紙の本
彼女たちは行動する、負の連鎖を断ち切るために
2020/12/31 12:41
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投稿者:くらげ - この投稿者のレビュー一覧を見る
慣習的な家庭内の「役割」に疲弊する人、過酷な労働環境を変えたいと立ち上がる人、性的に消費されるアイドルのあり方に疑問を投げかけるファン、人生の最後まで一緒にいることの社会的な難しさに直面する同性カップル、働きながらの子育てに奮闘する人、様々な彼女たちの短く濃い物語が集められている。彼女たちの願いは普通に生きること、ただそれだけ。
だけど、普通に生きることそのものの難しさは、韓国と日本で状況が異なる部分ももちろんあるが、共通している部分が多いのだと感じた。自分だけでなく、祖母、母、叔母、友人の姿が物語に登場する様々な女性たちに重なる。
彼女たちは、社会的、慣習的に抑圧されている事実に気づいた時、彼女たちなりのやり方で行動を起こす。次の世代に負の連鎖を残さないために我慢しない、行動する彼女たちの真摯さに勇気をもらった。
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果たしてわたしは今まで熾烈に生きたことがあっただろうか?
ここに描かれたテーマたちを、対岸の火事ほど心穏やかには見ていられなくて、むしろ自分のからだの一部が傷つけられたみたいに、痛くて苦しい。
じゃあ何かしたのかというと何もない後ろめたさ 出来ることからやってみたい
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『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者、チョ・ナムジュさんの短編集。
28編の掌編が収録されている。
韓国現代社会で生きる様々な境遇の女性たちの生活を切り取る。
読み始めの印象は、『キム・ジヨン』のような抑圧された女性を描いた、実話に基づいたプロテスト小説集か?というものだった。
”キム・ジヨンは私だ”という声が多く上がったように、チョ・ナムジュさんは今や韓国女性の代弁者のようでもあるから。
韓国内にため息のように吐き出される声の数々を拾い集めて、社会に、人々に届け伝える。そんなイメージだった。
でも、本の後半、特に第4章は、その印象が変わった。ぐっと引き込まれるお話が多くなった。
女性の多様な生き方や考え方、困難も喜びも人生への幻滅も夢へも目が向けられ、必ずしもフェミニズム文学的ではない。
このように書くと、いわゆるフェミニズム文学的な小説に興味はない、と考えているようにとられそうだが、そうではない。
むしろその逆で、男性社会の中で苦悩する女性であっても、進路、親との関係、結婚生活、就職、などなど、一人一人違った物の見方や考え方をしているはずで、そういった存在の方が生々しく読み手に迫ってくるものだ。
たとえば、社会学のテクストに書かれているフェミニズムの説明を読んで、理解はできても共感するのは難しい。
でも、このような小説の中に描かれた女性たちの声は、心に響く。
そういうものでしょ。
チョ・ナムジュさんは意図してかどうかはわからないけれども、その作品中に「義母」の存在を少し紛れ込ませる。
私は、男の子を社会的に一番「男」にする存在は母親なのではないかと考えている。
本人以上に、立派な男子であることを望んでいるのは、そしてそうあるべく嫁に役割を押し付けているのは、母=義母なのではないか。
男は実際には男らしくいたいとはそれほど考えていないものだろう。
男性社会の中で仲間外れにされずに、うまく振舞っている(振る舞おうとしている)だけだ。それが女性を抑圧する男性性を含んでいることに自覚的であるべきではあるが…。
ではなくて、息子を立派な人間=男に育てよう、そして立派に社会で活躍している姿を見せてくれることを一番期待し、そしてハラハラしているのは母親なのだ。
韓国映画やドラマなどに見られる息子を過度に溺愛する母親像は、それを大げさに描いたものだろう。
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インタビューをもとに再構成された女性一人称の小説。様々な年代の韓国女性の人生の一部分がオムニバス形式で染みてくる。『82年生まれ キム・ジヨン』と同様、フェミニズムの視点から、日本と状況が似ているなという部分が多いが、違うなと感じる部分も。具体的には婚姻時の親戚関係の密度の高さと、ストライキによって労働環境が改善した例が出てくるところだ。
