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紙の本
幻のアフリカ (平凡社ライブラリー)
著者 ミシェル・レリス (著),岡谷 公二 (訳),田中 淳一 (訳),高橋 達明 (訳)
ダカール=ジブチ、アフリカ横断調査団の公的記録。植民地主義の暴力とそれを告発する私的な吐露−。客観性を裏切る記述のあり方が、ポストコロニアリズム等の現代的文脈で、科学性の...
幻のアフリカ (平凡社ライブラリー)
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商品説明
ダカール=ジブチ、アフリカ横断調査団の公的記録。植民地主義の暴力とそれを告発する私的な吐露−。客観性を裏切る記述のあり方が、ポストコロニアリズム等の現代的文脈で、科学性の問題の突破口として絶対参照される民族誌。〔河出書房新社 1995年刊の改訳〕【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
ミシェル・レリス
- 略歴
- 〈ミシェル・レリス〉1901〜90年。パリ生まれ。作家・民族学者。24年にシュルレアリスム運動に加わり、その後民族学者としての道を歩む。著書に「成熟の年齢」「黒人アフリカの芸術」など。
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紙の本
約80年前からの贈り物
2010/07/28 23:56
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書はダカール・ジブチ、アフリカ横断調査団に参加したフランス人民俗学者ミシェル・レリスの日記である。日記は1931年5月19日から1933年2月16日にわたり、ほぼ毎日つけられている。調査の所見を記すことはもちろんのこと、旅程での出来事や印象、さらには夢の内容までも丁寧に記述した。また、出版する際の序文の構想までも掲載している。果ては蚤に噛まれたことまでも。
レリスは「書記兼文書係」として調査団に加わった。だからこそ、些細な内容をも記録に残してくれたのである。しかも、調査の内容以上に多くの情報を伝えてくれた。
調査はフランスの植民地となった国々を中心として実施された。各国々における習俗や文化を日記体で記しているが、その内容はレリスの受けた感じを主軸に描かれている。そのため、記録としての科学性は十分とは言えないかもしれない。しかし、それは日記という形態を取っているから当然であろう。それでも多くの情報が充填されており、読み応えは十分である。ここでは本書から読み解ける重要な特徴を3つに収斂させて特徴をまとめてみたい。
1つは、民俗誌としての価値。記録としての科学性は十分と言えないと前述したが、それでも詳細な報告を記したところもある。それはエチオピアのゴンダール民俗調査報告である。写真の掲載枚数は少ないものの、時間を明示して儀式の模様や憑依の様子を克明に記しており、民俗誌としての価値は高い。解説によると、ダカール・ジブチ、アフリカ横断調査団の公式報告は刊行されなかったという。レリスの日記が唯一の記録となったらしい。このことも、本書の民族誌的価値をさらに高めてくれた。
また、植民地下における支配と被支配の関係が窺える点も重要である。レリスはこの関係性を毛嫌いしている。そのため、どうしても偏った視点で描かれているが、それでもヨーロッパ人の現地人に対する接し方、それに対する現地人の対応のあり方など、当時の様子を推測させるには十分な内容が残されている。
さらに植民地下における民俗調査の様子を知ることができる点も重要な特徴の1つである。特に資料収集の様子を赤裸々に曝け出しているところは、ヨーロッパ民俗学の歴史を紐解く上で欠かすことのできない好資料として高く評価しなければならない。むしろ、この点こそが本書の価値を最も高めているのではないだろうか。
資料の収集は購入という手段でも実施された。しかし、それが叶わない時には「他の村でと同様、踊りの衣裳、日用品、子供の玩具など、実際見つかるものは何でも、洗いざらいかっさらう」(144頁)という手段を採る。民俗資料は、収集されて目録に記され、収蔵されると、その来歴は分かっても収集方法までは伝えられることはない。レリスの記述は、当時の民俗資料の収集のあり様を具体化してくれており、本書をヨーロッパ民俗学の研究史を紐解く上で欠かすことのできない存在へと昇華させた。
本書は解説を含めて1000頁超となかなかのボリュームである。しかし、長期に及ぶ日記という性格を考えると、このボリュームは必然なのだろう。ボリュームは十分であり、なおかつ上記に示したように内容が多岐に及ぶことも本書の特徴である。読み手によっては、ここで示した以外の新たな見解、印象が得られるだろう。例えば、レリスの愚痴めいた感情の吐露と時折書かれる夢の内容を比較検討することで、レリスの心理状況の探究も愉しむことができるのではないだろうか。読み手それぞれの楽しみ方の探究も本書の魅力なのかもしれない。読書のあり方を模索させてもくれる良書としてお勧めしたい。