紙の本
ものづくり大国・日本は大丈夫か?
2007/03/27 20:25
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:k-kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
「情報価値説」が通奏低音のように本書に一貫して流れるテーマだ。世の中のあらゆる製品を「設計情報がメディア(情報を担う媒体)の上に乗ったもの」と見なすのである。製品開発とは設計情報の創造であり、生産とは設計情報を工程から製品へ、繰り返して転写していくことになる。設計情報の創造の仕方、素材(媒体)への転写の仕方が、「ものづくり」の基本課題としてくくり出される。
「製品アーキテクチャ」という概念は、製品設計の基本思想のことであり、2つに分けられる。ひとつは「擦り合わせ(インテグラル)型」。部品設計を相互調整して、製品ごとに最適設計しないと製品全体の性能が出ないタイプ。自動車が代表選手だ。次は「組み合わせ(モジュラー)型」。部品(モジュール)の接合部(インターフェース)が標準化していて、これを寄せ集めれば多様な製品ができるタイプ。CPUやHDD(ハードディスク)等の標準部品を組み合わせるパソコンが代表だ。
日本が得意なのは、「擦り合わせ能力」が競争力に直結する製品である。トヨタ自動車の世界市場への躍進ぶりを見れば文句なく納得する。
一方、DVDに見られる日本家電業界のモジュラー型への対応はどうだろう。DVDに代表される光ディスク・ドライブは、技術的には日本のオハコであった。しかし、グローバルな競争力を失っているのではないか。
かつてのVTRに代表されるアナログ型のエレクトロニクスは、部品と機能が強い相互依存性を持って構成されていた。自動車と同じく「擦り合わせ型」の製品アーキテクチャだ。たとえ基幹部品が流通したとしても、これらを組み合わせて製品の機能や品質を復元するのは困難である。製品を試作できても、品質・歩留まり・コストを満足させる量産はできないだろう。
1990年代の半導体の技術革新は、MCU(マイクロ・コントロール・ユニット)とファームウェアの機能・性能を飛躍的に向上させた。当時開発されたDVDプレイヤーはVTRと大きく異なり、基幹部品は、全てMCUとファームウェアで連携されている。基幹部品を購入するだけで、誰でも設計・組立できるようになった。それまで巨額な投資を続けて製品開発を主導した日本企業は、価格競争に耐え切れず、市場シェアを急速に失ったという構図だ。
「ものづくり王国・日本」は大丈夫なのか?
日々の能力構築が「擦り合わせ立国」の大前提である。競争の厳しい産業では、商品を開発・生産・販売する現場が、生き残りを賭して組織能力を練磨し、生産性を高め、品質を高め、スピードを高めるために、日々努力を重ねている——「能力構築競争」だ。「現場の能力構築なくして産業なし」と著者は言う。
現場の能力構築を起点にする経営戦略——「体育会系の戦略」と呼ぶ——を持てと主張する。日本の生産・開発現場が練成してきた「統合型の現場能力」を維持することだ。能力構築には、すくなくとも10年かかる。しかし、能力の崩壊はたったの一瞬なのだから。
体育系戦略は「まず現場を見せてください」ということから始まる。欧米型・中国型の「頭を使う戦略」「弱いものに楽に勝つ兵法」に学びながら、いわば宮本武蔵流の「体を鍛える戦略」「強いものに辛くも勝つ戦略」をミックスして、バランスを取ることだという。
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わがゼミの先生の本。
商品は全て設計情報を媒体に転写したものという「ものつぐり」論の立場から、日本の産業の強み・弱みが述べられている。日本は製造業が強いとなんとなく思っている人は是非読んで欲しい一冊。てか日本ビジネスマンには読んで欲しい。
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ものづくりを経営的に考えるには良い本。更にものづくりの発想をサービスに置き換えることでスタッフ系の業務にも活用できそう。
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2008/1 図書館から。トヨタのJITは、つまるところ下請けいじめじゃないの?と初めて聞いたときに思ったせいもあって、トヨタ礼賛が続くと鼻白むところがある。日本の製造業は車を軸に考えられてるのだということがよく見える
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擦り合わせ型か、モジュラー型かというのが、やっぱり、重要な戦略軸なのだなあ、と。
あとは、ベンチマーク、他国の文化・国民性の理解、仮説と検証の繰り返し、かな。
勉強になりました。
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日本のものづくりの強みとは何か。
「統合型ものづくりの組織能力」である。では、「統合型ものづくり」とは何か。それは部品設計の微妙な相互調整、開発と生産の連携、一貫した工程管理、濃密なコミュニケーション、顧客インターフェイスの質の確保などが要求される製品のものづくりであり、その代表が乗用車である。
ものづくりの強みをあえて国別に分類してみると、米国企業は優れた設計思想をベースにした知識集約的な「組み合わせ(モジュラー)型」製品に強みをもっているが、欧州はブランド重視の「統合型」製品を得意とする傾向がある。また、近年は思い切った設備投資を「組み合わせ型」製品に集中させて競争力を生み出す韓国企業や、労働集約的な強みを発揮する中国企業が存在感を増しており、日本の企業には、自らの強みに特化した戦略が必要となっている。
なお、ものづくり組織能力の構築構造として示されている「組織能力」→「裏の競争力」→「表の競争力」→「収益力」の流れは製造業以外にも適用できる。(3月19日報告)
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経済のサービス化が進展する中,製造業・サービス業は如何にして企業の価値を高めていくべきなのか.本書では製造業で培われてきた能力,特にTPSといった生産管理技術を中心に企業改革への具体的視座を提案している.論文がベースにあるため多少読みづらい部分もあるが,サービスサイエンス・PSS・サービス工学といったkeywordに興味がある方はぜひ読んでほしい.
