Ｔｈｅ Ｗｏｒｋ ｏｆ ｔｈｅ Ｆｕｔｕｒｅ ＡＩ時代の「よい仕事」を創る

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The Work of the Future：AI 時代の「よい仕事」を創る

１章　イントロダクション

ほとんどのアメリカ人労働者にとって、40年前に生産性向上の粧道は貨・金上昇の軌道から分岐した。この分離は不幸な経済的, 社会的帰結をもたらした。すなわち、非大卒の労働者の仕事が低賃金かつ不安定になった。労働参加率が低下した。世代間の上昇移動が鈍化した。数十年間あまり縮まってこなかった大種間の所得と雇用の格差が逆に開いた。新しいテクノ ロジーがこうした惨慵たる結果の一因となったのはたしかだ。しかしこれらは技術変化やグローバル化や市場原理の必然的な帰結ではない。同じデジタル化とグローバル化の圧力はほとんどの工業国に影響を及ぼしたが、他国の労働市場はもっとうまくいっている。

イノベーションは、労働者が所与の時間に達成できる仕事の量、質、種類を拡大する。そしてこの生産性の向上が、生活水準の向上と人間の活躍を可能にする。あるべき好循環においては本来、生産性の向上が、仕事の構造変化によって生活を破壊された人々に投資するリソースを社会に供給する。

ところが、イノベーションが機会を生み出す契機になりそこねたとき、未来への恐怖が生じる。技術進歩が、国を豊かにする一方で、多くの人々の生活を脅かすのではないかと疑われるようになるのだ。

今後の重要課題— とりもなおさず未来の仕事— は、技術的イノベーションに対応し、それを補完し方向づけるように労働市場の機会を促進することである。そのためには、「ゲームのルール」を設定する法律、政策、規範、組織、企業を現代化することによって、アメリカの労働市場の制度を刷新する必要がある。

スウェーデン、ドイツ、カナダなど他の先進国もアメリカと同じ経済的要因、技術的要因、グローバルな要因に直面し、同じように堅調に経済成長を遂げてきたが、自国の労働者にもたらした結果はアメリカよりも良い。明暗を分けたのは、労働市場にかかった圧力の帰結を和らげられなかったばかりか、一部では増幅してしまったアメリカの制度変更と政策選択である。

新しいテクノロジーの普及は勝者と敗者を生む。これからもずっとそうだろう。労働者、企業、投資家、教育機関や非営利組織、政府— すべての利害関係者が関与することによって、個人と地域社会への弊害を最小化し恩恵を最大化できる。

２章　労働市場と経済成長

技術進歩は必ずしも万人に、ましてすべての労働者に利益をもたらすわけではない。脅威は二つの形を取りうる。第一に、自動化は最終的に、人間のほうが機械よりも生産性が高い仕事の数を減らし、大最失業の引き金を引く可能性がある。第二に、自動化によって仕事に求められるスキルが変わり、そのため高度に専門的なスキルを持つ少数の労働者が莫大な報酬を得る一方で、大多数の市民は負け組になる可能性がある。

自動化は「労働力を節減する」— 特定のタスクと職業から労働者を排除する— のに、なぜ雇用の総数は減らなかったのだろうか。最も信憑性の高い答えは、自動化はたとえ労働力を節減しても、新しい仕事を創出しやすい三つの相殺要��を生じさせるというものだ。

第一に、自動化は自動化されていないタスク
を行う労働者の生産性を上げる。第二に、自動化は経済の総所得を増やすような生産性向上を推し進める。第三の、おそらく最も大きな要因は、自動化によって一部のタスクから人間の労働者が排除されても、技術変化は新しい種類の仕事をもたらすことである。

過去40年間に、アメリカの労働者の大多数にとって、賃金上昇は全体的な生産性の成長軌道から分岐してきた。この分岐は一般の労働者の賃金上昇を鈍化させただけでなく、労働市場に複数の病弊を生み、社会に多大な帰結をもたらした。例えば、非大卒労働者の仕事は低貨金で不安定になり、労働参加率は低下し、所得の不平等度は歴史的な髙さになり、数十年のあいだたいして改善してこなかった人種間の所得と雇用の格差はさらに悪化した。

