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紙の本
猫始末 (講談社文庫 お医者同心中原龍之介)
著者 和田 はつ子 (著)
北町奉行所で閑職に就きながら、動物や人の心を診る「よろず医者」の顔も併せ持つ中原龍之介。彼の元に、熱血漢の新米同心、松本光太郎が唯一の部下として左遷されてきた。米問屋の子...
猫始末 (講談社文庫 お医者同心中原龍之介)
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商品説明
北町奉行所で閑職に就きながら、動物や人の心を診る「よろず医者」の顔も併せ持つ中原龍之介。彼の元に、熱血漢の新米同心、松本光太郎が唯一の部下として左遷されてきた。米問屋の子どもが行方知れずになった事件を調べる二人だが、店の桜木の下から人骨が見つかって…新シリーズ第一作。【「BOOK」データベースの商品解説】
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江戸時代の特命係「相棒」
2010/12/05 17:31
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ミステリマガジン』2011年1月号に特集「相棒 特命係へようこそ」が掲載された。テレビドラマ「相棒」は2000年からテレビ朝日で放送され、十周年を迎えている。私も第一回から欠かさず見ている、大ファンである。
だから、いつか誰かが、江戸時代を舞台にして「相棒」のような小説を書くことがあっても、不思議はない、と思う。
和田はつ子著『お医者同心 中原龍之介』の設定は、まさに江戸時代の特命係「相棒」である。しかもそれに、佐々木倫子著『動物のお医者さん』風味まで加わっている。
中原龍之介は、杉下右京、プラス、ハムテルである。杉下右京は、英国趣味で紅茶に詳しかったが、中原龍之介は、ハーブに詳しい。「カミツレ白牛略茶」などの、ハーブを使ったおいしいお茶の飲み方は、思わず、ためしてみたくなる。自宅の木戸門に「医者・よろず」と書いた札を下げ、獣医と、ハーブを使って不眠症などを癒す、人のための医者とを兼ねている。こわい顔だけど優しくて賢い犬の杉之介(えっ、杉?)を飼っていて、他にもいろいろな動物が登場する。ラベンダーがヒロハラワンデルという名で呼ばれていることなど、江戸時代のハーブ事情が、なかなか、おもしろい。
松本光太郎は、まさしく、亀山薫刑事である。下り酒問屋井澤屋の跡取り息子だったが、念願かなって、父親に同心の株を買って貰って北町奉行所に勤めるようになり、同時に、草双紙好きなところが一緒で気が合った、おたいと所帯を持った。厳しいが聡明な父、幸右衛門や、父に従順で商売熱心で、なおかつ、兄思いの弟孝二郎、しっかりもので心の暖かい、おたいの母のおよしなど、光太郎の身内は皆いいひとである。そんな光太郎は、強きを挫き弱きを助くという、わかりやすい正義感から奉行所同心に憧れたのだったが、現実は憧れと程遠く、出仕早々、大失敗をして、奉行所のなかで一番日の当たらない閑職「定中役(じょうなかやく)」に回され、厠同心、猫の手同心、と蔑まれるはめに。
上役の中原龍之介はほとんど奉行所には出向かず、自宅で、「医者・よろず」稼業とハーブの世話に明け暮れている。時々、与力の島崎淳馬が訪れて、厄介な仕事を押し付ける。その仕事をするために、他の同心たちから邪魔者扱いされても、かばってもくれないし、難題を解決しても、何の報いもない。褒美も昇進もない。手柄は他の同心のものとされ、しかも、実は定中役が解決したことは皆わかっているので、その事実を認めたくない彼らから嫌われ、疎まれる。徹底的に不遇である。ただ、実際に中原龍之介たちに事件や悩み事を解決して貰った、町の人々からは、感謝される。
テレビドラマ「相棒」以上に不遇な、中原龍之介と松本光太郎だが、しかし、「相棒」よりも、楽しそうなところもある。カミツレ(カモミール)が香り、動物たちがのびのびと暮らしている、中原龍之介の庭である。また、松本光太郎の新婚家庭も、ほほえましい。妻のおたいは、おっちょこちょいで、光太郎が定中役に回されるのも、実は、彼女が原因を作ってしまったのだが、そのことを自覚して、なんとか夫が名誉を挽回できるようにと尽くすのが、かわいらしい。
あと、テレビドラマ「相棒」で登場する、小料理屋「花の里」とそのおかみ宮部たまきとよく似た雰囲気の、小料理屋「健菜」とそのおかみ加乃が登場する。「相棒」では、宮部たまきは、杉下右京の、元、妻、であるが、『お医者同心 中原龍之介』の「健菜」の加乃は、別に、中原龍之介の、元、妻、ではない。
また、岡っ引きの枡次が登場して、中原龍之介や松本光太郎のためによく働く。情報収集をするだけでなく、光太郎の家にも顔を出し、おたいを助けてくれる。非常に頼りになるが、そもそも定中役は十手を持たず、枡次は、定町廻り同心の菊池基次郎から十手を預けられているので、そちらにも情報を提供せねばならず、板挟みになって、結果的に、中原龍之介たちのほうが割りを食う事もある。しかし、中原龍之介の推理がずばぬけていて、少々、割を食っても、ものともしない。中原龍之介は常に落ち着いていて、不遇をかこつこともない。ただ、彼には、重い過去があるらしいことに、松本光太郎は気づく。
この小説は、謎解きよりも、中原龍之介のキャラクターと、おたいなど松本光太郎の周囲の人々の言動のほうが、おもしろい。ときどき、登場人物の言葉遣い、敬語の使い方など、変なところがある。文章そのものに酔うことはできないが、中原龍之介の重い過去が何なのかが気になって、シリーズの次の作品へとひっぱられる。