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製造業には、すり合わせを行い最終製品まで個々の部品の調整をしながら構築されるインテグラル型と、個々の完成品を部品とするモジュラー型の2種類がある、という考え方を初めて知った。
1つ1つの章は短く、読みやすい。
よくある製造業の秘密の概要みたいな章もあれば、今後の動向などを書かれた章もある。ものづくりの現場や経営に携わる人がTIPSとして利用するには良書である。ひとつでも新しいキーワードや試してみたいことが見つかれば、本書を読んだ甲斐があったといっていいのではないだろうか。
※ただ、読了するには大幅な時間がかかってしまった。新書にしてはちょっと分厚いね。
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技術と経営に関心のある人におすすめ。オープンな技術、擦り合わせ型、モジュール型など企業が技術開発する方向性のパターンが整理されている。デジタル化とはオープンモジュール型の技術が優勢になることであり、日本企業が得意なクローズインテグラルが主戦場でなくなってると理解した。
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「ものづくり」とは,要素技術をつなぎ,顧客に向かう「流れ」を作り,新しい設計を盛り込んだ人工物によって顧客を満足させる経済活動に他ならない.
【日本の製造業】
・日本は,多機能な設計者のチームワークに頼る「統合型製品開発の組織能力」を持つ企業が多い.
・市場や顧客に応じて,適切に製品を開発することが求められる.市場によってシェアが違うことからも,よくわかる.また,「汎用部品の寄せ集めでも構わない」と考える顧客がいることを意識せず,「統合型」をおこなおうとする.多様で変化の程度も異なる市場や顧客に対応する際に,日本企業が陥りやすい.(携帯電話など.)
・日本企業が非常に優れた製品を作りながら,ブランド力において欧米の後塵を拝している現状を踏まえると,「品質機能展開」という方法だけでは実現できない,ブランド構築の視点を踏まえた方法を考える必要がある.
・日本では,研究開発部門とマーケティング部門の連携が取れていない.新製品に先端技術が入っているが,消費者にその技術の必要性が理解できない.
・
【モノづくりの位置づけ】
・「アーキテクチャの位置取り戦略」.その軸は,「等核製品の内部構造はインテグラルかモジュラーか」,「その製品が使用される川下産業の製品,消費システムのアーキテクチャはインテグラルかモジュラーか」
・価格など,顧客が観察できる「表層のパフォーマンス」と,企業の組織能力と結びついている「深層のパフォーマンス」がある(後者をまず改善しなければならない).生産性(発信側の転写効率,1個あたり,労働時間に占める割合など),生産リードタイム(受信側の転写効率,在庫など),適合品質(転写の精度)の3つに分けられる.
・ユーザーは評論家ではなく,漠然と,あいまいに「面白さ」を感じている.「どこがどのようにおもしろかったか」を尋ねても無理である.
【世界のモノづくり】
・相性に関する筆者の予想.
①統合力の日本:オペレーション重視の擦り合わせ製品.
②表現力の欧州:ブランド重視の擦り合わせ製品.
③構想力のアメリカ:知識集約的なモジュラー製品.(オープン・モジュラー型.フォードの互換性部品から近くはインターネット産業).
④集中力の韓国:資本集約的なモジュラー製品.(財閥系のトップの決断力).
⑤動員力の中国:労働集約的なモジュラー製品.中国は,「擦り合わせ型製品」を「オープン・モジュラー製品」にすり替えてしまう「アーキテクチャの換骨奪胎」である.
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主にインテグラル型/モジュラー型の切り口からの生産戦略を説く。日本の得意技は”ものづくり”と言われているが、今はアジア各国の追い上げを受けている。その中で本当に得意と言える部分はどこなのか、今後どうやって戦って行くべきかの分析・指針を記載している。
製造業に身をおく者として、なるほど、と思うような所が多かった。
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「ものづくり」ということをサービス業までをモノづくりといったりして、
とても広義にとらえていて、なかなか面白いと思う。
そのうえで、モジュラー型(組み合わせ)とインテグラル(すり合わせ)という分類。それらを踏まえての、国際的な場所でのやり方について、詳しく述べられていた。
そこで、自分が所属している「環境」でのモノづくりとはなんなのだろうか?
