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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2009.4
- 出版社: 青志社
- サイズ:20cm/638p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-903853-56-7
紙の本
さらばヤンキース 我が監督時代
著者 ジョー・トーリ (共著),トム・ベルデュッチ (共著),小坂 恵理 (訳)
私はどんな批判も甘んじて受ける。でもこれが真実なんだ…。栄光、確執、重圧。常勝軍団ニューヨーク・ヤンキースの名将が、監督時代を振り返り、その思いを赤裸々に綴る。【「TRC...
さらばヤンキース 我が監督時代
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商品説明
私はどんな批判も甘んじて受ける。でもこれが真実なんだ…。栄光、確執、重圧。常勝軍団ニューヨーク・ヤンキースの名将が、監督時代を振り返り、その思いを赤裸々に綴る。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
ジョー・トーリ
- 略歴
- 〈ジョー・トーリ〉1940年生まれ。95年ニューヨーク・ヤンキース監督就任。ワールドシリーズ3連覇を果たす。退任後、ロサンゼルス・ドジャース監督就任。
〈トム・ベルデュッチ〉雑誌『スポーツ・イラストレイテッド』記者。
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紙の本
ヤンキースの監督をやると寿命が縮まりそう
2009/07/16 00:30
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
12シーズンにわたって監督を務めたジョー・トーリは、名監督に数え上げられてよいだろう。なにしろ、それまでの17年間で11人もの監督のクビをすげかえてきた暴君、スタインブレナー・オーナーに脅かされる日々を長期にわたって耐えしのいだのだから。
常にとっかえひっかえされるおそれのある、もっとも大変なポジション、それがヤンキースの監督だ。それを12シーズン守りぬき、しかも成果を出し続けたことは驚きというほかはない。
スポーツジャーナリストとの共著になっているが、トーリ監督はひたすら語って聞かせ、きっと共著者がほとんどすべてを書いたに違いない。あちらのジャーナリストにありがちな、過剰に過ぎる執筆スタイルになっているからだ。そのおかげで本書は633ページにもなる。
ところが、トーリ監督自身についての描写よりも、ヤンキースの選手たちについての描写の方がはるかに豊富である。ロジャー・クレメンスの自らを奮い立たせるふるまい、ランディ・ジョンソンの意外に繊細な神経、アレックス・ロドリゲスのどうしようもない目立ちたがり屋。賛辞を送られ続けるのはチームプレーに徹する謙虚で紳士的なジーターばかり。
テレビ中継を見ているだけでは分からない各選手の個性にふれることができる。デッドボールをきっかけに乱闘騒ぎが起きる伏線、打ち込まれた投手が壁を殴りつけて骨折する理由、内部者でなければわからない事情がこれでもかと書き連ねてある。
ヤンキースファンにはたまらない本かもしれない。ちなみに、日本人選手は松井、井川、伊良部が出てくるが、好意的に描かれているのは松井くらいだ。つたない英語がかえってチームを和ませているそうだ。常勝を期待されるヤンキースでは、不協和音が生じやすい。ピリピリしたムードを変える選手が、その都度必要になる。監督自身もそういう役回りをすることがある。
個性的な選手たちに加え、圧迫型のボスであるスタインブレナーを上手くなだめすかさなければトーリ監督は生き残っていけなかった。なおかつ、ニューヨークのスポーツメディアの情け容赦のなさはだめ押しだろう。
選手、オーナー、マスコミの3者をうまくコントロールできる者だけがヤンキースの監督でいられる。それを12年もやり遂げたのがトーリ監督だ。就任当初はまるで期待されていなかったが、すぐさまリーグ優勝を果たす。そして、ヤンキースとしては18年ぶりにワールドシリーズ優勝を成し遂げ、チームに戴冠をもたらした。
12年間采配をふるい、すべてにポストシーズン進出を果たし、うち6度のワールドシリーズ進出、4度の制覇はおそるべきものだ。もっとも、最初の頃のすぐれた選手たちは、数年を経ると移籍してしまい、やがてほとんどまとまりを欠いたチームに変質していく。それでも、ポストシーズン進出を続けたのはトーリの辣腕というほかない。
その割には、本書ではトーリ自身の内面があまり深くは掘り下げられない。オーナーや選手とのやり取りを通じて間接的に人物像を結ぶことになる。感情的で激しやすいオーナー、そして選手たちと向かい合っても、ひたすら冷静沈着でいる。また、ウソはつかず、あくまで「信頼」に基礎において、最後まであきらめないねばり強さ。それが、各選手に自覚を促し、期待された役割を果たさせる秘訣のようだ。
それにしても何と過酷な運命にあるのだろう、ヤンキースの監督というものは。ふつうの人なら、いくら巨額の年俸を積まれても、ここまではやれないに違いない。リーダーシップを学びたければ、トーリの仕事のあとをなぞるのが最適だろう。
ただし、選手もまた、ほかのチームとは桁外れの大きなプレッシャーに押しつぶされそうになる。ランディ・ジョンソンをはじめ、そうした選手が数多く、本書には登場する。松井は自分からヤンキースを選んで渡米したのだから大したものだ。松井の活躍するシーンは本書では少ないが、トーリが去ったあと、故障がちな状態で、いまごろどんな心境でいるのだろう。英語が上手でないことは、余分な重圧を感じさせないのに役立っているかも知れない。辛口のメディアは、このところ松井にも容赦はないようだが。
分厚い本書でも、特に読ませるのが、MLBに蔓延したドーピングの問題だ。80年代終わり頃から始まり、98年には公然の秘密となったステロイド、ヒト成長ホルモンの使用は、MLBへの印象を一変させるものがある。マグワイア、ソーサ、ボンズらが、それまでのホームラン記録を大きく塗り替えた背景にステロイドやヒト成長ホルモンがあったのは悲しい事実だ。
2001年には、もはや隠しきれないものとなった。薬物はチーム内に当たり前のように存在し、それは使わない者がばかを見るほどになった。そうして、突然ホームランを量産し始める打者や速球が10km近くも向上させる投手らが出現する。2007年12月のミッチェル・レポートで疑惑が暴かれた選手たちの記録は今後どう扱われるのだろうか。クレメンスはいまだに使用を否定しているが、関係者の証言から、もはや外堀を埋められている。メジャー通算300勝投手のゆくえは果たして。
それにしても、裕福なヤンキースが、ベテランの優秀な選手を金の力でかき集め、しまいにはまとまりのないチームとなり果てていく様は、一時期の日本のジャイアンツを見るようだ。ホームランバッターばかり集めても、効果的な得点はできない。また、往年の名投手がいつまでも、支払った金額に見合う活躍をしてくれるとは限らない。
トーリのヤンキースでの監督業の終焉と、スタインブレナーの肉体的・精神的な衰えとがシンクロしていくのは皮肉だ。もっと楽な環境でのびのびと監督としての仕事をやりたいというトーリの最後の願いは叶わなかったが、オーナーを黙らせるくらいの実績を残した手腕はいつまでも語り継がれるに違いない。
なお、この名将はヤンキースを去ったあと2008年のドジャースを率い、1年目から地区優勝を飾っている。あっぱれ。