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夏目シリーズの第4弾。4編からなる連作短編。亡き母の想いに胸を締め付けられた”黄昏”,強姦事件の傷が招いた悲しい悲劇”生贄”,出稼ぎ外国労働者のやりきれない境遇”異邦人”,そして相模原障害施設殺傷事件の嫌な記憶がよみがえる表題作の”刑事の怒り”。どれも心揺さぶられる良作でした。
あらすじ(背表紙より)
スーツケースに入った高齢女性の遺体。隠していたのは娘だった。母の死を届け出なかった本当の理由とは(「黄昏」)。公園のトイレで起きた殺人。容疑者はレイプから身を守ったというが(「生贄」)。犯罪者自身が抱える壊された心、それでも許されない罪の重み。現在をまっすぐ見つめる刑事・夏目の傑作ミステリー。
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夏目刑事シリーズは、外さない。人間ドラマであり、サスペンスであり、薬丸岳の真骨頂躍如たるものがある。
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重い…いつにも増して重い…。休日に読んでいて、重苦しい気分になって、キリのいいところで一時中断した程に。
連作4篇からなる中編集。なかでも表題作「刑事の怒り」は、サリン事件の被害者が亡くなった直後だけに、彼女のことを考えずにはいられなかった。自分がその立場になった時、それが寝たきりになる側であったら、介護する側であったら。どう願うだろうか、想像もつかない。でも夏目さんが、「生きていたいと思わせてあげられない自分を責める」と考えていたことに、夏目さんの強さを感じた。
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夏目信人シリーズ4作目。
「黄昏」「生贄」「異邦人」「刑事の怒り」全4話を収録。
提示された状況証拠から、ある程度の先入観を持って、登場人物たちを見てしまうが、そんな読み手を見透かすように、夏目がひとつひとつ丁寧に紐解いていく。
犯人に怒りを抱き、打ち震えたとしても、何よりも人としての心を取り戻してほしいと願い、寄り添う、優しすぎる刑事。
余韻がすごい。
図書館蔵書。
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現代の犯罪と社会問題、その裏に隠された人の想いを描いてきた夏目シリーズもこれで4作目。前作『刑事の約束』で起こった夏目の身辺の大きな変化。それを通じて夏目シリーズの物語の芯はさらに太く、強くなっているような気がします。
収録作品は4編。表層的な事件の捜査にとどまらず、事件の容疑者や被害者を愚直に見つめ、犯罪に向き合う夏目の姿勢は今回も変わらず。しかし、収録作品に関してはますます円熟味を増しているように思います。
母の死体をスーツケースに入れて、死を隠蔽し続けた娘の本当の目的を探る「黄昏」
明らかになる娘の思いと、決して消えない後悔。事件の構図が見えてくるとともに、それが切々と迫ってくるのですが、単に後悔だけで終わらせず、全ての情報から死者の思いすら読み解き、事件を真の解決に導く夏目の見事な推理!
