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商品説明
構造改革路線の行き詰まり、出口の見えない世界不況…。再生のヒントはどこにあるのか。そして経済学は人間を幸せにできるのか? 6人の経済学者に、根源的な問いかけを行う。『月刊百科』連載に書き下ろしを加え書籍化。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
新自由主義とは何だったのか | 中谷巌 述 | 17−48 |
---|---|---|
地球温暖化と経済学 | 佐和隆光 述 | 49−81 |
構造改革は労働の何を変えたのか | 八代尚宏 述 | 83−116 |
著者紹介
斎藤 貴男
- 略歴
- 〈斎藤貴男〉1958年東京都生まれ。英国バーミンガム大学修士(国際学MA)。ジャーナリスト。著書に「いま、立ち上がる」「「心」が支配される日」「強いられる死」など。
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紙の本
いまこそ国民のための経済政策が
2010/05/16 15:35
10人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ジャーナリストである著者が、6人の経済学者に会いに行く。相手の選定は、その人の考え方に対する個人的好悪にとらわれない。話すテーマは「経済学は人間を幸せにできるのか」。
もうすっかり過去の人になってしまったが、小泉首相・竹中大臣が強引に押し進めた構造改革。市場メカニズムに絶対的な信頼を置き、国家による規制・介入を極力排除する。ネオリベラリズムまたは新自由主義と呼ばれる。
この人たちがしでかしたことが、どれだけひどいことであったか、その錆や膿のようなものが、今あちらこちらで問われている。現代の日本の疲弊、特に雇用環境の大幅な悪化の原因がここにあるのではないかとの懸念のもとに。
市場原理主義に経済の活性化を促すという面があることは事実であろう。しかし、その活用も度が過ぎると問題である。国の救済措置を持たない徹底的な競争主義は、強者と弱者を明確に区別する。勝者と敗者を決定的に色づけし、敗者に“再チャレンジ”の機会は与えられることはない。そう、何もかもがリセットされる戦争でもない限り。
この疲弊しきった日本を救うのは、やはり経済政策しかないはずだ。そのためにも、現代の日本経済の最先端に位置する経済学者たちの言葉をしっかり確認しておきたい。
本書より中谷巌氏の言葉。『日本の既得権益の構造、政・官・業の癒着構造を徹底的に壊し、日本経済を欧米流の「グローバル・スタンダード」に合わせることこそが、日本経済を活性化する処方箋だと信じて疑わなかった。だが、その後に行われた「構造改革」と、それに伴って急速に普及した新自由主義的な思想の、さらにはアメリカ型の市場原理の導入によって、・・・さまざまな「副作用」や問題を抱えることになるとは、予想できなかった。』
自身の権威やプライドをかなぐり捨ててでも、まったく正直に「転向」を表明するこの人の言は信用に値する。この人の言葉を、小泉・竹中はどう聞くのか。
佐和隆光氏の言葉『「アメリカでは小中学校が完全に“ゆとり教育”で、一週間かけてキャンプを張ったり美術館を見学したり、10代でなければできないようなことをだけをゆっくりやっていく。・・・2002年度から日本の小中学校に導入された“ゆとり教育”は、このようなシステムにするためのものでした。ところが学力低下の犯人扱いされてしまった。』
競争原理が、もっとも“競争”という言葉の似合わない教育の世界にまで投入されつつある。まったく違う目的で考えられた「ゆとり教育」がその機能を果たさないまま、“競争好き”の強者たちによってつぶされようとしている。いま、教育の危機。
八代尚宏氏の言葉。『よい教育環境の家庭を持った人とそうでない人の公平さをどう考えるかです。親が教育熱心かどうかまでの差をなくそうとすれば、論理的には、かつての旧ソ連の一部で行われたように、国家が親から子どもを取り上げて教育するということになります。それは認められないのだから、そうした差はやむを得ないと考えるしかない。』
このような言葉を「ごまかし」と言う。話の「すり替え」と言ってもよい。様々な家庭環境を持つ子供達のすべてに、子供達が求める教育環境を与えてやる方策が必要である。旧ソ連の全体主義体制を例に出し、それよりも格差社会の方がまし、といった理論は絶対に「まやかし」である。
井村喜代子氏の言葉。『朝鮮戦争は、米国のそうしたジレンマを一気に解消する結果をもたらしたんです。戦争を仕掛けてきたのは北朝鮮・共産主義勢力だという国際世論が形成されて、日本でも宣伝された。こうなったらソ連も中国の共産党政府も講和条約から排除しても構わない、という世論が沸き起こる。』
朝鮮戦争特需により経済的復興を成し遂げた日本。実は朝鮮戦争が日本に与えたものはそれだけではなかった。戦後の片面的な講話とそれから派生した日米安保。米国と日本の権力者が、朝鮮戦争を上手に使い、国民を翻弄していた様に納得させられる。
伊藤隆敏氏の言葉。『市場原理というのはよく定義されていない言葉です。本当の意味で野放しになっている業界はありませんから、結局、監督が失敗したということに尽きると思います。』
確かに、国家による監督の失敗についても徹底的に解明され責任追及がなされるべきである。しかし、その国家の監督責任を不明確にぼやかせる役目も、市場原理は持っていたのではないか。
金子勝氏の言葉。『この国ほど若い人をメチャクチャにした国は他にはありません。年金問題だけを見ても一目瞭然です。保険料を支払えない人間を増やして穴ぼこを開け続けていけば、先々、制度が保つわけがないことなどわかりきっていた。』
最後はやはり、この国の疲弊。特に若者を痛めつけるこの国の政治・経済体制は、このままでは未来がないことは自明である。
この国には、いまこそ、“まともな”経済政策が待ち望まれている。