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紙の本
風立ちぬ (ハルキ文庫 280円文庫)
著者 堀 辰雄 (著)
共に病に冒されている「私」と婚約者・節子。彼女に付き添ってやってきた、美しい自然に囲まれた高原のサナトリウムで、ふたりの少し風変わりな愛の生活が始まる。作者の体験をもとに...
風立ちぬ (ハルキ文庫 280円文庫)
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商品説明
共に病に冒されている「私」と婚約者・節子。彼女に付き添ってやってきた、美しい自然に囲まれた高原のサナトリウムで、ふたりの少し風変わりな愛の生活が始まる。作者の体験をもとに書かれた不朽の名作。【「TRC MARC」の商品解説】
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スケールの違い...
2017/05/31 17:30
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
まずハルキ文庫についてひとこと。「280円文庫シリーズ」の安価にはびっくりした。どれも著作権の切れた名作ものなので、この値段も納得できるが、それでも他の出版社の場合、この種の文庫なら通常500円は超えるだろう。それをあえてこの値段に設定したのは、角川春樹社長の「安いといろいろな人が手に取ってくれて、本好きが増える」との考えからという。装丁もファッショナブルで紙質も心地よい。出版者の意図は十分に達成されたものと私は信じている。
さて、この『風立ちぬ』だが、なるほど端正な文体の美しい小品である。しかし、この名作を読んだ後に私が抱いたのは、共感というよりはむしろ、妻の死を題材にしてまで何を訴えたいのかという戸惑いであった。しかもこれを執筆しようと思い立ったいきさつまでが、そこに記されているだけでなく、妻が生きているうちから、彼女が死ぬという前提で小説を書こうとする決意までが綴られていることには閉口した。私小説家とはこうまでして、ドラマティックな展開を、自分の人生とその記録としての作品に求めるものなのか?
最近読んだトーマス=マンの『魔の山』も、舞台はサナトリウムであった。いずれも、病気が身近なものとして描かれた、おおむね健康な読者にとっては、別世界の物語である。だがしかし、『魔の山』がハンス=カストルプ青年の求道性や人間としての成長を前面に出しているのに対して、この『風立ちぬ』では、悲劇性におぼれる愛の恍惚というのか、退嬰的な気分の中で愛や人生が描かれているだけである。たとえば、後者の主人公が妻を抱擁するときの至福感は、まるで妻が死にゆく運命にあるがゆえとの印象をぬぐいえない。物語の最後が、妻の死後、山にこもって彼女の思い出に浸るというのも、正直センチメンタルすぎて読むにたえられなかった。20世紀前半にドイツと日本で書かれたそれぞれの作品が、量においてだけでなく質においてもスケールが違うことは明らかである。