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紙の本
明治、大正、昭和と生きた版画家、詩人が描く貴重な明治の東京
2011/09/26 18:50
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
川上澄生という人の存在を知ったのは、学生の時、中公文庫から出版された
詩画集『ゑげれすいろは詩画集』をふと、書店で見て買ってからだと思います。
この中公文庫は、全14巻の文庫で、そのとき1巻しか買わなかったのですが、
大変、気に入り、事あるごとに読んでいまいした。(今は絶版)
明治生まれ、中学校の英語教師をするかたわら、版画と詩の詩画集を出した人で、
棟方志功に大変な影響を与えたということです。
明治28年生まれ、小学生時代を東京ですごし、大正6年にカナダ、アメリカへ 行きます。
帰国してから、職を色々変えたのち、宇都宮の中学校で英語教師をしながら、版画と詩の
詩画集を出し、この本のあとがきは永井龍男ですが、やはり感銘を受けて、自分の本の
装丁を頼んだそうです。
昭和47年没。
子ども時代、明治、学生時代、大正、社会人、詩人時代が昭和と生きた人です。
この本は、子ども時代、明治の小学生だったころの思い出を版画と共に描いた 随筆です。
一頁から三頁と短い文章にひとつひとつ、その風景の版画がついています。
絵は特に学んだわけではない独学なのですが、版画ならではの素朴な力強い線でもって
明治の風景、風俗をこんなにたくさん描かれています。
この本は最初、昭和11年に発行。その後、様々な出版社を経て、現在はウェッジ文庫に 収録。
青山に住んでいたのですが、当時の青山は田舎の町で電車も通っていません。
中勘助の『銀の匙』は、明治の子ども時代の思い出ですが、その遊びが綿密に描かれて
いるのに対し、この随筆はあまりとりとめがありません。
当時の職業が興味深いです。
雀さし(雀捕り)、へっつい直し(竈直し)、俥屋さん(人力車)、歩いて配達してあるく郵便屋さん・・・
はわかるのですが、「でいでい屋」というのは、こういう格好をしていた、という文と絵があるだけで
何をする人だったのでしょう。坂道には、車後押しという人たちが立っていて、車が通ると
後押しして、それでお金をもらっていたそうです。そんな中にいきなり「人さらい」というのが
あるのが、思わず笑ってしまいました。
人さらいについては、見たことがあるような、ないような気がする・・・と書かれています。
お祖母さんっ子だった川上さんは、床屋が嫌いで、頭を半分刈ったところで逃げだし、追いかけて
きたお祖母さんにつかまった、とか、銀座に「十二か月」というお汁粉屋があって、毎月
メニューが変わって、一年、食べると褒美が出た、とか、明治から昭和にかけて、というのは
日本は戦争の時代だった、ということがよくわかるのが、兵隊さんというのが実によく
出てきて、お味噌汁の具は牛肉(!!)だった、と文章は、簡素で淡々としていますが、
とても観察眼にすぐれていますが、忘れてしまったことは、「忘れてしまった」と飄々と
書いていて、どこかユーモラスです。
「おんじょ、おびょべびょべ、びょべびよべ」
・・・・これは、蜻蛉(とんぼ)をとる呪文。
夏目漱石の小説が好きなのは、明治の様子がこと細かく描写されているからで、
特に『三四郎』『虞美人草』は、当時の東京の様子、学生の様子が描かれています。
川上さんは、小学生ですが、小学生には小学生の「おしゃれの流行があった」というのも
なんともハイカラです。
現代の作家が、資料や調査を元に時代劇を書くのとは違う、実際の昔を
文章もさすが詩人、リズムのよい、美しい言葉、そしてなんとなくユーモラスな見方が
微笑ましく、子どもながらに、浅草の見世物にひきつけられ、大橋図書館に通い、
色々な公園に遠足に行き(弁当箱の袋は「毛糸で編んだもの」)「警視庁」という名前の
墓地の一角が、小学生たちの「喧嘩場所」だった、とか、とても興味深いと共に
素朴な版画も、写真よりなぜかリアルに感じます。
明治は遠い昔であり、亡くなった祖母ですら、明治末の生まれでした。
日本とはいえ、まるで知らない「外国のような日本」でも、地名は銀座、青山、横浜といった
今もあるところへの タイムトリップ感覚を楽しめる本でした。