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商品説明
場所・時間を問わず突然居眠りを始めてしまう持病を抱えるため、物書同心の藤木紋蔵は「窓ぎわ」の立場。しかし書に通じありとあらゆる判例が頭に入っている紋蔵のもとに、上が頭を抱える厄介事はいつももちこまれる。八丁堀小町のちよが「あたいは公方さまのお姫様かもしれない」と思い込みはじめ…表題作他8篇を収録の人気シリーズいよいよ第11弾。【「BOOK」データベースの商品解説】
物書同心・紋蔵のもとには、上が頭を抱える厄介事がいつももちこまれる。八丁堀小町のちよが「あたいは公方さまのお姫様かもしれない」と思い込みはじめて…。表題作ほか全8篇を収録。『小説現代』掲載を単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
真冬の海に舞う品川の食売女 | 5−43 | |
---|---|---|
象牙の撥と鬼の連れ | 45−84 | |
みわと渡し守 | 85−126 |
著者紹介
佐藤 雅美
- 略歴
- 〈佐藤雅美〉昭和16年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒。「大君の通貨」で新田次郎文学賞、「恵比寿屋喜兵衛手控え」で直木賞を受賞。ほかの著書に「魔物が棲む町」など。
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紙の本
ほんものの親、にせものの親
2011/06/03 10:51
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
あの変わり者の金右衛門とその娘のちよがレギュラー化して、うれしい限りである。紋蔵や大竹金吾が取り組む事件が、ちよや、金右衛門の妻となったくめの、なにげない情報提供で解決に導かれることもある。あの紋蔵の不倶戴天の敵黒川静右衛門が再登場する『中秋の名月、不忍池池畔の怪』以外は、すべて、実の親や養親と、子との、ほんものの愛情やにせものの愛情の物語、である。一つのテーマで貫かれているおかげか、これまでの居眠り紋蔵シリーズのなかでも、一、二を争うおもしろさである。
最初の『真冬の海に舞う品川の食売り女』に出てくる、食売り女が客の悪口を言い合っていたら、全部、こっそり隠れた当の客に聞かれていた、という話は、どこかで聞いたことがあるな、と思って調べたら、只野真葛著『むかしばなし』に載っている話だった。それと、居眠り紋蔵シリーズ他佐藤雅美作品でよく紹介される江戸時代の法律のひとつに、養親が養女を売り飛ばし、実親がそれを知って養親を訴えても、養親は罪にならない、というのがある。その制度とからめて、『むかしばなし』の話をうまく取り入れているが、それが悲しい結末につながってしまう。
紋蔵の末娘の妙の三味線のおさらい会で、みわという少女が新たに登場する。みんなが晴着を着てくるおさらい会につぎはぎだらけの着物で出ざるを得ないほどの貧しい少女だが、三味線の腕は、天下一品、満場の拍手で、現代で言えばスタンディングオーベイションというところ。彼女は生まれ落ちたときから捨て子にされたり何度も劇的でかわいそうな運命に見舞われるが、金右衛門が金主となっている観潮亭で三味線を弾いてお金を稼げるようになり、単におとなの都合で翻弄されるだけでなく、自分の意志を貫ける足場を獲得するところがすばらしい。みわが観潮亭のスターになると、ちよが負けん気を出して、三味線ではかなわないから踊りで、とがんばり、ちよもまたスターとなる。三味線で身を立てることを第一に考えていて、進んで引き立て役を引き受けるみわと、スターになりたいちよとは、いいコンビになる。みわはしっかりしているけど、ちよは夢見る少女なところが危なっかしい。そう、そこをつけこまれる。それも、なんと、実の親に……。
少女なら誰でもシンデレラ願望がある……かどうかは知らないが、私も覚えがある。しかも、身近に実例が現れたら、なお一層、願望は強くなる。だけどそこに、実の親が付け込むなんて。最後に収録されている『ちよの負けん気、実の父親』で、ちよは、いい勉強ができたんだな、と思った。ほっとしたよ。