ポンプを作るわけでもない。
工場があるわけではない。
色々なものをインテグラル型のアーキテクチャを行い、
それをもとに、世の中の製品等を用いて、
モジュラー型のアーキテクチャを行っていく。
完成させるのは、建設現場である。
これらをスムーズに、
客先のニーズを取り入れて、
現場がうまくまわるように効率的に作業ができるのかを考えて、
仕事することが大切であること。
川上から川下までの一貫した作業が大切である。
にもかかわらず、会社の中では、この本で言うモノづくりの「一部」
しか重要視されていないがために起きている不具合が、
感じられた。
「一部」というのは、インテグラル(すり合わせ)型で、モノを考え、
プロセスの設計をするが、その後のモジュラー型(組み合わせ)の段階をへて、現実的なものに変換するときに起きている不具合(機械の選定ミス、図面の間違いによる不良品の発生が考えられる)。
そして、客先のニーズに沿った開発ができているのだろうか?という点がある。
自分たちの自己満足による設計になってないだろうか?
どんなものを求めているのかもう一度考える必要がある。
また、最終的に製品が完成する建設現場での工程が減らせて、
適切な人員配置をするためには、何が必要なのか、部門を越えて、話してみるのは、どうなのだろうか?
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[ 内容 ]
産業の構造変化、国際化に対応するものづくり戦略とはどういうものか?
実践・研究の第一人者たちが、ものづくり学の可能性を描き出す。
[ 目次 ]
第1部 ものづくり経営学総論(統合型ものづくり戦略論 アーキテクチャのポジショニング戦略 ほか)
第2部 ものづくり経営学各論(設計情報から見たものづくり 階層的ものづくり競争力論―日本自動車産業はなぜ強いか ほか)
第3部 非製造業のものづくり(サービス業に応用されるものづくり経営学 トヨタ生産方式の販売業への活用 ほか)
第4部 アジアのものづくり(アジアものづくりの比較優位説 韓国自動車ものづくりと組織能力 ほか)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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日本企業のものづくりについて詳細に書かれた本。
擦り合わせ型、モジュラー型に大別できるものづくりにおいて、有形・無形、国内外問わず広く論じている。
なにより、製品またはサービスの仕組みを詳説してくれているので、一つ一つの構成要素を抽象化して、そこから導ける普遍性を理解するのに非常に役立つ本だと思う。
何度も参照したい一冊。
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「ものづくり経営学」
産業の構造変化、国際化に対応するものづくり戦略とはどういうものか?
まず、著者が長を務めるものづくり経営研究センターについて触れると、こんな感じである。ものづくり経営研究センターとは、世界をリードするものづくり研究の拠点を日本に作ることを目的として誕生した。東京大学に設立され(2004年)、今年で10年目となる。
センターの特徴としては、経営学者や経済学者達が運営を担っているということでしょうか。ものづくりといえば、理系の独断場。にも関わらず、大学で理系分野に在籍していたわけでも、学者として現場を知っているわけでもない(必ずしも全員ではないだろうけど)彼らがなぜ運営者なのだろうか。答えは、「ものづくりには文理融合で挑むべきだから」である。
では、文理融合とはどういうことか?日本のものづくりは現状(2007年)どのような状態にあるのだろうか?そもそもものづくりの概念は正しく社会に伝わっているのか(当時は確実に間違っていたりずれた認識にだったように思う)?それらの疑問を紐解いていくのが、本書となります。
第1部では、ものづくりの現場の担い手となる人や強力な援軍となるITに触れ、ものづくり発想のブランド戦略の具体例として、マツダの取り組みを紹介しています。第2部では、アサヒビール、ホンダウェイ、光ディスク産業、第3部では、非製造業のものづくりに触れ、第4部のアジアのものづくりに続いていきます。
全体の印象としては、読み物というよりは教科書のよう。特に、第1部にはフレームワークがびっしり敷き詰められています。しかし、フレームワークを理解しないと残りに支障が出そうなので、それも当然でしょうか。
数々の実例が意味しているのは「ものづくりにおいて様々なスタイルがあるものの、最終的に行き着く根は同じである」ということだと思います。各企業が頼りにしているのは、情熱であったり信念であったり風土であったりするけれど、それらを持ちえるものはひとつだけ。それは人間。
しかし、人間が根であることはとても難しい。だからこそ人間が行うものづくりはもっと難しい。故に、ものづくり経営学が社会に正しく浸透し、文理融合によるものづくりが誕生するには、何年も何年も時間が必要なのだろう。
文理融合のものづくりが最も早く実現する国はどこなんでしょうか。