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- カテゴリ:一般
- 発売日:2009/11/18
- 出版社: 平凡社
- サイズ:29cm/159p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-582-92163-2
紙の本
柴田是真 幕末・明治に咲いた漆芸の超絶技巧 (別冊太陽 日本のこころ)
著者 安村 敏信 (監修)
幕末から明治にかけて活躍した漆の職人、柴田是真。漆工品から漆絵、絵画まで、大胆さと繊細さを兼ね備えた作品の数々を紹介し、その漆芸の超絶技巧に迫る。【「TRC MARC」の...
柴田是真 幕末・明治に咲いた漆芸の超絶技巧 (別冊太陽 日本のこころ)
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商品説明
幕末から明治にかけて活躍した漆の職人、柴田是真。漆工品から漆絵、絵画まで、大胆さと繊細さを兼ね備えた作品の数々を紹介し、その漆芸の超絶技巧に迫る。【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
―日本伝統工芸の肥沃な大地―
2009/12/17 21:18
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:レム - この投稿者のレビュー一覧を見る
2009年の年末は、美術展の歴史に特筆すべき重要な漆工芸展が開催された。 それは、三井記念美術館で開催中の『柴田是真(しばたぜしん)の漆×絵』展である。 今回の展示会の特徴は、エドソン夫妻所有の秀逸な是真コレクション(The Catherine and Thomas Edson collection)が、初めてまとまって里帰り出品されたことだろう。 本書、別冊太陽はこの漆工芸作家・柴田是真を大きく特集している。 巻末には是真の略年譜と美術全般史/政治・文化史、漆工芸用語集があり、大変参考になる。
本書は、幕末、維新、明治という日本の激動期を生きた人間としての是真の一生を紹介する。 是真(1807-1891)が生まれた時代は、町人文化が最も花開いたといわれる江戸時代末の文化文政期である。 是真は早い時期にその天分を認められ、ウィーンの万国博覧会など外国にも積極的にその作品を出品し、海外での評価も高かった。 是真は亡くなるその年(明治24年、1891年)まで、日本漆工会を設立するなど作品の制作活動以外にも旺盛に活動を続けた。
本書はまた、今回展示されている作品の数々を克明な写真で紹介する。 漆絵にはレリーフのような立体的な特徴もあるため、写真図版の撮影ではこれを描写するための高い技術が求められたであろうことがわかる。 是真の作品は、印籠、タバコ入れ、文箱、箱と、いずれをとっても精緻を極める。 その代表的技法の一つに、青海波(せいかいは)塗が挙げられる。 青海波塗は、途絶えていた技術を是真が復活させたもので、櫛状の箆で波を青海波模様に塗り、海の奥行きまでも表現する技法で、波は微細な立体に仕上げられる。 塗の作業を一度で決めなければならず、高い技術とセンスが必要だ。 また、「だまし漆工」とも呼ばれる技法も得意であった。 これは、漆にさまざまな素材を混ぜ込むことで、紫檀や青銅や陶器のような質感に見せる技法「変塗」を用い、例えば竹筒に釉薬のように見える漆を調合して塗り、あたかも「なつめ」の茶入れであるかのように万人の目を欺くものだ。 あるいは、ところどころ欠けた古墨を再現した印籠や、ひび割れた部材を継いだところまで漆絵で再現してしまう。 それは粋であり遊び心に富む作品だ。 本書は、実際にそれらの技術を再現した様子を写真とともに解説し(会場には再現した塗の実物が展示されている)、複数の美術専門家が是真の魅力を次々に紹介する。
私は、本書で知識を得た後、実際に三井記念美術館を訪れた。 そして早くも入口から三つ目の展示ケースで足が釘付けになってしまった。 それは、「台所道具尽飾木刀」という作品で、本書では何気なく片面だけが紹介されている。 実際に見てみると、一見、薪割りの時にでも出来てしまった木片とも見紛う作品なのだが、なぜか惹きつけられた。 裏面には、「三度たく 米さへかたしやはらかし おもふままにはならぬ世の中 」という道歌(道徳などを説いた短歌)が金蒔絵による細い文字で達筆に書かれている。 展示ケースに顔を近づけて良く見ると、樹皮の色と立体的質感までもが漆で再現されていることが分かる。 その後、展示会場では先へ進んではまた戻り、何度かこれを鑑賞した。 しかし、是真は単に漆芸の意匠を凝らす技術が高かっただけではなかっただろう。 作品を見て実感することは、それらは、文物・古玩に造詣が深い、いわゆる文人趣味がないとできない作品ということだ。 これは是真が注文に応じつつ自ら身につけたかもしれないが、おそらく一人では難しかろう。 是真の技量を存分に引き出した文人や、題材を議論するような一連の集まり、つまり植物相ならぬ 文人相とでも呼べる総体がその周辺に存在したこともうかがえるのではないだろうか。
実はもう一つ、やはりこの年末に、ここに記しておきたい重要な漆工芸展があった。 東京虎ノ門の大倉集古館で開催され、好評を博して終了した特別展『根来(ねごろ)』である。 この特別展では、約40年ぶりに根来塗の逸品が一同に会したといわれている。 根来あるいは根来塗とは、朱漆に塗られた木製漆器で、長い年月、使われるほどに手擦れによって下塗りの黒漆が所々現れたものだ。 時代はおおよそ鎌倉期以降のものだが、その赤と黒のコントラストは独特の渋さと風合いを醸し出しており、数寄者でなくとも多くの人を魅了してやまない。 私が大倉集古館を訪れたのは、入館者もまばらなある雨の日であった。 静かな展示会場には、これまで写真集でしか見ることができなかった根来が低めの高さに陳列されており、その一つ一つをゆっくりと堪能することができた。 私の眼に映ったのは、長い時代にわたって数えきれない人々の手を経た痕跡を留めることで生み出された動的な美であった。
言うまでもなく、是真ひとりが日本の漆工芸の達人ではない。 しかも、作品が時間軸を持っている根来のような実用の漆工芸もある。 本書を読み、また千載一遇の機会で開催された上記二つの展示会に足を運んで感じたことは、単に外国人に漆をJapanやJapan lacquerなどと呼ばせているだけではいけないのではないかということだった。 今回の別冊太陽の特集は、是真を生み、漆工芸を成熟させ、今も発展し続けている日本の伝統工芸の肥沃な大地そのものに対する私たちの認識を新たにすることにもその意義があるだろう。