これら複数の病弊の原因は一つではないが、最も重要と思われる要因が三つある。第一に、仕事のデジタル化が進んで高学歴労働者の生産性が上がり、低学歴労働者は機械に代替されやすくなった。第二に、アメリカでは中国からの輸入増と生産の急速なアウトソーシングが貿易とグロ—バル化の加速に拍車をかけ、製造業の雇用が急減した。第三に、かつて一般の労働者が生産性の向上に見合った貨上げを交渉することを可能にしていた制度が衰退していった。それは労働組合加入者数の激減と、連邦政府の実質最低賃金の低下に表れており、それらは歴史的な低水準に迫ろうとしている。

このような所得格差の広がりを反映するとともに促進しているーつの要因は、伝統的に高賃金の職業と伝統的に低賃金の職業に仕事の増加が二極化し、中間層が犠牲になっていることだ。労働市場のハイエンドでは、成長する高学歴・高賃金の職業群が、前途有望なキャリア見通しと増えていく生涯所得と盤石な雇用の保障を提供している。その対極にある低学歴, 低賃金の職業群は、経済的な保障がほとんどなく、キャリアを通じて所得が増える見込みは薄い。生産現場、機械操作、事務・管理補助、販売などの伝統的な中間層の仕事は減少している。

アメリカの不平等には地理的な側面もある。過去30年間に、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルスのような都市では所得水準が急激に上がり、経済が活況に沸いた。就職機会と他の土地よりも高い賃金に惹かれて、高学歴労働者がこれら知識労働の中心地に集まっている。インターネツトと通信技術によって「距離の死」〔場所の制約がなくなること〕が予想されたのとは裏腹に、都市部の魅力は減るどころか増し、都市と地方、若者の多い地域と高齢者の多い地域の間で経済格差が開いた。

「所得に反映されなかった分の生産性はどこへ行ったのだろうか」という問いへの答えは二つの部分に分かれると先に述べた。一つ目の答えが不平等の拡大である。二つ目の答えは、国民所得に労働報酬が占める割合の低下だ。

ほとんどの企業で労働者の取り分が減っていないのに、総計では減っているとはどういうことだろうか。もしすでに労働集約的ではなく資本集約的な— つまり労働者の取り分が少ない—企業が経済の中で比重を増しているとしたら、これはありうる。「スーパースター企業」現象��も呼ばれるこの仮説は、いかに技術変化が広範な経済的帰結を一見わかりにくいが重大な形で変えうるかを明確に示す。

多くの産業において大企業が獲得する売上のシェアが増え、大企業よりも労働集約性が高くて資本集約性の低い小規模な競合他社を退出させ、 その過程で国民所得に占める方働の割合を下げているのだ。

生産性向上と報酬増の乖離は、2005 年頃からアメリカと多くの工業国で起きたように生産性の向上が減速するときほど顕著である。経済のパイの成長が過去数十年に比べて遅くなるだけでなく、そのパイに占める労働者の取り分も縮小していくからだ。その結果、当然ながら、労働者は自分が手にするはずの成果はどこへ行ったのかととまどうことになる。

アメリカはなぜこの40年間、生産性の向上を大多数の労働者の就職機会の拡大と所得増に転換することに失敗したのだろうか。これには技術変化、グローバル化の圧力、制度変化という三つの要因が寄与している。

同様なデジタル化とグローバル化の圧力はほとんどの工業国にも影響を及ぼした。アメリカは何が違うのだろうか。以下に述べるように、アメリカ特有の制度変更と政策選択が、これらの圧力によりアメリカの労働市場にもたらされた帰結の緩和に失敗し、一部では増幅してしまったのだ。

第一に、労働組合加入率が急激かつ長期にわたって低下したために、一般の労働者が生産性向上に見合った賃上けを交渉する力が乏しくなった。

アメリカの労働市場に加わる圧力を増幅した第二の原因は、インフレと連動してこなかった最低賃金である。

第三に、アメリカの労働政策は前時代の遺物である。議会はアメリカの労働政策および社会政策を現代化することを怠り、直接雇用の従業員に与えられていた従来の保障を、数が増えつつある契約社員や臨時職員やギグワーカーに拡大してこなかった。