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短編集で様々なエピソードが繰り広げられるが、これほどフィクションであってほしいと思うものも少ないですね。
もちろんノワールやクライムノベルとかは別ですけど。
一部連作になっているものもあります。それぞれの登場人物のそれぞれの目線が面白い。
どれも短編で終わらせるのはもったいないと思いますね。でも今はまだ短編として様々なケースがあることを広く知らしめる必要がある時代だってことですね。
いつか安心してしっかりとした長編を読める時代が来ることを望み、かつできることをしていきたいです。
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さまざまな年代の韓国人女性の物語。言葉も文化も違うため理解できない部分はあるものの、あるよねぇとうなづいてしまうのは場面も複数あった。
韓国の人はストライキやデモなど行動を起こす民族だなぁと驚いた。にも関わらずこのよう現状なのかと落胆もする。日本も韓国も昔に比べれば前進しているのだと思うのだが、それはこの物語に登場してくるような人々のおかげなのだろう。
最終話。四十を過ぎたら自分の顔に責任を持て、また顔だけでなく取り巻く社会にも責任を持つべきという一文に思わず背筋が伸びた。
この本を読んで勇気づられる多くの人がいるのだろうなと感じた。私もやるぞ!となんだか元気が出た。
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最後の解説「82年生まれ、A」を読んでから本文を読めばよかった。不条理の中にありながらも逞しく生きる女性に共感したり、びっくりしながら読んでいたが、韓国の社会的な背景がイマイチピンとこなかった。解説ではそう言ったことが書かれていたので、予備知識としてあったら、本文の味わい方も違っていたと思う。
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『82年生まれ、キム・ジヨン』が大ベストセラーとなった著者の次作。前作と同様に、韓国における女性の置かれた状況に問題提起する。短編集と謳っているが収録された作品はどれもショートショートといったほうがぴったりくるような短さで、それなのに1編読むと衝撃でしばし読む手が止まる。もともとは著者が新聞に連載したインタビューをもとにした作品で、それを小説化したものだという。装画の、布で顔を隠した女性たちの姿(1人がその布をハサミで切ろうとしている)がとても象徴的で印象深い。
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辛いな、と思いながら読んだ。多くの人が経験したであろう短編集。でも他人事では無い。あとがきにn番部屋事件へのコメントがあり感動した。
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個人的に短編集が得意じゃないので☆は少なめ。しかし内容は良かった。バラバラな世代の女性たちなのに同じように耐えている姿には思うところがある。
あと日本にもフラワーデモ等で行動を起こす方ももちろんいらっしゃるが韓国ではデモやストを起こすだけ国をまだ信じている、というより自分達を信じている方達がより多くいらっしゃるのかな、という印象を受けた
『調理師のお弁当』には本当に喉がギュッと締め付けられるような思いで読んだ
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「九歳の子から六十九歳のおばあさんまで、六十人余りの女性がみずからの物語を語ってくれました。その声が、この小説のはじまりでした。」(P9)ではじまるように、一人ひとりの日常がわかるうえに掘り下げられていくので、ときどき痛みを共感します。カムバックしたアイドルにTV番組お決まり愛嬌ポーズをしないでと行動を起こすファンの話や、自分のような専業主婦にならないよう育てた娘の子どもの世話に疲れたおばあさんの話が印象に残りました。
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ここに出てくる女性はそれぞれが何かしらの問題と向き合い、なかなか変えることのできないそれらを、自分自身や次の誰かのためになんとか変えていきたいと願い行動する人達です。
ここではそんな彼女達の日常の一部が切り取られています。それぞれの女性が主人公の短編小説を読み進めていくうちに、きっとその中の誰かに自分を重ねるのではないかと思います。そうして読み終えた時には、大袈裟なことではなく何かささやかなことでも、自分にできることで身の回りの状況を変えていきたいと思わせてもらえる、そんな一冊だと思います。
