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- カテゴリ:一般
- 発売日:2010/09/09
- 出版社: 早川書房
- サイズ:20cm/219p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-15-209155-0
紙の本
沈黙の時代に書くということ ポスト9・11を生きる作家の選択
V・I・ウォーショースキー・シリーズで知られる著者が、初めて語る生い立ちと、9・11以降の米国社会への違和感、そして、孤立を乗り越える人々への静かな共感。日本向けに新章「...
沈黙の時代に書くということ ポスト9・11を生きる作家の選択
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商品説明
V・I・ウォーショースキー・シリーズで知られる著者が、初めて語る生い立ちと、9・11以降の米国社会への違和感、そして、孤立を乗り越える人々への静かな共感。日本向けに新章「拷問とスピーチと沈黙」を加えた自伝的エッセイ。【「BOOK」データベースの商品解説】
フェミニズム、人種問題など、つねに現代社会の諸問題と対峙する著者が、自らの半生や信条、9.11以降の米国社会への違和感などについて綴る。日本向けに「拷問とスピーチと沈黙」を追加収録。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
サラ・パレツキー
- 略歴
- 〈サラ・パレツキー〉1947年アイオワ州生まれ。シカゴ大学で政治学の博士号を取得。82年「サマータイム・ブルース」で作家デビュー。「ブラック・リスト」で英国推理作家協会のゴールド・ダガー賞を受賞。
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紙の本
ヴィクとパレツキーの自伝と、現在という恐怖の時代について
2010/10/19 15:30
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うみひこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めて、この書物を手にしたとき、これは、サラ・パレツキーのただの自伝だと思っていた。シカゴの名高い女探偵「V.I.ウォーショースキー」の生みの親。強く逞しく、恋人が「君は強すぎる…」と言って、去っていくような女性を描いた人は、どんな人生を送ってきたのだろうと思ってきたから…。けれども、この書物は、ただの自伝ではなかった。現在のアメリカへの告発の書なのだ。
作者は 1947年6月8日生まれ。こう書くと、この年号に深い意味を感じる。日本では、団塊の世代と呼ばれている世代。アメリカでは、反人種差別運動とウーマンリブ運動を知る人々の世代なのだ。
ある意味、「若者の時代」の作家でもある。
この自伝を読んでいくと、彼女が作り上げた主人公が、何故、フェミニストで、自立した女性で、ハードボイルドな逞しい探偵であるかが分かってくる気がする。そして、それが、作者が、どういう時代を生きてきたからなのかも分かってくる。
それほど、この自伝の中では、彼女の若い頃の時代についての言及が多いのだ。そして、その時代を語ることが、アメリカの現代史を語り直すことでもあるようだ。
これは、パレツキーの自伝であるが、同時に、ヴィク誕生の物語でもある。是非、若い頃の彼女と共に、1966年8月のシカゴに降り立ち、そこで、ヴィクが生まれることになったアメリカの歴史の1頁、キング牧師との出会いを見てもらいたい。
ところで、私は、いつも彼女と同時期にハードボイルドな女探偵を作り上げたスー・グラフトンの主人公キンジー・ミルホーンと、パレツスキーのヴィクを比べずにはいられない。二人の違いの中に、それぞれの作家が自己投影したものが見えてくるのだ。
例えば、 キンジーは貧乏で、知り合いもクライアント以外には、特に大金持ちはいない。
ヴィクには、親友のロティという医師のおかげで、富裕層の知り合いが何人かいるし、顧客も経営者が多い。
キンジーは気取らず、着るものに無頓着で、ドレスは一枚しか持っていないが、ヴィクは企業相手の仕事が多いので、絹のブラウスを着ることが多い。
キンジーは無趣味だが、ヴィクは母親がイタリア系ユダヤ人の移民で、オペラ歌手を目指していたので、自身も音楽に造詣が深い。
キンジーは食べるものに興味がないが、
(でも、ピクルスとピーナッツバターのサンドイッチは作る)
ヴィクはほんの少しは料理をするし、(やたらと、トーフの炒め物がまずそうな感じで出てくるが、 イタリア風オムレツは得意らしい)
舌が少しは肥えているようだ。
キンジーもヴィクも恋人が次々現れるのだが、 どうもヴィクの方が、「君は強すぎる」という理由でふられることが多い気がする。
キンジーは2回結婚(離婚も)している。
相手は、警官仲間の年上の男と、天使のように美しい麻薬中毒のミュージシャン。
ヴィクは、一度だけ結婚(もちろん離婚)していて、相手は、ロースクールの同級生で、弁護士。
二人とも、白人女性で、貧乏な出自となっている。二人とも両親を亡くしている。
でも、キンジーは幼い頃に事故で両親ともになくし、独身の伯母に育てられた。そして、学歴はハイスクールまでで、その後、警官になっている。
ヴィクは、移民の両親に育てられ、大学を出してもらい、弁護士になった。両親はそれぞれ、別の時期に病死している。
何故、こんなに長々と比較したかというと、この自伝で知った、パレツキーの生い立ちが、作品にどう反映されているかが分かるからだ。
パレツキーは、司書の母と教授の父を持ち、男兄弟3人のうち、下の弟二人の生活の面倒を常に任されて育った。(7歳の時から毎週土曜、彼らのためにパンを焼き続けたといっている)インテリ家庭で育った割には、家庭内では、女の子というだけでかなりの差別を受けていたらしい。進学するにおいても、父親からの援助が受けられず、苦学して、博士号を取ったことなどが、この自伝で語られている。また、大学内でも教授たちによるセクハラ的言動や差別が当たり前だった時代についても、語られている。
作者が主人公を、一人っ子に設定し、警官の娘という低所得家庭の出自ながら愛情深く育てられ、頑張って弁護士になった、という設定を見ると、パレツキー自身の憧れていたもの、自己投影した部分などがわかって来る気がする。
では、そんな彼女がどういう男性と結婚したか、については、お楽しみにとっておきたいのだが、実は殆ど語られていないのが、心残りなのだ。「彼」については、1冊の本がかけるくらい興味深い人物だと言ってはいるのだが…。
何故、現在の自分について語る部分が少ないのだろう?それは、彼女がこの自伝を通して語りたかったことが、実は、アメリカの現状と、沈黙を強いられる作家がどのように声を上げていくかということだからなのだ。
9・11以降、アメリカで施行された「愛国者法」の問答無用な恐ろしさを彼女は語る。テロを防ぐという理由の元に、アメリカ国民は自由を失いつつある。国家安全保障局とFBIによる捜査の恐ろしさ、全ての通信が、メールが、電話が盗聴され、図書館の自由も失われてしまう時代の恐ろしさを彼女は説く。
彼女は、若い頃、ボランティアでシカゴを訪れ、キング牧師のデモに連なり、公民権運動に対する憎悪を目の当たりにした。それが彼女の人生を変え、ヴィクを生み出した。そんな彼女だからこそ、このような時代を生きぬき、どんなに、彼女とヴィクが疲れていようとも、物語を生み出して行くにちがいない。
今後、この作家が沈黙を強いられる時代に、パレツキーとヴィクがどう戦っていくのかを、物語の中で読み込んでいくことが、現代アメリカを知る契機となっていくだろう。
4年ぶりに、新作の翻訳もでたようだ。愛読者としては、本当に様々な意味で期待に燃えるところである。