アメリカの労働市場に加わった圧力の第四の原因は、保護措置が取られないまま自由貿易が拡大されたことだった。

３章　テクノ ロジーとイノベーション

今回の調査から出てきた主要なテーマは三つある。第一に、AIとロボット工学の応用は、安全性や生産に不可欠な用途においては特に、開発と配備に時間がかかる。
第二に、テクノロジーには仕事を奪う一方で人間の能力を増大させる面もあり、そこには多様な要因が絡む。
第三に、テクノロジーがどう配備され普及するかに対して組織は大きな影響力を持ち、それゆえに、組織に影響を及ぼす政策がテクノロジーをどう方向づけるかに対しても影響力を持っている。

４章　「よい仕事」のための教育と訓練

アメリカ人はヨーロッパモデルを融通が利かずコストが高いと考えがちだった。ヨーロッパモデルに対して、アメリカモデルは分権的である。州や連邦政府の機関は労働者育成の取り組みに調整役として関わることがほとんどない。企業は協力して労働者を育成するよりも、熟練労働者を奪い合う。

このような制度的特徴により、訓練を求める労働者にとって選択肢の質が不確かでわかりにくいという状況が生まれている。反面、このような事情から競争と創造的破壊が生まれやすく、労働者は人生の節���ごとに多様な教育, 訓練プログラムを柔軟に出入りできる。

アメリ力のシステムは分権的ではあるものの、既存の制度でもっと安定した、サポート力のある、革新的な労働者育成システムを構築する機会は豊富にある。アメリカの現行システムの分断された性格がほぼ変わらなさそうであっても、大多数の労働者にもっと役立つように現制度の改革と強化ができないわけではない。

他国で技能訓練システムにおいてさまざまなステークホルダー間の協力を促す堅固な社会契約がアメリカには欠けているが、質の高い訓練を大規模に実施するために今よりも強固な基盤を構築することは可能だ。本節では、今後重要になる三つの要素、すなわち財政支援、地域の関与、イノベーションを取り上げる。

財政支援：労働者が重大な岐路に立っている今こそ必要であるにもかかわらず、教育・訓練プログラムへの支援は全般的に縮小してきた。例えば、政府資金はコミュニティカレッジの収入の65%弱を占めるのみである。

地域の関与： 適切な管理以上に重要な要件がある。それは、雇用主、地域社会の団体および労働組合、政府と教育界のリーダーたちが、システムの構築と支援にそれぞれ関与することである。

イノベ—ション：この課題をクリアするには投資、制度改革、官民を挙げた地域全体の関与が必要だ。

認知心理学と教育学の研究が、オンライン教育に学習科学をどう取り入れるかの指針を多数提供している。常識的にわかるーつの教訓は、双方向的な内容に欠けたビデオ講義は学生が集中力を保ちづらいため、学習価値が低いことである。もっと優れたアプローチは、講義の途中に参加型の討論をはさんだり、プレゼンテーションを1 本約10分以下の「一口サイズ」の連続講義に再構成したりすること
だ。

二つ目の教訓は「望ましい困難」、つまり学習者が教材に多少手こずる状況を創り出すと学習効果が高まることである。他にも効果的なテクニックには、授業を分散して数週間ないし数カ月間にわたって学習の機会が発生し反復されるようにする、成績にあまり影郷しないテストとフィ—ドバックを頻繁に行って学習者の関与を増やす、などがある。これらの実践はオンラインプログラムに簡単に取り入れられる。

未来の労働者教育は、を搭載した個別指導システム、仮想現実および拡張現実、「ゲーム化」し、シミュレーションを利用した学習環境、協働学習ツールなど、出現しつつあるテクノロジーの能力を生かしたものになるだろう。これらのツールは今後ますます技能訓練の提供の中心になり、アクセスを拡大する新しい提供形態とうまく組み合わされるかもしれない。労働者がスキルを向上させ生涯学習を行う必要性が増す時代に、これらのツールは利用者層を広げ、低コスト化し、学習者の関与を高める可能性を秘めている。

５章　雇用の質をどう改善するか

アメリカの雇用の質に長期的なインパクトを持ちうる三つの重要分野に求められる政策変更を提言する。すなわち、(1) 失業保険改革、(2) 意味のある最低賃金規制の制定、(3) 団体交渉と企業の意思決定における労働者の利害関係者としての地位回復、である。

アメリカ人が他の先進国の人々以上に自動���の負の影響を心配していることは、明らかにアメリカの株主第一主義がもたらす社会的費用である。発展の恩恵に自分があずかれる保証はないと労働者は考えており、それは正しい。アメリカは市埸経済国の中で、純粋な株主資本主義ー企業のただ一つの目的は株主価値の最大化であるという考えーを崇拝する唯一の国である。