動機の意外性、その意外性まで無理なく導く構成。完成度の高さはもちろん、切なくも優しい人の情を浮き彫りにする真相に心打たれます。
外国人留学生の窃盗事件を描いた「異邦人」は、留学生の厳しい現状を描きます。彼らの孤独や苦悩は平易な文体ながらも、真を持って読者に迫ってきます。
そして彼らの孤独を生むのが、自分たちが暮らす社会の、そして自分たちの心理の問題だということにも気づかされます。話の展開の巧さはもちろんなのですが、そこから浮き彫りになる問題は、あくまで現実と、そして自分たちと地続きなのです。社会派ミステリとはかくあるべし、と感じてしまいます。
「生贄」は性犯罪を扱った重厚な短編。
レンタルビデオで夏目が覚えた違和感は、情を持って事件に挑む、夏目にだからこそ気付けたもののように思います。そして明らかになる真相は、あまりにも哀しい……
理不尽な暴力で壊れてしまった人の心、そして生まれた悲劇。どうすれば人の心は救えるのか、この悲劇は避けられたのか、悶々と考え込んでしまいます。
そして表題作の「刑事の怒り」
植物状態となった患者の不審な死。それは夏目自身にも大きな問いかけを発します。
かつて犯罪に巻き込まれ10年近く昏睡状態となった夏目の娘。それでも夏目は希望を捨てず、妻と二人三脚で娘の回復を信じ、ようやく希望が見出せる状況になってきました。
犯人の非道かつ身勝手な動機と言い分に対し、夏目が見せた“刑事の怒り”。それは自分にも突き刺さってくるものでした。
この話を読んで思い出したのが、数年前に起こった障害者施設での殺人事件。この事件は社会の様々な意見を発現させ、自分も少なからず、生きるとは何か、命の価値とは何か、幸せとは何かを考えました。
そんなもやもやとした感情を思い起こしつつも読み進め、そしてクライマックスの夏目の言葉を読んだ時、頬を打たれるような思いがしたのです。
今まで夏目夫妻の娘への思いや、献身的な行動を読んできたにも関わらず、結局自分の勝手な思い込みや狭い視点から、何も抜け出せていなかったのだと。
薬丸さんは現代社会の犯罪と問題に対し、本当に真摯に誠実に、そして作中の夏目よろしく、どこか優���さを持ち、時に苦悩しながらも向き合っていらっしゃると思います。そして、そんな薬丸さんの芯がますます濃縮されつつあるのが、このシリーズのようにも思います。
この巻で夏目自身がこれまでの警察署から異動となり、新たに本上という女性刑事とコンビを組むようになります。彼女も過去に何らかの犯罪に巻き込まれた節があり、それもまた、このシリーズの根底に関わってくるような気もします。そして夏目の娘である絵美の今後も、きっと夏目自身に大きな影響を与えることと思います。
ミステリとしての完成度もさることながら、シリーズとして夏目の視点が現代社会の何をとらえるのか、今後とも期待していきたい作品でした。
第70回日本推理作家協会賞〈短編部門〉「黄昏」
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夏目刑事シリーズ第4弾。
2話目からは、東池袋署から錦糸署へ異動。初日から遭遇した事件でコンビを組むのは、女性刑事本上。何やらいわくありげな相棒で、今後のコンビぶりに興味あり。
短編4編はそれぞれ、年金やレイプ、外国人労働者と、現代日本の社会問題を取り上げながら、ミステリーとしての面白さも満たしてくれる。
表題作では、夏目の娘絵美とシンクロする、身体活動や知的活動ができない患者への対応の問題を扱う。医療過誤か自死か、あるいは事件か、夏目の怒りは著者の怒りでもある。
ただ、娘絵美が作品ごとに回復しているのを見るのは、次回作への楽しみとなる。
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薬丸さんも好きな作家さんのひとり。
薬丸さんのミステリーは、胸が締め付けられるテーマも多いけど…
とても興味深く、惹きつけられます。
この本は、夏目刑事シリーズ。
・刑事のまなざし
・その鏡は嘘をつく
・刑事の約束
に続くシリーズ第3弾。
夏目信人。
一人娘の絵美が通り魔事件の被害者となり、意識不明となる。
当時、法務技官だった夏目は、犯人を捕まえたいとの思いから、警察官となった。
警察小説はちょっと苦手なのですが、このシリーズは別。
夏目の人間的魅力に惹きつけられる。
【刑事の怒り】は4編の連作短編集。
・黄昏
・生贄
・異邦人
・刑事の怒り
どの作品も社会問題をテーマにしている。
表題作である「刑事の怒り」を読みながら、津久井やまゆり園の事件を思い出していた。
夏目の一人娘、絵美も10年もの間、意識不明の状態だった。
表題作はこの重いテーマを描いている。
この作品が描かれたのは、事件のあと。
薬丸さんはこの重いテーマに挑んだことになる。
とても考えさせられた。
刑事・夏目信人シリーズ。
今後も期待!
