神戸生まれ。京都大学教育学研究科博士課程(教育学専攻)中退。同大学院教育学研究科教授(臨床教育学講座)。著書に「自己変容という物語」「動物絵本をめぐる冒険」など。
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紙の本
生涯発達論・他者論・時間論へと意味が躍動せよ!
2010/08/15 13:40
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ホキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
既製の価値体系-すなわち意味の集合-を乗り越えるとき、自分と世界の境界も消失し、生の全体性が体現される。そのことによって生き生きとした生命(「生命の充溢」p.120)が得られる。そのような現象は、典型的には子どもの遊びにみられる、という点について、かなりいい所まで踏み込んでいる。
しかし、欠点をあげるならば、生涯発達への視点と他者論と時間論が弱い。
生涯発達への視点とは以下のようである。
子どもが遊びにおいて既製の価値体系を解体するというが、子どもは、世界への認識や物事の関係性-つまり価値体系が未成熟なのである。そこで、子どもは、遊びで世界の意味づけを解体させるものの、それによって逆に、事物への認識を深める-つまり世界の意味づけを進めるのである。
つまり、「遊ぶ人は世界にじかに住みこむ」(p.121)こととは、一方で、人間が成長にしたがって世界の分節化を深め、世界の価値体系によりどっぷりと浸からなくてはならないことを含意している。
そこで、もちろん「はじめに」で、「子ども」や「遊び」の定義が通常使われている用法とは異なると断わってはいるものの、大人の遊びが、子どもとは異なる属性・様態であることを考慮しなければならない。
他者論とは以下のようである。子どもも大人も共通して必要な、意味の創造を共有する他者への視点が欠けている。創造された、新たな意味づけをもった「世界」が、現実の世界と矛盾をきたさないための媒介として、意味を共有する他者が必要なはずである。また、自分への意味付け-つまり価値づけにも、自分の意味と世界を共有する他者が必要である。このような他者の必要性が導き出されなかった背景には、「世界と溶解する」(p.2はじめに)などという時の「世界」の、外的世界と内的世界の区別をしていないことがある。
時間論とは以下のようである。
p.64で「子ども時代の知覚のあり方が、のちの創造的活動の源になる」ことが主張されている。これはこれでいいとして、一方で、現在の生の意味付けによって、過去の生の意味が紡ぎなおされるという事態もありうる。
また、おそらくであるが、p.75の「創造的瞬間」において、生の全体性が生起する「瞬間」とは「永遠」であることと、「現在」が拡張して「未来」に入り込んでいるかのようであることを考慮することで、分節化されない自分と世界の全体性の瞬間という記述不可能な事態を、垣間見る程度にではあるが記述できる可能性がある。