株主資本主義は、従業員を他の無形資産と同様に評価すべきである、つまり従業員には市場価格で報酬を支払い、企業にとって従業員の価値がコストを下回れば廃棄すべきであるとしている。この考え方によれば、解雇と工場閉鎖が個人と社会と公共にもたらすコストは意思決定において真剣に考慮するにあたらないことになる。株主資本主義がアメリカ経済の実り多いダイナミズムのー部に寄与しているのはたしかかもしれないが、純粋な株主資本主義は見直す時期が来ている。

６章　イノベーションを生む制度

アメリカでは、新しいテクノ ロジーの大半が連邦政府の支援を受けたプロジェクトから生まれる。現代の分析は1940 年代以降を対象とすることが多いが、建国初期から連邦政府は新しい産業を創出するテクノロジーの開発をきめこまかに辛抱強く支援してきた。

二つの世界大戦の戦間期には、NASAの前身であるアメリカ航空諮問委貝会(NACA) が重要な試験施設、データ、高技能人材を供給し、これらを土台とするまったく新しい産業がアメリカの軍事力と経済力の碧となり、扉用の大きな源泉となった。

連邦政府の研究開発が成功した理由には、ミッション志向であったこと(具体的な問題、特に軍事上の問題解決を目指した) と、基礎研究であったこと(基本的な現象の探究) の両面がある。政府はミッションを掲げた大型プロジェクトを組織することもあれば、必要なものを購入するために影響の大きな調達を行うこともあった。

アメリカの連邦政府の研究開発システムに分散と重一複があることは強みの一つである。
イノベーターと優れたアイデアが支援と助成を見つけるチャンスが複数あるからだ。研究開発インフラは広範囲に行き渡っており、国家目標の達成に多大な.貢献をしてきた。

アメリカのイノベーション力は驚異的で、 重要なイノベーションを無数に生み出してきた。前述したように、それには連邦政府の投資がかなり重要な役割を果たした。しかし近年は連邦政府の投資が減少し、アメリカがイノベーション力を今後ら維持し、国際競争上の大きな優位性を保てるのかどうかに懸念が出ている

７章　結論と政策提言

20世紀の経済の歴史は、健全な労働市場が皆の享受する繁栄の基盤となりうることを示している。うまく設計された制度は機会を育て、経済的保障を支え、民主的な政治参加を促す。アメリカは21世紀にこの基盤を再建することに本気で取り組まなければならない。制度を強化し構築し、新たな投資に着手し、仕事が大半の成人にとって良い人生を送るための柱であり、報われ、尊厳を保ち、経済的にやっていける手段であり続けるようにする政策を立案しなければならない。より衡平で持続可能なこのような経済の構築を支える基本的な柱は三つある。

技能と訓練への投資とイノベ—ションを実行せよ：
技術のイノベーションが起きるには、労働者にしっかりした基礎的技能と専門的な訓練の両方が備わっている必要がある。ところが、タスクフォースの調査によれば、雇用主から所与の年に何らかの訓練を受けた者はアメリカの労働者の約半数しかおらず、 しかも高学歴で非人種的マイノリティの労働者に偏って多い。新入社員、 現役社員、失業者を訓練するためのアメリカのシステムは現状では統一されておらず、質にもばらつきがある。ただし柔軟性はあり、そのおかげで労働者はキャリアのさまざまな時点でシステムを出入りできる。

雇用の質を改善せよ：
他国と同様にアメリカでも、四年制大学の学位を持たない労働者の雇用先として、伝統的に賃金の低いサービス職(飲食サービス、清掃・運動場整備、警備、娯楽・レクリエーション、在宅医療補助) の占める割合が増えている。このような職業に就いているアメリカの労働者は他の高所得国に比べて恵まれない境遇にあり、賃金は極端に安く、就業スケジュールは不規則で、雇用保障はないに等しいか皆無である。彼らが^ 用主の提供する医療保険、有給の家族都合、 医療休暇、バケーション休暇を利用できることはまれである。

イノベ—ションを拡大し、 方向づけよ：
イノベーションは仕事と富を創出し、 外国からの競争激化という課題に対応するための鍵である。アメリカは、 社会的便益を生み出し、 労働者から仕事を奪うのではなく労働者の能力を増大させることを目標にしたイノベーション課題に本気で取り組まなければならない。