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短編集。購入済み。読みたい気持ちがある。
2023.03.02.一作目のみ読了。
あまりパンチがない。好みでないのでブックオフへ。
他に読みたい本がいっぱいある。
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罪と戦う刑事夏目シリーズ。短編4作。優しさとこだわりと人柄が自身の教えになるミステリ。色々なことを考えさせられるのが薬丸岳作品。面白いよ。
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単行本で一度読んでいた。文庫本で再読。
夏目シリーズ第4弾。錦糸署に異動辞令がでた所から始まる。表題作の『刑事の怒り』は実際にあった事件を思い出しやり切れない思いです。新しい相棒の本上さんもまだ謎を抱えていそうですし、このシリーズはまだまだ読みたいですね。
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『刑事のまなざし』から始まる刑事・夏目信人シリーズ、第4弾。
社会的弱者の苦悩や問題を、丹念に掘り起こし、一つ一つ丁寧に浮かび上がらせる薬丸作品。
今回は、『黄昏』、『生贄』、『異邦人』、『刑事の怒り』の4作品。それぞれ、年金不正受給、性犯罪、外国人留学生、介護の問題。
それぞれ味のある作品ですが、特に、『刑事の怒り』は、被害者が自身の娘・絵美の姿とも重なり、犯人の理不尽な理由に怒りが...
ぜひ一度、読んでみてください。
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夏目信人シリーズの第4弾! 今回も4つの社会問題・テーマに全力で向き合う良作が並ぶ。仕事上で出会うことが多かったパラサイト問題を扱った“黄昏”、職場にいる技能実習生のことを考えさせられた“異邦人”が特に引き付けられた。このシリーズは引き続き追いかけていきたい。ただ、著者の不勉強な面が出てしまうのが玉に瑕。ケアマネジャーは直接口腔ケアはしませんよ~。編集、校閲さんもチェックしましょうね!
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4話からなる刑事・夏目シリーズ。
「黄昏」高齢な母の死。
母を唯一 側に居てくれる存在だと、思っていた華子。
好きな男性が、母に出来た事、一人寂しく生活をしなくてはいけなくなることに不安を感じる娘 華子は、母の死後も死体をスーツケースに入れていた。
年金の不正受給にもなるが、一番の思いは、一人で生きて行かなくてはならないと、いう思いではなかったのだろうか?
「生贄」この2話から、夏目は、東池袋から錦糸署へ。
そして、公園トイレでの殺人事件。
レイプ、性犯罪に、被害者の苦痛を全国へ知らしめる為に、自分の身を投げ出し、真実を知ってもらうために殺人を犯した咲の歪んだ心に、どう言葉をかけていいのか?
「異邦人」ベトナム人のクエットが、警察通訳人で、仕事を引き受けたら、時間や電話連絡をしなかった事で、アルバイト先から、解雇通告されてしまった。
そして、強盗致傷で、逮捕されたオックの通訳をするのだが、自分よりも大変な生活をしている事を知る。
結局は、家宅侵入は、其処の娘の母親への虐待が、原因であったのだが、・・・・
罪を犯したオックは、通訳のクエットも、自分の同郷でも、日本人と同様に異邦人に映っていたのだと・・・
だいぶ前に、日本語学学校の定員数が、凄く多く入学しているのに、卒業もせずに、不法労働をしている記事を読んだのだが、このような事実があったのかもしれないと、思うと、可哀相に思える。
しかし、今 コロナで、日本人でさえ 仕事も減っている昨今、どのようにして生活を維持しているのだろうか?
「刑事の怒り」夏目の娘が、通り魔事件で、植物人間になってしまったのだが、、、、回復の兆しが、一つでも出て来て、嬉しく思う。
そんな中、同様な病で、呼吸器をつけないと生命維持の出来ない少年が、亡くなった。
そして、同じく、理学療養士の矢島啓介が、受け持っていた、高校時代の同級生も、同じような事で、死亡していた。
2つの事件は・・・・
情ない、そして、何も出来ない非力の者を、、、そして、未だ、生きる可能性のある者を死へ運んだ罪は、重いのではないだろうか?
自分の命を粗末にせぬようにと、亡くなった少年の母は、伝言するが、どのように、次の日から、生活を変える事が出来るのであろうか?
