ココ・シャネルの「ネットワーク」戦略 （祥伝社黄金文庫）

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投稿者：サトケン　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

人生で成功したければ、「近所づきあい」と「遠距離交際」のバランスをとれ、そして人間関係の「リワイヤリング」を意識的にやれ。これが本書の最大のメッセージである。「大切なのは、知人、友人と戦略的につながることであり、お互いの信頼関係（ソーシャル・キャピタル）を深めること」（P.242）なのだ、と。

このメッセージを、ファッション・ブランドの変革者ココ・シャネルの生涯をケーススタディの材料とし、豊富な図解をもちいながら「ネットワーク理論」をつかってやさしく一般向けに解説した文庫版書き下ろしである。シャネル伝としては異色の一冊といえるだろう。

「人間関係のネットワーク」とは、一言で言ってしまえば「人脈」のことだが、著者はこれを「近所づきあい」と「遠距離交際」のふたつに分解する。「近所づきあい」とは文字通りの意味で、親兄弟や友人、隣近所や勤務先の組織などで日頃から顔を合わせている存在とのつきあい。「遠距離交際」とは、ひんぱんに顔をあわせるわけではないが、ときに重要な情報をもたらしてくれる外部世界とのつながりのことだ。

もうひとつのキーワードは「リワイヤリング」。人間関係のつなぎ直しのこと。これは転職や転勤など、その他人生のステージが変わったときに意識的に行わないと、次のステージで飛躍できない原因になってしまうこともあるから要注意なのだ。

二つの世界大戦をはさんで87歳まで生きたシャネルの生涯は、まさに波瀾万丈そのものだ。貧しい家庭に生まれ、孤児として修道院付属の孤児院で過ごしたシャネルは26歳までに「過酷な環境から抜け出し」、27歳から36歳にかけての10年間で「ビジネスを飛躍的に成長させ」、37歳から56歳までの20年間では「人生を爆発的に充実させ」、57歳以降の死去までの30年間は「動乱の時代を生き抜き、復活」している。

その人生の節々で成功を納めてきたのは、人脈を戦略的につかっているからだという著者の指摘は、本書を読むと十分に納得できることである。それにくわえて、孤児院時代に身についた早寝早起きという規則正しい生活習慣と勤勉さも、シャネルの成功において大きな意味をもっていたようだ。

シャネルの生涯をずっと追っていくと、まさに「ネットワーク理論」のセオリーどおりに動いているように思われるから不思議だ。読書家であったシャネルだが、もちろん理論そのものを知っていたはずはない。天性の勘ゆえだろうか、ほとんど無意識のうちに戦略的とさえ思えるような行動をとっているのである。日本の居酒屋文化にはない、欧州のサロン文化やパーティ文化もまた、人脈を戦略的つかいこなす意味で果たしている意味が大きいことが著者によって指摘されている。

もちろん、読者がシャネルの生涯をそのまま真似ても、同じように大成功するわけではないが、「ネットワーク理論」からみた人脈つくりのエッセンスはぜひ学び取りたいものである。本書は、ココ・シャネルの生涯とネットワーク理論のふたつを同時に知ることのできるお得な一冊になっている。面白くて読んでためになる文庫本としてぜひ薦めたい。