●卵達/Silence Breakers
私が特に個人的に印象に残ったのは「日本の読者の皆さんへ」で記されていた韓国のことわざについて書かれたものでした。
韓国には「卵で岩を打つ」という絶対不可能であることを意味することわざがあるそうです。そこから「卵で岩は割れなくても汚すことはできる」というジョークが生まれたのだとか。
(略)
数年前のある日、相変わらずの酷い暴力を受けていた私の目の前で、一人の勇気ある女性が声を上げました。理不尽な暴力に及ぶそのコミュニティで、どうやらその方も性的な暴力に遭ったようでした。被害者が私だけではないと知った驚きは今も鮮明に覚えています。
それはまさに私の目の前で、か弱い卵が一つ、自ら岩や壁にぶつかりにいった瞬間でした。
この本で著者は日本の読者に向けてこう続けます。
"役に立たない巨大な岩が私たちの前進を妨げているとき、そうか、と足を止めたり、引き返したりしたくありません。ここにそぐわない岩の塊が道を塞いでいるよと声を上げたいのです。一緒に悩んでみたいのです。もしかしたら、ここにある物語は巨大で堅固な岩に投げつけられ割れた、無数の卵の痕跡かもしれません。"
目の前で割れていく勇気ある卵を眺めながら、その痕跡を見て自分も卵であると理解できたのです。割れたくないと黙っているのか、岩や壁にぶつかりにいくのか。私には二つ選択肢がありましたが迷わず後者を選びました。
その選択ができたのは常に卵の側に立ってくれる人達がいたからです。私達卵の身に起きた理不尽な暴力とは無関係の場所で他人事として眺めていることもできた彼らが、常に卵の側に立ち、それが故に彼らまで暴力のターゲットにされることもありました。それでもなお、卵の側に立ち続けてくれる。彼らのおかげで私もこの著者のように「いつか岩は割れるはずだ」と信じて今日も卵を投げつけていられるのです。
(全文は https://note.com/flowercrown 本紹介にあります)
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この本に出てくる女性たちの物語を読んで、いかに自分が恵まれた環境にいるかが身に沁みた。現代の日本より韓国の方が遅れているというか生きていくのに厳しい社会なんだなと思った。読むと苦しい。苦しいけど目を背けてはいけない現実・ストーリーがここにある。
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「82年生まれ、キム・ジヨン」の作者による実話に基づく(女性の実体験に基づく)短編集。
自分に続く後輩や下の世代のためにも声を上げ、少しでも生きやすいように変革しようと戦う女性たちが強くて格好いいのだが、彼女たちの生活には不安も苦しみも悩みも葛藤もあって、そのリアルな姿が重くて辛い。それでもなんとか立ち向おうとする彼女たちのことを、本書を読みながら共感を伴って想う女性たちがいることを、彼女たちにも知ってもらえたらいいのにと思った。
ちょうど今朝の新聞に、コロナ禍で非正規雇用の仕事を失って貧困に陥り生活に行き詰ってしまった女性たちについての記事が掲載されていた。本書でも生理用ナプキンが買えないほど困窮した家庭に育つ女子中学生の物語があったが、日本でも同様のことが起きていると聞く。理不尽なことには声を上げて是正を望む権利は日本の女性にもある。
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ベストセラーとなった「82年生まれ、キム・ジヨン」の著者の短編集。
今回も数々の女性を取り上げている。
作者が9歳の女の子から69歳のおばあさんまで60人余りの女性たちにインタビューをした、とある。
主人公は、母親の介護を一人押し付けられている女性、
セクハラにあって、勇気を出して声を上げたOL。
女性アイドル歌手の追っかけをしている女子。
結婚する前から婚家の考えを押し付けられてきた花嫁。
朝から夜まで、孫たちの世話をするおばあちゃん。などなど。
特に印象深かった話の主人公をあげたが、日本の女性たちも ♯me tooと声をあげそうなことや、日本じゃそこまではないかもなどと比べてみたりするが、
そういう女性たちの背後には、朴槿惠大統領に対する不信感や、セウォル号事故の政府介入に対する不信感など、時代背景も関係していて、そのあたりの考え方も日本とは少し違うかもしれない。
それでもこういう本が共感を持って読まれるということは、まだまだ問題山積みということの表れであると思う。