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商品説明
江戸の天文学者・高橋至時とその嫡男作助、そして弟子の伊能忠敬—。宇宙の真理を求めて、星々の輝きに魅せられた男たちの不撓不屈の情熱と生きざまを描く渾身の長篇力作。【「BOOK」データベースの商品解説】
地球の大きさとは…? 江戸の天文学者・高橋至時とその嫡男作助、そして弟子の伊能忠敬。宇宙の真理を求めて、星々の輝きに魅せられた男たちの不撓不屈の情熱と生きざまを描く長篇小説。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
鳴海 風
- 略歴
- 〈鳴海風〉1953年新潟県生まれ。デンソー勤務。東北大学大学院機械工学専攻修了。池内祥三文学奨励賞、歴史文学賞、日本数学会出版賞受賞。著書に「円周率を計算した男」「算聖伝」「和算忠臣蔵」等。
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紙の本
天文に生涯をかけた男の壮絶で崇高な生きざま
2006/08/07 15:56
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ろこのすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
夜空に輝く満天の星や、月を見て宇宙に思いを馳せる人は多いことだろう。
本書の主人公である幕府天文方 高橋至時(たかはしよしとき)もそのひとりであった。
享和三年(1803)春、日本で初めて西洋天文学を用い寛政の改暦を成し遂げた、高橋至時(たかはしよしとき)は運命的な本と出会う。
それはラランデによる最新の西洋天文学を網羅した通称「ラランデ暦書」全五巻である。
日本が鎖国をしている間、諸外国はあらゆる方面で力をつけていた。
西洋に対して唯一小窓を開けていたのがオランダ。
そのオランダから船載されてきたのが「ラランデ暦書」全五巻であった。
至時(よしとき)は地球や、宇宙の構造、天体の運動の原理が書かれているこの本をどうしても手に入れたかった。
しかし、この本は摂津守(せっつのかみ)より内容を調査するよう拝命され、借りたものであった。
返却期限は刻々と迫り、手に入れるには法外な値段がついている。
借りている間に翻訳すればよいのであるが、オランダ語を知らない。
ここから解読の苦闘がはじまるのである。
さて、こうした運命的な本との出会いには多くの人たちが関わって登場する。
至時の弟子である伊能忠敬もその一人である。
至時の長男高橋作助(のちにシーボルト事件で獄死する高橋景保)は本書の中でもとりわけ人間くさい存在として登場。
天才天文学者である父に到底かなわない自分に嫌気がさし、荒れて反抗し、女郎買いに走ったりする。
伊能忠敬の娘お琴と所帯を持ちたいとおもうがそれもかなわない。
話はこの作助の目を通して父至時が病死した母の葬儀にも改暦御用のため参列しなかった非情を憤り、自らのコンプレックスと重ね合わせながら展開していく。
堅い天文の話の中、胸を打つ場面がでてくる。
それは作助がお琴と駆け落ちして、それがばれ、「何をやっても私は駄目な男です」と答え、父の逆鱗に触れる箇所である。
父が息子に腹の底から人生というものを諭す場面(自分の人生を大切にすることは、他人の人生をも大切にすることだ)は至時の親心と人生観がにじむ。
至時の悲壮感が漂う懸命な生き方は、自分の人生を粗末にしているのではなく、亡き妻、家族の人生を大切にしているからだと作助は悟るのだった。
その後作助は刻々と返却期限が迫るなか、「ラランデ暦書」をなんとか買い取ろうと奔走し、ついに入手。
至時はといえば、不運なことに不治の病におかされてしまう。
白湯しか受け付けなくなった体で「ラランデ暦書」の読解に不眠不休で取り組む。
オランダ語の素養がない中、ゼロから翻訳する困難さは想像を絶する。
不治の病を押して五巻もの書物と取り組むことは命を削る偉業である。
天文に人生を賭け、命を削って成し遂げようとする崇高な姿がそこにはある。
至時亡き後「ラランデ暦書」は末子善助により全訳され、明治六年、太陽暦が採用されるまで使用された。
本書は人生を賭けて天文に命を捧げた男の不屈の物語であるが、それを支えた女たちの人生は決して表立つこともなく、歴史を飾ることもない。
天文に生涯をかけた男の壮絶で崇高な生きざまの陰にはそんな男を支えた妻や、身を挺して献身した女たちの愛が礎となっている。
一つのことに人生をかけるということは少なくとも何かを犠牲にするものだ。
見方を変えれば、その犠牲は、生涯をかけて成し遂げようとする者と同じように、その者の人生を賭けているといえよう。
命のこときれる寸前まで仕事に打ち込んだ男の物語に深い感動を持って最後のページを閉じた。
日本の天文史に残る人物に光をあてた鳴海風 渾身の力作である。