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紙の本
未完の明治維新 (ちくま新書)
著者 坂野 潤治 (著)
大久保の富国、西郷の強兵、木戸の立憲主義、板垣の民撰議員がせめぎ合い、極度に不安定な国家運営を迫られた幕末維新期。様々な史料を新しい視点で読みとき、「武士の革命」の意外な...
未完の明治維新 (ちくま新書)
未完の明治維新
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商品説明
大久保の富国、西郷の強兵、木戸の立憲主義、板垣の民撰議員がせめぎ合い、極度に不安定な国家運営を迫られた幕末維新期。様々な史料を新しい視点で読みとき、「武士の革命」の意外な実像を描き出す。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
坂野 潤治
- 略歴
- 〈坂野潤治〉1937年生まれ。東京大学文学部(国史学科)卒業。同大学名誉教授。著書に「大正政変」「近代日本の国家構想」「日本政治「失敗」の研究」など。
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紙の本
富国VS強兵の時代
2007/07/18 00:51
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
「富国強兵」とひとくくりに覚えさせられた言葉だったが、本書を読んで、当たり前の道理に気づかされた。立ち上げたばかりの明治新国家にとって、強兵=軍備拡張には多大な財政負担が生じる。まだ徴税システムも確立していない中、まず富国=国家財政基盤の確立は、強兵=軍備充実=対外拡張を目指す流れとは対立せざるを得ないのだ。
本書第一、二章では幕末に「強兵論」の基本理論を確立した、「和魂洋才」というよりも「一割東洋、九割西洋」の自然科学的合理主義者、佐久間象山の流れと、「富国論」の基本理論を打ち立てた、西欧文明の吸収による「殖産興業」を儒教の本来の伝統「各物究理」の伝統に位置づける、越前藩、横井小楠の流れから説き起こし、それらが幕臣、大久保忠寛を代表とする「議会論」(諸大名と藩士を中心にした公議会=武士デモクラシーの基盤)の支持者と絡み合いながら、(その時点では「憲法」論は具体化していなかった)、幕府、薩長土を中心とする有力諸藩との「新国家の政体」をめぐる闘争が、鳥羽・伏見の戦いを経て薩長主導の新政府樹立にいたるまでが活写されていく。
第三~四章では、「富国論」の牙城としての大蔵省の成立、初期の大蔵トップ伊藤博文、井上馨、渋沢栄一と陸軍省、文部省、司法省(江藤新平)との抗争(予算争い)、そして上京した薩長土藩士を中心とする御親兵(近衛兵につながる流れ)、各主要都市に置かれた、諸藩士を中心とする鎮台、そして徴兵令(1873年)によりそこに加わった農民兵の三つの官軍の存在を描きだし、従来の「征韓論者、西郷隆盛」像を再分析し、一般に流布しているイメージに反して「情に厚い」欧化主義者、合理主義者であった西郷隆盛と麾下の薩摩グループはむしろ、「征韓論」を抑え「征台(湾)論」に積極的であったことを描きだしていく。
第五~六章では「立憲政治派」:「議会設立派」=民主派というイメージを覆し、前者を「漸進派」(木戸:長州グループ)、後者を「急進派」(板垣:土佐グループ)と位置づけ、彼らの共通のライバル「強兵」派(薩摩グループ)と対峙しつつなかなかまとまれないところに、もう一人の薩摩の巨頭、内務卿大久保利通が仕切る「富国派」=「開発独裁派」が主導権を握るが、同じく薩摩「強兵派」による西南戦争に直面するまでを分析する。
第七~終章。これまでの主要人物が相次いで様々な形で世を去った後、「富国」派(開発独裁)と「立憲派」の対立と双方の妥協:挫折、その中で地租改正と西南戦争前の減税、戦後の米価高騰で力を得た農民層の政治化、「志士」から「実務官僚」への明治政府の構造変化という「未完の明治維新」の「終了」にいたる。
読みやすい、生き生きとした描写、要を得た豊富な一時史料の駆使、「幕末ロマン」に得てして目を奪われがちな流れに、「新たな体制を整備していくことの重要さ:大変さ」伝えてくれる一冊である。
戦前を「暗黒」とするのも。明治を「栄光」で包むのも。もう。
そのころの当事者がきちんと「仕事」をしていたということが重要なのではないだろうか。
「幕末維新期にも明治年間にも昭和初期にも、自由主義や民主主義は単なる思想ではなく、政治的実践の課題だった」(本書p.245、あとがき、より)