4つの話が、記されているのだが、ぬるま湯につかっている生活で、苦労もせず読書三昧している私には、こんな事件が、本当にあったら、どうしたらいいのか???と、悩んでしまった本であった。
しかし、絵美ちゃんが、1日でも早く、回復へとなって欲しいと、作者 薬丸岳氏にお願いしたい気持ちである。
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夏目刑事4作目。
母親の遺体を目に付く所において過ごした娘。
レイプにあった女性が起こす殺人事件。
外国人就労者(学生)の現実。
どれもこれも悲しいが、ラスト表題作はどうしたものか!
自身で動くことができない患者。「彼らはそんな状態で生きていて幸せなのだろうか?」この疑問は私自身にも経験があるのでなんともつらく、そして解けない謎の言葉である。うちの場合は、意思の疎通は全くできなかったけど、もし聞けたとしても果たしてそんな問いをすることさえできなかっただろう。家族は生きてほしいのだから。。なので、それを逆手にとった犯人は強烈に卑怯で、だから夏目が怒るのは当然だ。「刑事の怒り」という表題を見て、あれ?夏目さんって優しい人だったはず?の疑問も解ける。そして結果、患者が望んだ事でなかったという事実は物語だとしても救いであった。
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夏目刑事シリーズ第四作。これまでのシリーズ作品の中で最も重かった。
「黄昏」
年老いた母親の死体をスーツケースに詰めたまま三年も暮らしていた娘。今さら何故出頭してきたのか。
よくある親の年金詐取事件なのかと思いきや、母娘がかつて住んでいた街での捜査で新たな一面を見せる。
親子関係、長寿社会、生きがい…様々なことを考えさせられた末に夏目は被害者の真の思いまで突き止めてくれた。
この事件後、夏目は墨田区錦糸署へ異動する。
「生贄」
性犯罪は体と心を傷付けるだけではない。その人の尊厳を踏みにじり粉々にしてしまう。登場人物の言うように死んだことと同じなのだ。それなのにその刑罰はあまりに軽い。この話では女性だけがターゲットになっているが、最近では男性が被害者になるケースも聞く。性別関係なく許されない犯罪だ。
この一話だけでこれほど沢山の性犯罪被害者が出てくるなんて、深刻なことだと認識しなくては。
錦糸署の女性刑事・本上の厄介なキャラクターは今後どう展開するのか。
「異邦人」
『警察通訳人』の話はたまに読むが、ベトナム人目線のこの話もまた考えさせられる。
最近よくニュースで耳にする外国人犯罪。それに伴い外国人に対する日本人の目も厳しくなる。一方で「技能実習生」という名の労働力で日本人が嫌う仕事を補い、「語学留学生」たちのアルバイト労働者たちが安いサービス料金を成り立たせていることを忘れてはいけない。彼らもまた搾取され切羽詰まっている。勿論どんな理由があろうと犯罪はダメだが。
日本人だろうが外国人だろうが、その地で真面目に取り組んでいる人はいる。彼らに少しでも救いがあれば良いが。
「刑事の怒り」
自らの体を動かせない、誰かの力を借りなければ一秒も生きられない者は生きる意味がないのか?
夏目の娘は目覚めこそしたが、相変わらず自らの体を動かすことは出来ない。そのことを娘自身はどう感じているのか? 夏目夫婦が娘を看護しリハビリをさせているのは夏目夫婦のエゴなのか? 自らの力で生きられない者は周囲のお荷物でしかないのか。
難しい問題。個人的には自分が経済的にも身体的にも精神的にも家族を追い詰めるくらいなら…と考えてしまうが。
生きるとは何かを改めて考える話だった。
前作で見守りを約束した少年はまだ闇を抱えたまま。今後人間らしさを取り戻せるだろうか。
※シリーズ作品レビュー
第一作「刑事のまなざし」
https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/406277299X#comment
第二作「その鏡は嘘をつく」
https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/4062185202#comment
第三作「刑事の約束」
https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/4062188783#comment